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9話


今朝もまた、私と殿下の登場に、食堂で働く者達の好奇な視線が刺さる。


きっと心の中は、(何で急に二人が?!)と疑問符で一杯だろう。


もちろん昨晩も私は寝台、殿下は長椅子で寝ていたし、シーツを替えるメイドには私と殿下の間に何もなかった事などお見通しなのだと思う。


しかし、流石、王族に仕える使用人だとでも言おうか、彼女達が全く無駄口を叩かないお陰で、私と殿下がそういう事をしているのでは?と勘ぐっている者も間違いなく居るようだ。


…例えば、私に付いている新人侍女2人の様に。


これはメリッサに聞いた話だ。


新しい侍女は朝、何故か夫婦の寝室に入ろうとしていたらしい。

メリッサが『それは貴女の仕事じゃないわ』と止めた為、諦めてくれたようだが、

メリッサは不思議がっていた。


私と殿下の仲を探っているのではないか。私は話を聞いてそう思ったのだが、メリッサには、『新人に目をかけてあげてね。何かあったら私に知らせて?』と言っておいた。


なんとか、彼女達を私から遠ざけたい。





私は殿下に呼び出され、彼の執務室へ居た。


またもや二人きり。



「マイラ、これ…教えてくんない?」

と私に書類を見せる。


「これは王太子殿下が治める領地の税に関わる書類ですね…あと、これは陳情書…」


殿下の言葉を借りるなら、彼は殿下ではないので、どうにも仕事が滞っていたらしい。


私は彼が絶対に目を通さなければならない書類と事務官に指示すれば良い書類、陛下に指示を貰わなければならない書類と、全てを分類していく。


そして彼がわからない事があれば答え、どうすれば良いかを指示していった。


…そう、単純に私の仕事が二倍になってしまったのだ。


「これでは、私自身の仕事が全く出来ません!」

と私が抗議をすれば、


「じゃあ、マイラの仕事もここに持って来て一緒にやろうよ!」

と殿下は能天気に答えた。


「私にも事務官が居るのです。その者も此処へ連れて来いと?」


「それでいいじゃん!夫婦なんだし、仲良く仕事しよう!俺の事務官とマイラの事務官、一緒に仕事して貰えばいいし」


…彼が別人だと言うのは、私以外に誰も知らない。いや…私もまだ半信半疑だけど。


なので、仕事も二人きり。

事務官は別室に居て、此処で処理した書類を持って行っているので、なかなか手間がかかる。

これでは仕事が滞るのも無理はなかった。


「殿下…これではいつもの半分しかこなせそうにありません」

と私が愚痴れば、


「でも、俺がフェルナンドじゃないなんて事を言ったって誰も信じない。少しずつ俺も仕事に慣れるから、もう少し…」

と殿下が言いかけたその時、


ノックの音がして、殿下の側近である、カインが、


「殿下、ロードスター公爵がおみえで御座いますが、お通ししてもよろしいでしょうか?」

と声を掛けて来た。


思わず私と殿下は顔を見合わせた。


殿下からハロルド様が黒幕だと聞いてから、私は初めてハロルド様と相対する。


少し…緊張してしまいそうだ。



殿下の許可を得て部屋へ入ってきたハロルド様は、私の姿を認めると目を丸くした。



「これはこれは、妃殿下までご一緒とは…。お噂は本当だという事ですかな?」

と、急に笑顔でハロルド様は殿下に言った。


噂ねぇ…エレーヌ様に聞いたのかしら?


「あぁ。一緒に仕事をしてるんだ。今後、もうずっとマイラと仕事しようと思ってて。

で、ロードスター公爵は何の用かな?」

殿下も笑顔でハロルド様に答える。


二人とも笑顔なのに、何だか怖い。


「妃殿下と一緒に?流石にそれは…」

と苦笑いのハロルド様に、


「別にいいだろう。俺はマイラと一緒の方が仕事捗るんだし。

そんな事より、用件を」

と殿下はハロルド様に先を急かした。


ハロルド様は私の方をチラリと見ると、


「殿下にだけお話したい事が…」

と言葉を濁した。


…父の件だろうか?


