表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/38

33話

直ぐに洗面所から飛び出してきた殿下は、私の肩を掴んで改めて顔をじっくりと見ている。

そしてもう一度私を抱き締めた。今度は壊れ物を扱う様にそっと。


私は唖然としたまま固まってしまう。明らかに殿下がおかしい。


殿下は私を抱き締めたまま、


「マイラ……俺だよ、ハヤトだ。会いたかった。良かった……生きててくれて。ありがとう……生きててくれて」

と私の名前を噛み締めるように声にした後、私にお礼を言った。


え?ハヤト??ハヤトってハヤト?

殿下の悪い冗談ではなくて?って言うか、殿下が冗談なんて…そんなの聞いたこともない。……ということは、


「ハヤト?本当に……ハヤトなの?」

と私は彼の腕の中でそう尋ねた。



私はもう一度部屋に戻りテーブルの前に座ってハヤトと向かい合った。

荷物は玄関に置いたままで。


私とハヤトはお互い、馬車が襲われたあの夜の後について話をした。

ハヤトはあの後、リオン様へ話をしに行ったのだそうだ。

その勇気が出たのは、私が居なくなった事が切っ掛けだったとハヤトは話す。


「マイラとはぐれて俺は決めたんだ。あの世界に行った時には、とにかく何とか生き延びる……それが目的だった。だけど、君は居なくなった。俺は俺の命を優先して君を……犠牲にした」


「ハヤト、それは違うわ。ハヤトはちゃんと一緒に逃げようとしてくれていたじゃない。あれは私の独断よ」


「それでも!君が俺を助ける為に犠牲になった事に変わりはない。俺は、ハロルドを許す事は、もう出来ないと思ったんだ」


ハヤトの話は続く。


「その後、リオンにハロルドの悪事を暴きに行った。最初は信用してもらえなかったよ。だけど、彼は自分の出自に前々から疑問を抱いていた。それを話した時、彼は俺に協力してくれる事を約束したんだ」


その後の話は私がさきさんの漫画で読んだ通りだった。


「俺は『なんちゃって王太子』だ。貴族の振る舞いも出来なければ、その為の教育など受けてない。それに反してリオンはハロルドが元々王太子にしたくて、そういう教育を施されてきた人物。どっちが国の為になるかなんて、考えなくてもわかるだろ?だから、俺はリオンに王太子の資格を譲った。ハロルドもエレーヌも……処罰を受けた後だがな」


「そうだったの……。大変だったのね」


「結局……三年も掛かってしまったが、なんとかリオンを王太子……いや、国王にする事が出来たし、俺は離宮へと引っ込んだ。その方が都合が良かったんだ……君を捜すのに」

とハヤトは俯いた。


「私を……?」


「あぁ。あれからずっと、ずっと捜してた。

あの山から、川が流れ着く海、そして隣国まで。

君が居なくなったという現実は俺にとって、とても受け入れがたいものだったんだ」

そう言うハヤトの目は心なしか潤んでいるように見えた。


私は、


「ごめんなさい。貴方がそんなに心配をしてくれているとは、思ってもみなかった。私はあの時、貴方を助けたい一心で」


「俺がもっとよく考えていれば……と何度も思ったよ。君の手を離さなければ良かったともね。でも俺が生きていれば、いつの日か君にまた会えるんじゃないかって……」

と言うハヤトの手を私はそっと握った。


「会えたわ。こうして。違う世界でも、ちゃんと貴方に会えた」

と言う私の目に涙が溢れた。


「まさか……俺の世界に君が転移しているなんて」

と言葉に詰まるハヤトに、私はふと疑問に思った事を口にする。


「ねぇ。私はきっとあの世界での存在が消えて…この世界に来たと思うの。でも……ハヤトは?ハヤトもあちらの世界で……」

死んでしまったの?という言葉はどうしても言いたくなかった。


すると、


「いや。あちらの世界で俺はもう六十歳ぐらいにはなってたと思うんだ。最近は体のあちこちにガタは来ていたが、死んではない……と思う。この世界に帰って来る前は確かに高熱が出て……床に臥せっていたけど」

というハヤトの言葉に、私の頭の中に恐ろしい考えが浮かぶ。


「ハヤト!ちょっと、ちょっと待ってて!!」

と私は震える手でスマホを取り出すと、ある番号へと電話をかけた。



「さ、さきさん?!ごめんなさい、急に。まさかとは思うけど、あの漫画の続きを描いてる?!!」

と私は向こうの言葉も聞かず、一気に自分の用件を捲し立てた。

スマホの向こうから、戸惑ったようなさきさんの声が聞こえる。


『えっと…まいちゃん?あ、そうなの。あの後、続きを描いてみようかなぁ~なんて思って。数十年後…みたいな形で描き始めたの』


「!!!もしかして…殿下いえ、フェルナンド元殿下は病気で亡くなるとか、そんな結末を考えてない?」


『あら、良く分かったわね。今、ちょうどその場面を描き始めた所。ベッドの上でフェルナンドはマイラへの謝罪を口にしながら、死んで……』

とサラりと言うさきさんに、私は、


「ダメ!!!!絶対にダメ!!フェルナンド殿下を殺さないで!死ぬなら老衰で!そしてそれまでは幸せな人生を歩ませて欲しいの!」

と懇願する。


私の推測が正しければ……ハヤトと殿下は再び入れ替わったのだ。で、あれば殿下は向こうで既に終末を迎えようとしているという事だ。

それは流石に殿下が可哀想過ぎる。昔の私なら、彼がどうなろうと心を痛める事はなかったかもしれないが、この世界で過ごす内に、情は湧いていた。

死ぬためにあちらに戻る……というのはあんまりだ。


私の勢いに押され、


『え……あ、うん……分かった。分かったけど…やっぱりまいちゃんってフェルナンド推しなんだ』

とさきさんは困惑した様にそう言った。


この際、誰推しだって構わない。すると、さきさんは続けて、


『じゃあ…マイラも生きていた事にしちゃう?で、フェルナンドと仲直りして……』

などと言うではないか。それは困る!


「ちょっと待って!!私……じゃなかったマイラはもう亡くなったままで構わないから!フェルナンド殿下だけ!ね、お願い!」

と私は自分があちらの世界に復活しないよう、重ねてさきさんにお願いをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