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●6 悪魔は大事に囲う。(ゼノヴィス視点)

5話が抜けていますが、Rシーン回なのでわざと抜いてます。ミスではありません。……多分。



ゼノヴィスの独白。





 対価なんて、本当に100年からの孤独から救ってくれただけでよかったのに。



 自分が貪欲な悪魔だったなんて、初めて知った。

 どちらかといえば、無欲な悪魔だと自負していたくらいなのに。



 契約していた侯爵が欲張って、俺の力を好きに使いたいがために封印された時、初めは焦らなかった。

 悪魔と人間。こん比べすればどちらが勝つなんて、目に見えている。侯爵が老いか病気に恐怖すれば、そのうち泣きつくだろうと思って、真っ暗闇の扉越しの問いには応えなかった。

 でもやがて、問いは聞こえなくなった。

 しばらくして、侯爵は死んだと察した。

 証拠に悪魔祓いらしき呪文が聞こえたっきり、静かになった。


 無音の闇に、オレは取り残された。


 何日も、何ヶ月も、何年も。独りきりだ。


 やれることは、魔力を練って溜め込むことくらい。いずれ出られた時に、今度は封印されないために。

 でも、その出られる時が、いつ来るのかわからない。

 来るのかさえ……確信が持てない。


 侯爵が死んだのは、今までの悪事がバレて処刑されたからだろう。なら、色々調べ尽くされたはずだ。

 オレが封じられたことも。その理由さえも。

 悪魔祓いの呪文は効かなかったが、行われたということは、ここに封じられた悪魔を出して願いを乞う者は現れやしない。事実が葬られるのが落ちだ。せめて、近くで悪魔召喚の儀式をしてくれれば……。しかし、ここは少し郊外の別荘。侯爵が処刑されたなら、新たな買い手もなく、周りから人もいなくなるはず。望みは薄い。


 暗闇の中。

 ただ、呆然と、魔力を練り、溜め込む。

 それの繰り返し。


 悪魔だから、何十年過ぎようが、正気だ。それが苦痛でしょうがなかった。

 無音だ。何も見えない。

 闇の中に溶けて、消えればいいのに。もう、オレに実体はないのかもしれない。

 なくてもいい。

 どうせ無欲なオレは、ここから出たところで、何かあるわけでもない。


 悪魔は人間に取引を持ちかけたり、娯楽で騙しては誑かす魔族。オレは特に生き甲斐など持ち合わせいなかったのだから。

 でも封印されているからこそ、消滅も出来ない状態だった。

 生き地獄だ。


 そんなオレは、声を聞いた。

 一体何十年ぶりだろうか。

 扉の向こうで、声がする。耳をすませば、僅かに少女の声がしたのだ。しかも、ブツブツと悪魔召喚の儀式の手順を確認している独り言を口にしている。



 出してもらえるんだ……。

 希望を抱いた瞬間。



 その声に導かれて扉を開けば、悪魔召喚の儀式の魔法陣の中に、貴族令嬢らしき可憐な少女がいた。


 蝋燭の光を反射させる白銀の髪はストレートに下して、やや猫目の大きな赤い瞳を持つ美しい少女。


 こんな少女が一体全体どうして、悪魔召喚なんてしたのか。愛想よく笑いかけて聞き出した。

 何十年ぶりかの対話だから、浮かれてもいたのだ。



 彼女、ディナは、数奇な運命に巻き込まれた不運な少女だった。

 初対面の、しかも悪魔のオレに引っ付いて、泣きじゃくった。三回も死を経験した哀れな少女をあやす。

 泣いている子をあやしつつも、人の温もりが心地よくて、癒されてしまった。

 しっかりしがみつく感触が、もう独りじゃないと思わせてくれる。

 オレをいい悪魔だと言って頭を撫でてくれたことに、キュンと胸の中がわし掴みにされた。



 どういう仕組みかはわからないが、殺されては時が戻り、また殺されてしまう運命から逃れたいなら、助けてあげたかった。

 オレは100年もの間、封印されていたらしい。

 ディナが思いつきで悪魔に頼らなければ、オレは200年も300年も閉じ込められたままだったかもしれない。その恩返しがしたい。


 100年の暗闇の孤独を味わったオレと、三回も死を経験して、三回目のやり直しをしているディナ。どっちが不運だろうか。きっとディナだ。

 そんなディナが、オレを助けたならば、オレもディナを助けたい。


 そう手を差し伸べたのが、始まりだった。



 でも、どういうわけか。

 ディナの全てが可愛い。

 とにかく全部が可愛い。


 最初の人生は貴族令嬢じゃなくて庶民だったというけれど、死に戻りを繰り返す二度目の人生で染みついた気品ある仕草のまま、砕けた口調でオレと遊び回るディナは最高に可愛かった。


 可愛さ余って、冗談でアプローチするような言動をしてしまうが、それも徐々に本気になる。

 だって、ディナが可愛いんだもん。


 一緒にいて楽しい。

 癒されるんだ。

 一緒に笑っていたいし、笑わせてあげたい。

 笑った顔が堪らなく好き。

 ディナが楽しむのが好きになった。ディナが感心したり感動するのが好きだ。ディナが驚いては噴き出して笑う顔が好き。ディナの全てが好きだ。


 だから、婚約解消した暁には、ご褒美にキスを求めた。

 オレのアプローチをのらりくらり冗談だとかわしていたディナが真っ赤になっておずおずと承諾してくれたのは、本当に可愛かった。デートならしてもいいだなんて、可愛い。嬉しい。


 婚約者が浮気しているから自分も、なんていうのは嫌だという善良なディナ。

 悪魔に頼るような人種の中では変わり者だ。悪魔にすがるしか方法が思いつかなかったし、魂関連で頼ったのは正解とも言える。確約はまだ出来ないけれど、死に戻りの何かしらの突破口を見付けられるなら、きっと悪魔ぐらいだから。


 否、()()()()()()()



 油断していた。

 明らかに異変を感じていたが、まさか、婚約者がディナを直接殺しにかかるなんて、予想していなかった。少なくとも、ディナを殺しに来る時期には話に聞いていたよりも早いし、明らかな殺人を犯すなんて考えられなかった。

 全部絶望的な後悔となって、胸の中を掻き乱す。


 胸に短剣を突き刺されて真っ赤な血を溢れさせるディナを受け止めた。


 ああっ、嫌だっ。ディナ、ディナ!