私が、


「殿下、私は自分の執務室に…」

と言い掛けると、


「マイラに聞かれて不味い話とかあるの?」

と殿下はハロルド様へ問い返した。


「不味い…というか…」

とハロルド様は口ごもる。


これは間違いなく私の父の件だろう。


「じゃあ、ここで話せば?」

と明るく殿下は言うと、


「マイラは俺の隣に。ロードスター公爵、座ったら?」

と自分の隣の席をポンポンと叩いて私を呼んだかと思うと、今まで私が座っていた席をハロルド様に勧めた。



しかしハロルド様は、


「いえ。殿下もお忙しい様子ですので、また出直しますよ」

と笑顔ながらも、着席を拒否した。


殿下はそれに構わずに、


「出直しても無駄だよ。俺はこれからマイラと執務室を共有しようと思ってるんだ。

だから、ここに俺が居る時にはマイラも一緒に居るものだと思って貰って構わない。

今言わなければ、言う機会なくなっちゃうけど、大丈夫?」

と笑って言った。


その言葉に私も目を丸くする。

いつの間にか、私がここで一緒に仕事をする事が殿下の中では決定しているようだ。


もちろんハロルド様も驚いたのは私と同じ。


「殿下…いつの間に妃殿下とそんなに仲良くおなりになったのです?

こんな事を私の口から言うのは何ですが…今まで…妃殿下とご一緒している所など、殆んど見かけた事がありませんでしたが?」

とハロルド様は訝しげに殿下を見た。


殿下はその視線に気づいているのかどうかはわからないが、


「妻と仲良くして何が悪いんだ?

それとも何か?俺がマイラと仲良くする事がロードスター公爵に不都合でもあるのか?」

とサラッと核心を突いたような言葉を発した。


ハロルド様は慌てて、


「まさか!そんな!不都合などある訳ないじゃないですか。妃殿下はゆくゆくは王妃となるお方。大切にされるのは当たり前です」

と取って付けたような笑顔と共に言葉を返した。


…正直わざとらしい。


ハロルド様は急に態度を変えた殿下の真意を探るように、


「もしや殿下、エレーヌ様と何かあったのですか?」

と訊ねた。


エレーヌ様と連絡を取り合っている筈のハロルド様だが、エレーヌ様が何か隠していると勘ぐっているのかもしれない。


「いや。別に何もないが?

俺は今までの自分の態度を反省しただけだ。

マイラを蔑ろにしていた自分の態度を改める事にしたんだ。

だって当然だろ?守るべきはマイラであって、エレーヌではない」

そう殿下は言い切ると、ハロルド様に、


「この場で言えない事なら、胸に秘めて帰ったらどうだ?

俺はマイラと一緒でなければ話は聞かない」

と暗に『用がない者は立ち去れ』と言わんばかりに冷たく告げた。


ハロルド様はその態度にカチンと来たのか、


「ふぅ…。わかりました。

今回の私からのお話を聞かなかった事を後悔しても知りませんよ?」

と少し脅すように言うと、


「では、私は失礼させていただきます」

と踵を返し、部屋を出て行った。



また殿下と2人きりになると、私は、


「よろしかったのですか?あんな風に煽って」

と殿下の態度を嗜める。


まだ私だって殿下の話を丸っと信じた訳じゃないのだ(何となく丸め込まれている感じは否めないが)私の事を信じ過ぎではないだろうか?


「良いよ。これで明日…荷が届いた時に、ハロルド自らやって来るかどうかだな。

俺が居たらびっくりするだろうけど…あ、マイラ、頼んでいた事…どうだった?」


「一応、父に手紙を出しましたが…まだ返事は…。それに可能であっても数十分かと」


「そうだよなぁ~。まぁ、明日の事は明日にならなきゃわからない…っと。さぁ、今は仕事!仕事!」

とまた書類に目を通し始めた殿下は、『これってどう言う意味』と私に分からない箇所を指し示しながら問いかける。


この人…ついこの間まで『助けてくれ!』って言ってた人?


肝、座りすぎじゃない?


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