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第十五話 予告「食糧危機ズリネタ発表会」

「あいつら、いつ来るんだろう……」


 自室のソファに寝転び呟く。我がパーティたちはまだ王都に辿り着いていないのか、または王に書状を渡すのに手こずっているのか。私のことは助けに来てはくれるのだろうか? まあいい生活をさせてもらっているし別に放っておかれても良くはあったが。


 いや良くない。誠に良くない。王の伴侶となることが決まってしまえば、私は毎日稽古漬けになると予想出来た。所作や振る舞いのマナーやら歴史やらそう言うものを大して容量の無い脳に詰め込まれることになる。誠に良くなかった。


 大体愛が芽生えたところでそんな面倒に打ち勝てるような愛を自分が抱けるのか甚だ疑問であった。私は甘えるのも下手だし、人の地雷は踏み抜くし、結構なポンコツである自覚がある。しかもノンデリであった。馬鹿を極めすぎているのだ。我ながらよく生きて来れたなと思う。


 にしてもだ。もうこの城に来て三週間ほど経とうとしていた。あいつら一体何処にいるのだ! と煮えを切らし、ソファから立ち上がった。部屋の扉へと近づき開け放ち、扉の横に居た妖精騎士、アガタに声をかけた。


「アガタ、ちょっといいか」

「構いませんが」

「うちのパーティって今、動き分かる?」


 視線が一瞬左上に向かったのを見、こいつ知っていたなと軽く歯噛みをした。そうして問い詰めることとし、薄く笑みを浮かべてアガタに話しかける。


「いやあ、残念だよアガタくん」

「な、何がでしょうか」

「知っていたのに教えてくれないだなんて、私の騎士なのに王と内密にしていたことがあるだなんて」

「そのようなものはありません」

「うちのパーティを捕らえたなら早く言って欲しかったのに」

「な! 何故知って」

「ああ、本当だったあ?」


 にた、と笑うとアガタはしまったとでも言いそうな表情となった。鎌をかけたが表情に出やすい辺りまだ若造なのだろう。恐らく私よりも歳上だろうが。


「で? 連れてってくれるよな?」

「無理です!」

「何言ってんの〜、拒否権あると思ってんのか?」

「う、ぐ」


 今現在私は王の伴侶候補だ。しかもこの国では尊ばれる黒である。色階はこの国では緩いのだろうが、それでも色は重要なものではあるのだと、ここに来てからも学んでいた。私を見るメイドたちや騎士の目には畏怖や羨望などが見てとれ、何かを望めばそれが手に入る立場にあった。まあ、後々の面倒を避けるために小さなわがままを言うくらいなものだった。庭を歩きたいだの、あれが食べたいだの、それくらいだ。


 妖精騎士にとって私は守護するべき尊いお方なのだ。私の話を拒絶出来る立場には無い。そう言うルールが、この城には蔓延っていた。嫌なルールだが、今は乗らせてもらう。


「わ、かりました。ただ、王に許可を頂いてから」

「アルベドが許可をするわけがない。今すぐに連れて行け。牢にでも入れているんだろう」

「……畏まりました」


 一礼をし、私は部屋の中で様子を伺ってたらしい側仕えに、アガタと共に出て来ると伝え、寄ってきたわたあめを抱き上げて部屋を後にした。


 黒を基調とした廊下は重々しい空気を作る。時たま掘られた紋様は妖精由来のものなのだろうか。美しい彫刻であったが、同時に不気味さも何故か感じていた。それは恐らく、この城に居る人間が自分だけだったからだ。


 人間の営みは途絶え、妖精たちの国へと移り変わったこの国は、正しき道を歩んでいるようには思えなかった。しかし、それは自身が人間だからそう考えることなのだろう。私は、今はまだ妖精たちと分かり合える心持ちにはなれなかった。


 王の心を溶かしてほしいと前を歩くアガタは言っていた。妖精の中でも王の振る舞いに思うところがあるやつは居るらしい。それは真の忠義か、はたまた反対に位置する感情なのか。それを聞くにはまだアガタとの信頼関係は浅い。アルベドに問うにも、アガタに問うにも、今はまだその時では無い。時間を必要とする問いだった。


 パーティのメンツが入れられている牢へと案内された。看守が案内をするとのことで、暗く、湿った空気を吸い込んでアガタと共に看守の先導についてゆく。そうして奥まった場所で足を止めた看守はこちらに、とひとつの牢を示した。


 四人全員揃っている。四人とも眠っているのか、私に気がつくこともない。外傷は見えず、危害は加えられてはいないのだと安心した。


「……よかった」


 ぼそりとそう呟き、牢の鉄格子を掴んだ手は自身の目元へと向かった。私なりに彼らに情はあったのだと、熱くなる目元に自覚した。


 そう長い旅をして来たわけでは無い。だが、妖精が蔓延るこの地に置いて、彼らは忌避されるべき人間なのだ。心細い思いをしたのだと思うと……いや、私が心細かったから、彼らも同じなのではと思ったのだ。


 王都であっても人間と知れば良い顔はされないだろう。辿り着いてから一体何があったのか。聴きたいことは山ほどあった。


 なんだか、皆やつれているような気がした。食事はどうしているのかと聞けば、看守は言い淀んだ。


「食事を与えていないのか?」

「……王の、ご命令です」

「……なら私がやる」

「は?」

「私が直々にやれば、王の反感はお前たちは買わない」

「で、ですが、どうやって……」

「こいつら起こしてくれ」


 看守にそう言えば四人がそれぞれ目を覚ました。結構乱暴な方法によって。電撃が迸ったと思うと悲鳴を上げて起きるのだ。看守を思わず睨むと怯んだような仕草を見せた。それにアガタも声を荒らげた。


