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4.結末


 ここ最近のジャビカ・タショレーイは貴族令嬢らしい美貌がすっかりやつれ変わり果てていた。

 所長からは研究成果の売上が良くないとせっつかれ、頼みの綱であるライカ・チュージには毎週振り回される始末。


「悔しいけど……こうなったら……話すしかないわ」


 ジャビカは貴族としてのプライドがへし折れる音を聞きながら、平民のゼオラロ・カイチに頭を下げた。


「黙っていてごめんなさい。実は私……ライカをクビにしていたの! でも私のしたこと間違っていたわ! 彼はこの研究所にいなくてはならない人材なの……連れ戻すのを手伝って!」


「どおりで休暇が長いわけだ」


 ゼオラロはそう言って、考え込むように黙り込んだ。


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「あ……あの。ゼオラロ?」


 しばらく待っても返事がないので思わず声をかける。


「え、なに? ライカのことはわかったから、さっさと向こう行ってくれ。気が散る」


「ぐっ……ぎっ……そ、そう。よろしくね……」

(なんなのこいつ! 「はい」か「いいえ」くらい言いなさいよ! この私に敬語も使わないし! まったくどいつもこいつも生意気なのよ!)


 ジャビカは頼んでいる立場だ。恨めしげに睨んで引き下がるほかなかった。






「美味すぎる。さすが美食の国イムア……」


 ライカはと言えば、新たな土地で料理に舌鼓を打っていた。


 職場を追い出されて早半年。貯金にはまだ余裕があるとはいえこの旅はどこかで切り上げなければならない。

 結局旅の最中もライカが考えるのは魔法のことばかり。これができたら、あれができたらと思いつく限りをノートに記していたらすっかり2冊目まで書き切ってしまった。


「また魔法の研究がしたいなあ……」


「すればいいじゃないか」


「そんなこと言ったって。魔法研究所ほど充実してる場所は他にないよ。唯一国から支援金をもらってる研究所な、の…………に!?」


 頬杖をついて外を眺めていたライカは、バッと目の前を見た。当然のようにゼオラロが座って鍋の具材をよそっている。


「ゼオラロ!? なんで!?」


「ジャビカ室長がお前を連れ戻せってさ」


「いや、え? だとしてもなんでここが? どうやって?」


「転移魔法を開発した。研究室に落ちてたライカの髪を媒介に座標を特定した」


 ライカはぽかんと目と口をかっぴらいたままゼオラロを見つめる。


「まさかお前がクビにされてたとは知らなかった。葉書を送ってくるから長期休暇でも取ったのかとばかり」


「ああ……ぼくが追い出された日は休んでたもんね。心配かけないようにと思って葉書を送ってたんだけど……」


「悪かった」


 ゼオラロがそう言うので、ライカは首を傾げた。


「俺はお前に甘えすぎていたらしい。俺は自分じゃまともに体調管理もできなかったし、ライカが簡略化した術式じゃないと使い物にならないと給料まで減らされた。俺は周りのことがぜんぜん見えていなかったんだ」


 ライカはぶんぶんと首を横に振る。


「謝るのはぼくのほうだ。ぼくは自分だけじゃなにもできなくて、いつもゼオラロの研究に手を加えることしかできなかった。旅行中に開発したい魔法がいくつもあったけど、どうすればいいのかまったく思いつかなかった。甘えていたのはぼくだよ」


 2人で譲れないとばかりに見つめあっていたが、しばらくして耐えきれなくなってどちらともなく笑い出した。

 学生時代からの友人だったから、もういちいち言葉にしなくたって伝わるだろうと思ってコミュニケーションを怠ってきた。


「お互いさまだ」


「そのようだ。これからもよろしく頼むよ。……共同研究者さん?」


 伸ばされた手を取って立ち上がる。


「帰ろう。早く出国の手続きを済ませてきてくれ。俺はいま不法入国者だからな……」


 その爆弾発言にライカは慌てる羽目になったのだった。






「ごめんなさい、ライカ。あなたに戻ってきて欲しいの」


 一体この世で何人が貴族令嬢のつむじを見れるだろう。

 ライカは下げられた頭を見てそう思った。


「そう……ですね。では、条件がふたつあります。それを受け入れてくれるなら、ぼくは喜んで研究所に復帰しましょう」


「ええ。なんでも聞くわ」


 言質は取った。ライカは貴族の権力で揉み消されないことを祈りつつ口を開く。


「まず、ゼオラロの給料を戻してあげてください」


「わかったわ」


「そして、ジャビカ室長。あなたは室長の座から降りてください」


「わか……え?」


「辞めろとは言いません。ですが、あなたはいち研究員として下っ端からスタートする必要があるのではないかと思います」


「そ、れは……」


「どちらにせよあなたは今回研究所を騒がせたことで責任を取らなければならないんですよね? 悪くない落とし所かと」


 ジャビカはほとんど権力とコネで室長に登りつめた。別になにも永遠に下っ端でいろと言っているわけではない。ただ、純粋に実力で頑張って欲しいと言っているのだ。


 彼女は苦しそうに顔を歪めたあと、俯いて言った。


「わ……わかったわ……」






 こうして、ライカたちの属する研究室では別の者が室長となった。

 ライカとゼオラロは正式に手を組んで、2人で議論を交わしながら毎晩研究に明け暮れている。

 2人はいずれ王国が誇る研究者タッグとして名を馳せることになるだろう……。


 ジャビカはといえば、ライカとゼオラロの下について補助を行っている。なにか思うところはあるようだが、今のところ文句は言っていない。魔法の腕自体は悪くないのでこれからに期待したいところだ。





 世の中あらゆる分野において、0から1を生み出す者たちがスポットライトを浴びがちだ。もちろん、生み出す者たちは類い稀なる天才だ。

 だが忘れてはいけない。いつの世も社会を発展させるのは、1を10にする者たちのはたらきがあってこそなのだ。彼らが居なければ、才能ある者が日の目を浴びることだって無いのかもしれないのだから……。





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