21話
「何故そこにハロルド様が出てくるのです?」
確かに…王妃に『フェルナンドの初恋は貴女よ~』的な事を言われたが、私は今までこの男に屈辱的な扱いしか受けた事がない。
この部屋の前で倒れていた私を助けてくれた事だけは感謝しているが、下着姿を見られた事は癪に障る。
殿下はチラリとチアキを見る。
するとチアキは、
「漫画の中で、フェルナンドはエレーヌに夢中だったわよ?いつもエレーヌとべったりだったもん。
自分の妃のマイラを冷遇していたし、ほら…マイラのお父さんの薬の密売を暴いたのだって、エレーヌに良い格好したかったからじゃん?」
と私に同意するかの様に補足した。
「は?薬の密売?何の話だ?そんなものは知らん!
まず…私がお前を婚約者にと自ら選んだんだ!
だけどお前は……って、何でこんな訳の分からん女の前で、こんな話をしなきゃならんのだ!」
と殿下は顔を赤くしてそっぽを向いた。
お父様の件が起こる前に殿下はハヤトと入れ替わったのだから、その事を殿下が知らないのも無理はない。
チアキの前では話し難いのか、殿下はそれきり黙ってしまった。
そんな殿下にチアキは、
「『訳の分からん女』って…。お兄ちゃんの顔と声で言われるの、なんかムカつくんですけど!?」
と少しむくれた。
「マ、マンガかなんか知らんが、私は今までハロルドの言う事に従っていただけだ。
『女に甘い顔をするな。少し冷たいぐらいが丁度良い』とな。
マイラ…お前は私に会うといつも固い表情だっただろ?私はお前に嫌われていると思ったから、ハロルドに相談していたんだ。少し冷たい男の方が…モテると言われた」
と殿下はまた不貞腐れたように言う。
「婚約者になった当初、私が固い表情であったのは、緊張していただけです。
でも、そんな私に『無愛想で可愛くない婚約者は要らないと』仰ったのは殿下ではないですか。
それに、お茶会をすっぽかされたり、顔を合わせる度に暴言を言われたりすれば、自然と表情が無になるのも、当たり前ですわ」
と私が反論すれば、
チアキはそれに対して、
「え?女の子にそんな事言うなんて、最低!!」
と殿下を睨み付けた。
「そ、それは、私も…緊張してしまって。お前が婚約者に決まったと…そう言われて嬉しかったんだが…ハロルドから『あまりニヤけてはいけない』と。王太子としての威厳を保つように言われたんだ!それに、女と言うのは、逃げる者を追いかけたくなるものなのだろう?ハロルドがそう言っていた」
……威厳と言うものを勘違いしてないかしら?
でも…何でそんなにハロルド様の言いなりなの?
自分の脳ミソで考えたりしないのかしら?
それを聞いたチアキは、
「はぁ?何それ。あんた担がれただけじゃない?
だって、実際、マイラさんとは仲が拗れたままだったんでしょう?
そのアドバイス何の役にも立ってないじゃん」
と殿下の話を一刀両断した。
殿下は『グッ』と言葉にならない音を発した後に黙り込む。
二の句が継げないようだ。
チアキはそんな殿下の様子を気にする事もなく、
「それに、エレーヌと浮気したのは事実でしょう?それを今さら…」
と呆れたように続けると、殿下は慌てたように、
「それもハロルドに言われたんだ!
ヤキモチを焼かせる為に他の女を作れと!嫉妬は恋のスパイスだと言われたんだ!
学園で、最初は適当に女と遊んでいたが、エレーヌが『マイラ様を本気で振り向かせたいなら、私が協力いたします』って言ってきて…」
と言った。
エレーヌ様は…殿下の気持ちを知っていて…近づいたって事?
ハロルド様はそこまで見越して…私と殿下の仲を婚約者になった当初から邪魔していたと?!
凄すぎない?そして、それにまんまと嵌まる殿下も馬鹿じゃない?
私がその言葉に驚いて考え込んでいると、
「ばっかみたい!それで他の女と浮気したって?!そんなので、奥さんに愛想つかされないとでも思ったの?あんたって脳ミソ空っぽ?
それに…結局、エレーヌともヤってたんでしょう?
それなのにマイラさんを好きとか信じられる訳ないじゃん!」
とチアキはまたもや辛辣な言葉を殿下に投げつけた。
チアキの言う事は最もだ。
「そ、それは!へ、下手だと…その…マイラに嫌われるから…」
と殿下はモゴモゴと何か言い訳をしている。
それにもチアキは、
「はぁ?きっっしょ!!他の女で練習してたって?マジでキモいわ」
と顔を歪めた。
『きっっしょ』とか『キモい』という言葉の意味はわからないが、嫌悪感を表しているのは良くわかる表情だ。
殿下もチアキの嫌悪感を感じとったのだろう
「な、何だその顔は!私は、私は…私なりに考えて…」
としどろもどろになりながらも言い訳を重ねる。しかし、
「なぁ~にが『私なりに考えて』よ!どうせそれもハロルドの差し金でしょう?マジであんたって頭空っぽね」
と殿下に言い放った。
チアキの意見に私も完全に同意だ。
彼女とは気が合いそうな気がする。




