36話
『ピンポーン』
という玄関のインターホンと同時に何故か鍵が開いた。
……この部屋の合鍵を持っている人物。そう、それは殿下と私、そして私がお願いして持って貰っていた……
「マイラちゃん!!!無事!?」
と転がる様にチアキが部屋へと入ってきた。
後ろで店長が、
「千秋……靴……」
と目を丸くしているのが見える。
チアキは、私とハヤトの間に割って入ると、
「ちょっとあんた!!マイラちゃんに何したのよ!何で今さら、うちの店で働くなとか言ってんの?!どんだけマイラちゃんに助けて貰ったんだよ!何?此処を出て行かれたくないなら、あんたがちゃんとマイラちゃんに向き合って、二人で気分良く暮らせる様にしたら良かったでしょう?店辞めさせたからって、マイラちゃんが此処を引っ越す事は変わらないから!!!」
とハヤトの胸ぐらを掴んでハヤトに食ってかかった。
「ちょっ!!おい!苦しい!千秋、離せ!」
「チアキ!違うの!とにかくハヤトを離してあげて!ちゃんと説明するから!」
と私はチアキの腕を掴む。
玄関からは、
「おじゃましまーす」
と少し呑気な店長の声が聞こえる。カオス。
「あんたに千秋って呼ばれたくないのよ!あんたがマイラちゃんへの気持ちを拗らせてるから、マイラちゃんも此処で暮らせなくなったんでしょうよ!」
とチアキはガクガクとハヤトを揺らす。
「あーあ。千秋、とりあえず落ち着け。ほらマイラちゃんがオロオロしてるだろ?」
と店長は穏やかにチアキの腕を掴んで、ハヤトの服をギュッと握っていた掌をゆっくりと引き剥がした。
やっと自由になったハヤトは、
「お前、相変わらず力がつえーな!苦しかっただろうが!兄を殺す気か?」
「なーにが『兄』よ!あんたとは赤の他人よ!!」
「だから、俺は……!」
と二人がまた揉め始めた所で、
「ストーップ!!」
と店長が大きな声を出した。
言い争っていた二人がその声に固まった。
その機を見て、私はチアキに、
「チアキ、ハヤトです!彼は間違いなくハヤトですから!」
とハヤトの肩を掴んで揺らした。
「は?どういう事?ハヤトって……お兄ちゃん?!あいつは?フェルナンドは?!」
と混乱するチアキに、店長は、
「お前達……頭大丈夫?」
と心配そうに呟いた。
「異世界転移……?」
聞きなれない言葉に店長は首を傾げたまま固まった。
ここまできて、店長に事の顛末を話さない訳にもいかず……かといって理解して貰えるとも思えなかったのだが、私達は自分達の身に起こった出来事を話して聞かせた。
「理解……出来ないですよね」
私はこんな話を信じて貰える方が奇跡だと思い控え目にそう言った。しかし、
「ふーん。OK!理解した!」
と店長は胡座をかいた膝を打った!
「え?理解?」
と私が目を丸くすると、
「俺が想像出来る範囲外の事も起きるって事だよな!いやー人生って面白いわ」
と店長はニコニコしている。
店長……凄いわ。呑み込みが早い。……異常に。
「ま……まぁ、そういう事ですね」
と私は戸惑いながら返事をした。
そんな私達を尻目に、ハヤトとチアキは何やら不穏な空気だ。
「千秋、お前、なんでメイド喫茶で働いてる事を俺に黙ってた?」
ハヤトの前で何故か正座しているチアキは、
「だって……反対されると思ったから」
「当たり前だ!」
と言った瞬間、ハヤトは店長を見て、
「あ、いや…あのそういう意味ではなくて……」
とバツが悪そうにした。
すると店長は、
「まぁ、誤解してる人ってのも一定数いると思うんだよ。知らない物とか馴染みのない物に偏見を持つ人もね。そう思っても仕方ないと思うけど、出来れば店を見てからにして欲しいかな」
と微笑んだ。
「そうよ!うちの店は健全!安心安全!だから、お兄ちゃんが心配するような事は何もないの!」
と援軍を得たチアキが生き生きしてそう言えば、
「なら、黙っておく必要はなかっただろ?そう胸を張って俺に『ここでバイトしてます!』と言えば良かったんだ!」
とハヤトは不機嫌そうな顔をした。
「で、では!ハヤト、一度お店に来てみませんか?」
と私がこの空気を変えようと明るく声を掛ければ、
「俺が?客として?」
とハヤトは目を白黒させる。
「そうです!一度お店を見て貰えば、きっとハヤトも納得出来ます」
「そうよ!自分の目で確かめれば良いじゃん!」
とチアキも私の提案に乗ってきた。
「それが良いよ。……ところでさ、マイラちゃん、結局どうする?部屋」
と店長が少し訊きにくそうに私に尋ねる。
……あ……忘れてた。