 叫ぶように呼んでもディナが返事をする間もなく、瞼が閉じられた。


 咄嗟にディナの魂にしがみついたのは、その時だ。


 連れて行くな。オレのものだ。

 その一心でしがみついた魂が何か強力な力で引っ張られたとわかっても、絶対に放さなかった。



 でも、パッとディナの魂は消えたし、オレは真っ暗な闇の中にポツリと独りきり。



 理解した。

 ディナの死に戻りに、巻き込まれて、オレも戻ってきたんだ。


 時間が巻き戻った。

 守れなかったけれど、ディナは再び目覚めた。


 安堵する。一緒に戻ってこれたんだ。よかった。一緒にやり直せる。


 安堵したあとは、憎しみを燃え上がらせた。



 よくも。よくも、ディナを殺したな……許さない。



 ディナの安全のためには、ヒロインをさっさと葬ってしまうことが手っ取り早いだろうが、それでは足りない。

 あの婚約者。ディナを裏切り者だと罵倒して刺殺したアレキサンド。楽に死ねると思うなよ。

 アレはディナが推測するように、外面はいいが自分の非を認められない見栄っ張りなクズ男だ。

 だから、ディナを裏切る真似は正当化するが、ディナの反撃に逆上した。



 許さない。絶対に許しはない。



 暗闇の中、魔力を練りながらも、復讐計画も練った。

 いかにアレキサンドとヒロインことミンティーを苦しめられるか。どれが効果的で、どんな手段なら掌握して追い込めるか。ディナの命は、もちろん最優先だ。

 あの二人は、社会的に殺す。

 婚約解消を認めなかったディナの親も痛い目を見てもらおう。そもそも、呼び出しに応じるしかなかったのは、あの父親に言われたせいだ。しょうがないとディナが許しても、オレは許さない。

 社会的に殺したら、悪魔の力で拷問して蹂躙してやる。


 ディナは三回もお前達に殺されたんだぞ?

 お前達は、実際に死なないだけありがたく思え。ただ、死にたくなるほどの痛みと苦しみを味わわせてやる。殺してくれと泣き叫ばせてやろう。満足するまで、何度でも。


 悍ましい計画を立てて笑みを深める自分は悪魔らしくなったと自覚した時、一向に開かない扉に疑問を抱いた。


 ディナが開けに来ない。

 死に戻ったのなら、真っ先に迎えに来てくれてもいいのに。


 ……もしかして、それはオレの思い込み?

 もうディナは、オレに頼ってくれない?


 サァーと、血の気が引いた。

 かつてないほどに恐怖して、オレは必死に魂の気配を覚えたディナを呼んだ。届くかどうかはイチかバチか。他に方法はない。


 嫌だっ。もう会えないなんて嫌だ。捨てないで、ディナ。出して。

 出してくれないと。ディナを助けられないっ。またディナが死に戻ったら、オレが覚えているかどうかわからない。お願いだ。来て。

 ここから出してっ! ディナ!!



「――――ゼノヴィス?」



 オレの名前を呼ぶだけで開かれた封印の扉。


 白銀のストレートヘアと猫目の赤い瞳のディナを、力いっぱい抱き締めた。


 八つ当たりしてしまったが、ディナはディナで、初めからオレと関係を築くことが虚しくて怖かったと泣いた。

 ごめん。ごめんね。オレのせいだ。

 オレの方こそ、オレのことばかりでごめん。


 柔らかなディナの髪に顔を埋めて頬擦りして、ギュッと細い身体を抱き寄せた。どれほど密着しても足りない。でも満たされるような気がして放せなかった。


 ディナが来ないかもしれないと思った一、二週間の方が、封印された100年よりよっぽどつらかったけれど、前回出してくれた時の感謝を伝えた。それからオレが、どれだけディナを想っているかも。前回は婚約解消が成立してから伝えようと思っていたんだ。

 もう我慢はしない。堪えたりしない。後悔はしたくないんだ。


 触れた唇は溶けそうなくらいふわふわと柔らかくて、美味しかった。

 ずっと味わいたくなってしまいたい。小さな口の中を知りたくて、舌を這わせて探って、甘い唾液を吸って飲み込んだ。


 美味しい。美味しい、美味しい、オレの愛しい人。


 その唇で、オレを好きと言ってくれるディナに、キュンと胸が締め付けられた。

 オレも好き。大好き。愛してるんだ、ディナ。


 ちゃんと決着をつけたら、オレと生きて? ディナ。

 ずっと生きてくれるよね? オレのディナ。

 悪魔のオレの伴侶として、未来永劫、生きれば、死に戻りの心配もないんだから。いいよね。


 ディナはもう死なないから、大丈夫。オレがずっと守るよ。

 愛してる。愛してる、オレだけのディナ。



 


ヤンデレな溺愛悪魔。


ヤンデレ悪魔らしい報復を目論みつつ、甘々に愛する。



2023/12/25

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