「誰が魔法で強制的に起こせと言った! この方たちはハヤチ様の知人だぞ」

「も、申し訳ありません!」


 看守は謝りつつ、怯えたような目で私を見た。そんな目をさせたかったわけではない。が、私の立場上飲み込む他なかった。


「い、いてて……」

「よう、悪役令嬢お兄さん」

「その言い回しは、早池さん……」


 水戸場の顔を久々に拝んだ。私と同じ黒髪と黒い瞳の彼。美しいかんばせが少々薄汚れてはいたが、私を見てその目に光が灯ったこと、生きていたことに安堵した。はあ、とため息を吐くと他のメンツもやいやい言い出した。腕の中のわたあめもぴゅい、と鳴いて存在を示していた。


 一旦落ち着かせて私の現状を話す。攫われてから、この国の王に出会ったこと、わたあめが神鳥で私は王の伴侶候補として選ばれたこと。


「見なよ。マイラブリープリティゴッドバードわたあめを」

「掲げなくていいですから」


 その他少々細々としたことを話し、パーティは王都に辿り着いてからどうなったのかを聞いた。


 水戸場が代表で話し出した。


 まず、私が攫われてから乗り合い馬車で王都へとやって来たらしい。その後数日かけ、王へと書状をどう届けるかとなり、騎士団の団長になんとか繋いでもらい書状を渡したそうだ。


 だが一週間経とうとも返事がないとのことで、私の捜索と並行し、王の伴侶候補が現れたと聞き、私の特徴に合致していたため真相を知るため再び騎士団長に会ったそうだ。しかし人間だとバレて捕まり、一週間前からここに囚われて居るらしい。


「ハヤチ様、この方は」

「私と同じ黒だよ」


 アガタは水戸場を見て目を丸くしていた。以前存在は教えたが、本当に居たのかと言う驚きだろうか。


 ばさばさばかばか、と私の頭上から食物が降って来た。


「腹減っただろう。これ食え」

「それはありがたいですが、……あなたの立場はどうなるのです」

「私、伴侶になる気無いからなあ」

「はあ、そうですか。……正直似合わないですしね」

「正直すぎるだろ」


 水戸場の顔に安堵が浮かんだ。食事を摂れるからか、私の無事を確認したからか、まあその両方であれば良いと思ったが、今は食わせてやることに目を向けた。


「あ、これチョロギじゃん、一個くれ」

「たらふくご馳走を食べている癖に」

「ははは、私の出したものを私が食って何が悪い」


 ぱり、と包装を破って口に放る。アガタにも差し出すが、自分はいいと断りを入れられた。


「パンなり弁当なり、すぐに食べられるものが出てよかったな。カップ麺とかだと面倒」

「今は出来合いの弁当でも涙が出るほど美味いですね」

「……皆が無事で良かった」


 牢の鉄格子の前にしゃがみ込んで息を吐く。項垂れるとなんだか泣き出してしまいそうだった。


「水戸場、私ら、この世界に来てから色々あり過ぎたよな」

「……ええ、あなたは召喚されたてで殺されかけましたし、書状を持って鎖国している国に行けと拒否権もなく命令されましたし、おまけにその国は妖精たちの国となっていましたからね。人間だからと差別されると言うのも、不思議な心持ちです」

「……なんとかしてここから出せないか。王に頼んでみるよ」

「……ありがとうございます。早池さん」

「てことで、明日から食物を出すために通います。覚悟していろ」


 指を突きつけて四人を見る。不思議そうな顔ではあったが、食事にありつけた安心感からなのか少々緩んだ表情を各々していた。


「本当の食糧危機の時に発動しようと思っていたネタがある」

「それは?」

「名付けて、食糧危機ズリネタ発表会」

「最悪すぎるんですが」


 パーティのメンバーからは非難轟々であったが、今現在四人全員の食物を生み出せるかは、私が意外に感じるかどうかにかかっている。意外性を感じるためにはそれ相応の話題が必要であり、ズリネタ発表会はそれに大層適していた。


「じゃあな〜、ちゃんと用意しておくのよズリネタ」

「ハヤチの暴君だー!」

「もう、出たら覚悟しておきなさいな、ハヤチ」

「じ、自分は……うう」

「はあ……早めに王に話を通してくださいね」


 三者三様ではあったが元気そうな叫びを聞けて一旦は満足した。牢を出て日の光に目を細めた。そうして前を歩くアガタに話しかけた。


「最終的に、あの四人から聴き出せるズリネタが無くなったらアガタ、お前も参加するんだよ」

「なあ!?」

「だから、お前も協力することだな。王に直談判する手伝いを」

「うっ、ぐぐぐ……承知しました……」


 余程ズリネタを言いたくないと見える。いやそりゃそう。誰だって言いたくねえよこんなこと。と言うか本来私だって聴きたくはない。だが仲間の食糧危機に協力するにはそれ相応の覚悟がいるのだ。


 その後部屋には帰らずに、王の居室へと向かった。もう夕時だ。職務は終えて一時的に休んでいるだろうとの考えだった。アガタに案内をされながら、なんと言えば彼らを解放してくれるだろうかと考えた。

お読みいただきありがとうございます。

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