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27話

あれから、私と殿下の間には見えない壁が出来た。

別に喧嘩をする訳でもないし、仲良くする事もない。


私の心が狭いのだろうか。いや…もう考えるのはやめよう。


ある日のバイトでチアキから、


「そう言えば!マイラちゃん、あの漫画の結末、気にしてたよね?」

と言われ私もハッと思い出した。

そう、あの漫画がどうなったのか…私はそれが知りたかった。エレーヌ様の復讐は……そして、彼女は復讐の果てに幸せになったのか。

殿下とのギクシャクした関係に気をとられ忘れる所だった。


「はい。私はハヤトから途中までしかお話を教えていただけてなくて。エレーヌ様がリオン様の正妃となって、そこでリオン様と恋に落ちる…と」


「お兄ちゃん…うろ覚えね。フェルナンドが殺されて、マイラちゃんが処刑される。そこまではOK?」


「はい。そこまでは理解しております」


「で、マチルダ王妃は気を病んで療養。側妃を娶った陛下は側妃に言われるがまま、リオンを王太子に、エレーヌを王太子妃にするつもりで動くのよ。でもここでハロルドにもエレーヌにも想像していなかった誤算が生じるの。リオンがエレーヌを拒否するのよね」


「え?リオン様とエレーヌ様が恋に落ちるのでは?」


「エレーヌは確かにリオンに恋をするの。リオンはとても賢くて逞しくて…THEヒーローって感じなのよね。フェルナンドなんかと比べ物にならないくらい」


…確かに。リオン様は見た目は少しワイルドだが、容姿端麗で、騎士でもあるから逞しくて、頭も切れる。殿下が勝ちそうな所は………ないな。


「エレーヌ様がリオン様に惹かれるのは納得です。リオン様は素晴らしい方ですし、殿下なんかより国王に相応しいとも思います。…でも何故リオン様はエレーヌ様を拒否なさったのでしょう?」

と私が首を傾げれば、


「リオンには幼馴染みの女性がいるの。リオンはその人が好きなのよね~。でも、その女性は子爵令嬢で二人の恋は周りから反対されててね。なので、リオンは王太子になる代わりにその女性との婚姻を望むのよ~。でも、ハロルドにまたもや反対されちゃうって訳。

エレーヌはそれを知って、リオンを自分に振り向かせる為にあの手この手を使うって…そんな感じ」


…エレーヌ様って主人公なのよね?なんだか、あんまり感情移入し難いキャラクターじゃない?これって今の流行りなのかしら?


「では、リオン様はエレーヌ様に惹かれ始める…という事でしょうか?」

と私がチアキに問えば、


「今から二人の仲がどうなるか…って所でさぁ…実は作者が連載辞めちゃったのよ」

というチアキの言葉に私は目を丸くした。



「では…そのお話の結末は…」


「残念ながら、読めないのよねぇ。正直、リオンが良い人過ぎて、エレーヌとくっついて欲しくない!って人が読者に一定数居たの。リオン推しの人としてはその幼馴染みと結ばれて欲しい!みたいなね。

でも、ヒロインはエレーヌだし………ってなってた所で作者の方が体調を悪くして、無期限休養ってなっちゃったのよ」


チアキの話によれば、その作者の方は他の作品の連載も全て休止してしまったのだそうだ。


「あ!でも、リオン推しの人でその漫画の二次創作を描いてる人がいたなぁ。

その人、エレーヌがあんまり好きじゃなかったみたいで、原作とは全く違う話を描いてたんだよね。それが結構面白かったの覚えてる。

確か…殿下が殺されたと思っていたら、実は死んでなくて…みたいな」

というチアキの言葉に、私は、


「え!?そんなお話を描いていらっしゃる方が?」

と反射的に答えていた。何かが私の中で閃きそうになる。


「うん。絵も上手くて……ってマイラちゃんどうしたの?そんな真剣な顔をして…」


「チアキ、その方の作品はどうやったら読めますの?!是非、教えて下さい!」

と私はチアキの両腕を掴んでいた。


「えっと…同人誌描いてた筈なんだよなぁ…でも、私、ネットで読んだ気がするんだけど…名前、何だったっけ?」


チアキは私の勢いに圧され、その作者と作品を探してみると約束して、その日のバイトを終えた。


心に何か引っ掛かる。何だかモヤモヤするのだ。


家に戻ると、殿下はまだ帰宅していなかった。最近は殿下の帰りが遅い事も多い。

私と一緒に居る事に気まずさを感じているようだ。


私は正直、前に王宮で殿下と顔を合わせた時の気まずさに比べれば、今の方がましだ。

エレーヌ様を連れた殿下に王宮で鉢合わせた時なんて、出来れば逃げ出したくなるぐらいだった。実際、そんな無様な事をした事はないけど。


洗濯物を畳んでいると、スマホが鳴った。

殿下からのメッセージが入る。

今日は遅くなるから、夕食は必要ないとの事だった。

なるべく私と顔を合わせないようにしているらしい。


私達の同居もそろそろ限界なのかもしれない。

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