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17話

私は自分が座っていた座面を持ち上げ、そこから、少し短めの剣を取り出した。


「それは?」

ハヤトは馬車の底に開いた出口に片足を掛けた格好で訊ねた。


「護身用の剣です」

私が言葉少なに答えると、


「俺、そんなの扱えないけど?」

と困惑した様子でハヤトは言葉を口にした。


「私が扱えます。言ったでしょう?私はお転婆だったんです。さぁ、早く外へ」

と私は早口で答え、ハヤトに外へ出るように促した。


その最中も、扉を壊す音がする。

ハヤトは頷くと出口へと体を滑りこませた。私もそれに続く。



体を低くして馬車の車体から外へ這い出す。崖の方へ。


そして反対側をそっと見ると、馬車の下から数人分のブーツを履いた足が見えた。


そして少し向こうに転がされている男。

きっと、さっき私達に声を掛けてきた護衛だろう。…絶命しているのは間違いないようだ。


私は思わず目を閉じる。


敵は数人。…ハヤトが崖を降りるまで見つからずに済むとは思えない。


私は、決心した。


まだ二人とも背を屈めたままだが、車体の下から這い出て、反対側の斜面へと足を踏み入れる。


雨でぬかるんでいるが、思ったより急な斜面ではない。

しかし木が多く、さらに雨が降っている事で視界は真っ暗だ。


「マイラ大丈夫か?」

小声で訊ねるハヤトに、


「怖いから、先にハヤト降りてくれる?私、その後を付いていくわ」

と私は頷いた。


「わかった。あまりゆっくりはしてられないが…気をつけて」

と言うハヤトは私に背を向けた。


「…ハヤト…ごめんなさい。約束…守れないわ」

と私は小声でハヤトの背中に呟く。


雨の音で私の声は届いていないだろう。

ハヤトは私が付いて来ていると信じて前を向いて進んで行く。


私の頬は濡れていた。雨なのか…涙なのか…。


私は息を大きく吐き出すと一気にハヤトとは反対側…馬車の方へと駆け出した。


死ぬつもりはない。


私は馬と馬車を繋ぐハーネスを外すと、馬を木からも外した。


そして、敵の前に姿を表した。


敵は山賊のような格好をしているが、まるで騎士のような体躯だ。きっとハロルド様の手下なのだろう。


「どこから!?」

と言った男の横の男が、


「捕まえろ!いや!殺しても構わん!」

と私に剣を向ける。


敵と私の距離は数メートル。

私は馬に飛び乗った。


そして、


「お前達がハロルドの手の者なのはわかっている!証拠もある!この事は絶対に明らかにしてみせるからな!」

と叫ぶ。

これで敵は私を追って来る筈だ。証拠なんてないけど、ハッタリは肝心。


私はそう言うと同時に馬を走らせた。


敵の数は…五人。その内の四人は私を追ってきた。


これでハヤトが逃げる時間稼ぎになれば良い。


目指すは従者達の乗った馬車。

そこにはさっきの男の様に、ハロルドの手下ではない護衛が居る筈だ。


ハヤト…絶対に生き残ってね。


私、多分、貴方が好きだった。


ほんの数ヶ月だったけど、私の灰色の人生に色がついたもの。


その内の一人が私の横に並走する。向こうは私を殺す気満々だ。剣を私に向けて来た。

私は自分も剣で応戦する。


片手で馬に乗りながらでは、剣先をいなすので精一杯だ。


兎に角、この山を降りなければ。


しかし、その時、大きな雷の音に馬が激しく反応した。


馬が前足を高く上げた拍子に私は馬から投げ出される。


敵の馬も同じように暴れている。私はそれをスローモーションの様に眺めていた。


一瞬、息が出来ない程の衝撃が体を走る。

投げ出された拍子に体を強く打ち付けた。


ここであいつらに殺される訳にはいかない。


私は痛みに耐えながらも、立ち上がりフラフラと崖の方へと歩きだす。


雨で前が見えない。


体がバラバラになりそうな程痛い。

私は斜面に到達した途端バランスを崩して、そこを転がり落ちていく。


色んな物へと体を打ち付けながら…私は意識を手離した。



「…おい。大丈夫か?」


誰かが私の顔を覗き込んでいる気配がする。


腕を動かそうにも、節々が痛い。


痛みを感じる…という事は…私、生きているのかしら?


私はゆっくり瞼を開こうと努力する。

ずっと暗闇にいた私は眩しさに顔をしかめた。


少しずつ明るさに慣れてきた…。私はしっかりと目を開く。


そして私を覗き込んでいる顔を見る。


………誰?!!



私は驚いて体を急いで起こそうとするも、体が痛くて思うように動かせなかった。


「痛っ…」

と私が小さく呻くと、


「だ、大丈夫か?急に動くな。お前は倒れていたんだから。()()()


私を覗き込んでいる黒い瞳に黒髪の男性はそう言った。


聞き間違い?いや、確かにこの男性は私の名を呼んだ『マイラ』と。


私は起き上がる事を諦めて、


「貴方は…誰?何故私の名を?」

と少し掠れた声でその男性に言った。


私は目の前の男性に見覚えがない。


私の国ではあまり見かけないタイプの顔だ。イーストザルト王国の出身なのだろうか?

少しのっぺりとした顔は、イーストザルト王国には多いと聞く。


「何を言ってるんだ。当たり前だろう。

私は君の夫なんだから」

と目の前の見知らぬ男性はそう答える。


……?空耳かしら?おっと?夫?それとも似たような別の言葉?


私が瞬きを繰り返していると、その男性は続けて、


「部屋の前にお前が倒れていた。しかも泥だらけで。

仕方ないから部屋に入れたが、ドレスは汚いから捨てたぞ」

と言う。

私は慌てて自分に掛かっているシーツを捲り、


「ギャッ!」

と叫ぶ。


自分が下着姿なのに驚いた。この男がドレスを脱がせたという事か!


私はもう一度シーツでしっかり私の体を隠すと、


「何と無礼な!私は…」

と自分が王太子妃である事を告げようとして止めた。


この男が敵か味方か未だ判断出来ない。

安易に自分の正体を明かす事は命取りだ。


私のその気持ちが表情に出ていたのか、私は無意識にその男を睨んでいたらしい。


その男は私の視線を受け、


「に、睨むなよ。今さら下着姿なんて…どうでも良いだろ。夫婦なんだし。

それに、そのまま外に放って置けば良かったって言うのか!?泥だらけのドレスを着た婦人なんて…結構重たいんだぞ!」

とその男は拗ねたように言った。


重い?!


「失礼な!私は然程重たくありません!!」

つい好戦的な物言いになるのは許してほしい。

だって乙女心が傷ついたのだから。



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