13話
「はぁ…何だか今日は疲れたわ」
仕事が終わり私の部屋でドスンと座った私にメリッサは、
「エレーヌ様、今日はどうなさったんでしょうねぇ。
いつも周りには良く見えるように猫被っていた筈なのに。
最近、殿下とマイラ様が一緒に居る事に不満爆発って所でしょうかね?」
と私に言った。
「え?エレーヌ様が猫を被ってたって……メリッサは何で知ってたの?」
と私は驚く。
私なんて、殿下からの話を聞くまで全然気づいていなかったのに。
普通に人当たりの良い女性だと思っていた。
「知ってた…って言うか、わかりますよ。あの人の目…笑ってないですもん」
「そう…私は…最近それを知…気づいたの。
確かに…今日のエレーヌ様の瞳…。怖かったわね。
殿下がもう離宮へ通わなくなって1ヶ月以上ですものね」
と私が言えばメリッサはそっと私に近づき小声で、
「あの…その…殿下とは…何も?」
と言い難そうに私に訊ねた。
「な!何って、何よ?!な、何もないわよ!」
と私は慌てて否定する。慌てすぎて噛んだ。
「マイラ様…動揺し過ぎです。顔も真っ赤ですよ?本当に何もないんですか?」
とメリッサは疑わしそうに私を見た。
「な、無いわよ!私と殿下は…そんなんじゃないわ」
夜は一緒の部屋で休んでいるけど、相変わらず、殿下は長椅子、私は寝台で寝ているし、そんな雰囲気を感じた事もない。
メリッサは、
「そんなんじゃない…って、一応夫婦ですけどね」
と笑う。
確かにそうだ。夫婦なんだから、別に私と殿下がそんな風になったって誰からも咎められる事はない。
…正直なところ、今の殿下…ハヤトの事は嫌いではない。
仕事は1度教えたら大体理解するし、話しやすいし…そして何より優しい。
そんな事を考えていると、メリッサが、
「マイラ様?なんだか顔が少し赤いようですわ。熱でもあるのでしょうか?」
と私の額に手を当てる。
私はそれに思わず、
「だ、大丈夫よ!何でもないから!」
と慌ててしまった。
殿下の事を考えていて顔が赤くなっていたなんて…自分でも信じられない。
あんなに嫌いだったのに…。いや、嫌いだったのは殿下であってハヤトではない…ややこしいけど。
私は軽く頭を横に振って、私の頭の中から、殿下の事を追い出す。
そして、
「さぁ…休む準備をするわ」
と言って、湯浴みに向かうのだった。
「これ…エレーヌからだとさ」
と殿下が私の目の前に酒の瓶を置いた。
「間違いなく…毒が入ってますよね?」
と私が言えば、
「だろうな…一旦調べるように依頼したんだが、『安全です』ってさ。嘘くせ~」
「と言う事は、毒味の者もハロルド様の手の者と言う事ですか?」
と私がため息をつくと、殿下はその酒の中身をバルコニーからぶちまけた。
「俺が離宮へ行かないから、痺れを切らしたんだろうけど…四方八方敵だらけだな」
と殿下は吐き捨てた。
「殿下…随分と長く毒をお飲みになってますよね?体調はいかがです?」
私が心配になって訊けば、
「うーん。今の所、どこか痛いとか、悪いとかいう事はないみたいだけど…王族ってのも大変だよな。
小さな頃から慣れる為に少しずつ毒を飲んで耐性つけるとか…俺の世界だったら立派な虐待だぞ」
と殿下は顔をしかめた。
「…殿下の…いえ、ハヤトの生きていた世界ってどんな世界なのですか?」
私はふと、今までのハヤトを知ってみたいとそう思った。
「ん?俺の世界か。ここよりずっと文明が進んでるから、便利っちゃ~便利だよ。
水は水道捻れば出るし、夜でも電気があるから、暗くない。
スマホって言う小さな板みたいなのを皆が持ってて、それさえあれば遠くの人とも繋がれるし、違う国の情報だってリアルタイムで手に入れられる。その弊害もあるっちゃ、あるけど」
「そんな世界が…まるでお伽噺のようですね。1度で良いからこの目で見てみたいです…まぁ…それは叶いませんけど」
と私が目を丸くすれば、
「そうだな…でも、マイラにも見てもらいたいかも。多分、ビックリしてずっと口が開きっぱなしになるだろうな」
と殿下も笑う。
私はそこでふと疑問が湧いてきた。
「殿下…いえハヤトはこうして殿下の体に魂が入っているじゃないですか?では……もしかしたら殿下の魂はハヤトの体の中に?」
そうなのだ、ハヤトの魂が入った事で体から追い出された(?)殿下の魂は何処へ行ったのか…。この事象がハルトが言うように『入れ替わり転生』なるものならば、殿下の魂はハヤトの体に入っている事になるのではないだろうか?
私の疑問に、
「そうか…そう考えるとそうだよな。ってか、あいつ、ちゃんと俺として生活出来てんのかな?…心配になってきた」
とハヤトは肩を竦めてみせた。
フェルナンド様は…今頃どうしているのだろう?




