38話〈最終話〉
「マイラが向こうの世界で身につけていた物より、ずっと安物だし、宝石……って言って良いかわからないぐらい小さな石だけど…」
と言いながらハヤトは私が摘まんだ指輪を奪うと、私の左手を取ってその薬指に指輪をはめた。
私は指輪がはめられた左手を掲げるようにして眺める。
「可愛い」
「……可愛いね。うん。まぁいいや。実はさ、指輪には意味があるんだよね」
「意味ですか?」
私は自分の左手を眺めるのをやめ、ハヤトの顔を見た。
「なんかさ、あっちで色んな体験して、年老いて。人生の結末を迎えちゃった気がしてるんだけど、ここでの俺はまだ大学生で、これから就職して、働いて……って人生二周目を生きていく気持ち。でもその中でぜーんぜん変わらない気持ちがあるんだ」
「気持ち……」
「うん。それは、マイラを好きだって気持ち。正直もうそれは何十年も変わってない。そしてこれからも変わる事はないって確信があるんだ。だから……俺が大学を卒業して、無事に社会人になったら結婚してくれない?」
そう言ったハヤトの顔は少し赤かった。
「はい!私もハヤトとずっと一緒にいたい。よろしくお願いします」
と私は笑顔で返事をした。
そして、ふと疑問が湧く。
「……で、指輪の意味とは?」
と尋ねる私に、
「あ……説明するの忘れてた……」
とハヤトは呟いた。
その後、ハヤトは結婚を約束したら指輪を贈るのだと説明してくれた。
まだ学生だからこんな小さな石の指輪しか贈れなかったけど、給料を貯めてもっと豪華な物を贈るからと言うハヤトに、私はこれで十分だと答えた。
それから三年後。私達は結婚した。
結婚式は家族だけ。私に家族は居ないので、何故か店長さんが私とバージンロードを歩いた。
「どうして店長さんが泣いているんですか?」
と私をエスコートしながら、号泣している店長に小声で尋ねる。
「ヒック……だってマイラちゃんがお店辞めちゃうって言うから」
……あ、そっちですか。
教会で式を挙げた私達を皆が祝福してくれた。ハヤトと千秋の家族はとても優しくて、どこの馬の骨ともわからない私を受け入れてくれた。
皆の笑顔を見ながら私は、
「結婚式って……素敵な物だったんですね」
と私が微笑めば、ハヤトは
「マイラは……二回目だろう?」
と少し意地悪そうにそう言った。
「あの時は、だれも笑顔ではなかったので。私も含めですが」
「……そうか。じゃあ、前のは忘れて今日を楽しもう。……マイラ。幸せにするから」
とハヤトが私を抱き締めた。
すると、チアキが、
「あーっ!またイチャイチャして!!」
と私達に指を指す。
「別にいいだろ!!好きなんだから!」
と私を抱き締めたまま言い返すハヤトに笑みが溢れた。
そして私は
「一緒に幸せになりましょうね。もう離れるのはいやですから」
とハヤトの腕に抱かれながらそう言った。
二度と会えないと思っていた。
この幸せをもう手離す事はしない。
私は幸せを噛み締めながら、ふとフェルナンド殿下に想いを馳せた。
彼にも幸せになっていて欲しい。
「……今、別の男の事、考えていただろ?」
と何故か勘の鋭いハヤトの声が聞こえる。
私は、
「いえ。別の男じゃないですよ?……ある意味同じ男性です」
と笑った。
-Fin-




