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32話


私は酔っ払って眠ってしまった殿下に布団をかけ直した。

寝顔を見つめる。


前の世界でも殿下はよくお酒を嗜まれていた。


「こんなになるまで飲むなんて……」

私はポツリと呟いた。

……私が明日此処を出ていく事と、何か関係があるのかしら?


私からはいつ引っ越すのか、という具体的な日時を殿下に話す機会はなかった。もしかしたら、チアキにでも聞いたのかもしれない。

少しは寂しいと思って下さったのだろうか?……なんて、調子に乗りすぎかしらね。



ベッドを殿下に譲った私は、床に寝袋を用意してそれにくるまった。

固い床では、明日の朝には体が痛くなってしまいそうだが、この部屋で寝るのも最後だと思えば、この固さまで愛しい。


私はこの世界に来てからのあれやこれやを思い出しながら、天井を見つめた。そのうちに眠気に負けていつの間にか瞼を閉じて眠りについていた。


「いたた……」

体の痛みに目が覚めた私は体を起こした。

案の定、体が痛い。スマホを確認。6:35だ。


「そろそろ起きようかな」

相変わらずの独り言の多さに、つい1人で吹き出した。


簡単に朝食を食べる。殿下はまた眠っているようなので、なるべく音を立てないように身支度を整えた。


部屋を見渡し忘れ物がないか確認する。


殿下を起こして挨拶するのは憚られる。テーブルの真ん中に書いた手紙を置いておいた。ここなら直ぐに気づいて貰えるだろう。


私は昨日、この部屋に殿下を連れ帰ってくれた秋山さんを思い出す。

良さそうな人だった。私が心配しなくても、殿下もこの世界でちゃんと暮らしていける事だろう。


私は荷物を詰めたカバンを手に持った。

少し早いが此処を出よう。


そう思って扉の方へと足を向けた時、


「………誰だ?」

と声がした。

この部屋には私と殿下しか居ない。


私は殿下の寝ていたベッドの方へと振り向いた。


上半身を起こした殿下が目を丸くして、私を見つめている。

そして彼は、


「……マイラ???」

と戸惑ったように私の名前を口にした。



殿下はベッドから飛び降りると真っ直ぐ私に駆け寄る。

といっても狭い部屋だ。殿下は直ぐに私の元へ来て私の腕を掴んで……急に抱き締めた。


「ちょ……ちょっと!何をなさるんですか?!」

私はその腕から逃れようと、体を押すもびくともしない。

今まで殿下から、体の接触を求められた事などなかったから、私は驚いてしまった。居なくなると思ったら、急に大胆になったのだろうか?!


「生きて……生きていたんだな。今までどうして顔を見せてくれなかったんだ!」

と殿下は私を抱き締めたまま、そう言った。

その声には悲しみと安堵と戸惑いが入り交じっている様だった。


私もその言葉に疑問が浮かぶ。どうしたと言うのか?

会おうとしなかったのは自分の方ではないか。……まだ寝惚けているのだろうか?


「で、殿下……とにかく離して下さい」

と言いながら、私は何とかその体勢から逃れようと、体を捻る。


「殿下だなんて……前の様に名前で呼んでくれよ」


前の様に?私は殿下を名前でなど呼んだ事はない。……もしかしたら、記憶に残っていないぐらいの幼少期に呼んだ事があるかもしれないが。


「私、名前で呼んだことなど御座いませんが?」


「へ?俺が名前を教えてからは、2人の時はずっと呼んでくれていたじゃないか」


……何だろう。話が噛み合わない。


ふと殿下の腕の力が緩む。私はその隙にグイッと両腕で殿下の胸を押した。

私よりずいぶんと上にある顔を見上げる。

そこには、目を見開いた殿下の顔があった。


「どうなさったのです?」

「何でそんな格好を?」

と私達は同時に口を開いた。

そして、殿下は徐に、周りを見渡す。すると、慌てたかの様に自分の顔や体を何かを確認するように触ったかと思えば、そのまま私を置いて走って洗面所へと飛び込んだ。


私はその様子を唖然として見守る。殿下……お酒の飲み過ぎでおかしくなっちゃったのかしら?


すると、洗面所から


「マジか!!!!」

という大声が聞こえた。

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