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23話

「ここ…は?」


「うん?私のバイト先。店長、新しい子紹介するって言ったら、めちゃくちゃ喜んじゃってさ」

とチアキに案内されたバイト先。


バイトというのは時間給で働く事らしいのだが…


「何故、皆様お仕着せを?しかもあのお仕着せでは給仕しにくいのでは…?」


私がびっくりしているのは、ここで働く女性が皆、フリフリのレースたっぷりのお仕着せを着ている事だった。

その上、スカートが短すぎる。足が丸見えだ。あれでは給仕の時に下着が見えないか、気になって仕方ない。


「あ~。ここ、『メイド喫茶』だからねぇ」

とチアキは言うと、


「店長~!!昨日電話で話した子、連れてきたよ~!」

と背の高い男性に声を掛ける。


シャツにバンツにエプロンを付けたその男性は、笑顔でこちらに近付いて来ると、


「お~めちゃくちゃ綺麗な子じゃん!すげぇ。え?外国の方?」

と言って、私を見る。


私は何と答えたら良いのか分からず、チアキを見る。


「えっと…ハーフ!そうハーフなんだけど、日本語ペラペラだから大丈夫!

でも、日本に来たばっかりでさ、分からない事多いと思うけど、優しくしてあげてよ」

と、チアキはその『店長』と呼ばれた男性に嘘だらけの私の紹介をした。


「OK!OK!全然優しくするよ~こんな可愛い子なら何でも許しちゃう!で、お名前は?」

と男性は私に笑顔を向けた。


「マイラと申します」

と私が名を名乗ると、


「マイラちゃんね!へぇ~本当に日本語上手だね!それに、なんか上品だ。

俺はここの店長の要。入江 要。君なら直ぐに顧客が付くよ!絶対人気者になる!」

とその要と名乗る男性は私に手を差し出した。

その手が握手を求めていると理解するまでたっぷり10秒程かかってしまった。


平民と握手をするなんて…初めてかもしれない。

いや…初めてじゃない。…ハヤトが居た。


思わずハヤトの事を考えてしまいそうになり、私は軽く頭を振ってから、店長の手をそっと握った。


チアキは基本的に運動部の練習が休みの日にしか働いていないのだと言う。


「良くて週に一、二回しか働けないのよ。ここ、個人経営の店だけど、給料良くてさ。…実はお兄ちゃんには内緒にしてたの」

とチアキは私にウインクしてみせた。


「どうして内緒に?」


「うーん…お兄ちゃんってさ、変な所で心配性だからさぁ」

と少し上を向いて何かを思い出しながらチアキは話した。


「え?…まさか…このお店は…そんな如何わしい?」

と私が不安そうに訊ねると、


「違う、違う!ここは全く健全なお店です!お客さんも良い人ばっかりだし。

お兄ちゃんが変な偏見持ってただけ。

というか、お客さんの中にはメイドの子に真剣に恋しちゃう人とか居るからさ。

ストーカーとか…そんなのを心配したんだろうけど、私、そんな人気者じゃないから!

私を指名してくれるお客さんって何て言うかなぁ…友達感覚?みたいな人ばっかりだし」

と明るく笑うチアキは、確かにサバサバしていて、少し男性的だ。


「なるほど。でも、そんな風に明るいチアキだから良いって言うお客さんが居るのは納得します」

と私が微笑めば、


「え?照れちゃう。でもありがとうね。きっとマイラさんは、直ぐ人気者になるよ!絶対!」

とチアキは自信満々で言った。


しかし…私には一つ心配な事がある。


私、既婚者だけど…此処で働いて良いのかしら?



「メイドって大変なんですね…」

私がシュンとした表情でそう言うと、


「マイラさんの世界のメイド…とは定義が違うから!そんな落ち込まないで!!」

とチアキは私を慰めてくれた。


「いえ…何と言うんでしょう…『ノリ』?でしたっけ?

私には皆様のようにお客様を満足させる事は到底、出来ないように思うのです」

私はますます落ち込んでしまう。


私はチアキや店長に教わりながら、初日2時間のバイトを終えた。

正直、あんなにメイドの仕事が奥深いものだと思わなかった。

私が今まで見知ったメイドとは訳が違う。自分に()()が出来るのか…不安になる。

すっかり落ち込みながら、帰路に着こうとした私に、


「ねぇ、賄い食べてかない?私もバイトの時は寮のご飯断ってるんだ。

店長、見た目はチャラいけど、料理の腕は良いから。このお店の人気の一つが店長の料理だし」

とチアキは言った。


「でも…殿下が待っているので…今日は私が鍵を持ってて。

私が帰らないと、殿下がお部屋に入れないのです。お誘いいただいたのは嬉しいのですが…」

と申し訳なさそうにする私に、


「あの男が困っても、別に良いと思うけどね。だって…ずっとあの男に虐げられてきたんでしょう?」

とチアキは口を尖らせた。


「それは確かにそうですが、この世界では協力し合うしかないので。これから先、どうなるのかわかりませんが」

と私が言えば、


「……お兄ちゃんとマイラさんって…」

とチアキは訊ね辛そうに私に声をかけた。


「ハヤトと私は協力して、なんとか漫画のストーリーを変えよう、私達の未来を変えようと必死でした。

漫画では…私は処刑されてしまう運命でしたが、私はそれよりも前に…。

きっとハヤトの運命も変わった筈…そう信じています」

と私が言えば、


「お兄ちゃんと仲良くしてくれてたのね。…ありがとう」

と何故かチアキにお礼を言われた。


「いえ。お礼を言うのは私の方です。

ハヤトには父を救っていただきましたし、冤罪で処刑されるより、運命に抗って命を落とす方がよっぽどマシでした。

…それに何故か今、こうして生きていますし」

と私が肩を竦めれば、


「本当に…不思議な話よね」

とチアキは首を傾げた。


そこに、


「ほい、ナポリタンお待たせ。あれ?マイラちゃんも食べて帰れば?」

と店長が賄いを持って休憩室に現れた。


「いえ。待っている人がいるので」

と私が言えば、


「え?!マイラちゃん彼氏いんの?かぁ~!じゃあ俺、チャンスないじゃん!」

と店長は大袈裟に落ち込んでみせた。


チアキはそれを見て、


「店長。マイラさんには冗談通じないから!本気にしちゃうから程々にしてあげて」

と店長からナポリタンの皿を受け取りながら言った。


しかし、店長は、


「別に冗談なんかじゃないけど。まぁ…こんだけ美人なら、仕方ないよな。

…でもマイラちゃんお客さんには、男付きなの内緒にね?ほら…メイドは夢を売らなきゃだから」

と私にウインクしてみせた。


私は既婚者だと言う事を、絶対に内緒にしようと、心に決めた。

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