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4/14

○4 悪魔の熱い想い。






「……」

「……」


 少し沈黙すると、ゼノヴィスはそっと頬を撫でてきた。


「どうして? ディナ」


 優しく尋ねるから、ポツリポツリと吐露する。


「ゼノヴィスと、またやり直すのが怖かったの……虚しいだろうから……。それが繰り返されるなら、余計……私は心をすぐに壊してしまうと思って……ごめんなさい」

「ディナ」


 ポロリと涙も落ちた。


「ごめんなさい、自分のことばっかりで。ゼノヴィスは100年もここに閉じ込められたのに……私が出さなきゃもっと閉じ込められる……本当にごめん。せめて、出してあげに来ればよかったね。前回、いっぱい助けてもらったのに」

「違う。違うよ、ディナ。そうじゃない」


 私の目元を拭うゼノヴィスは、首を振った。


「オレと言うイレギュラーをみすみす手放しちゃだめでしょ、また死ぬことになったかも。そしたら、オレは前回を覚えていないオレだったかもしれない。だから……ごめん、怖かった。初めは準備で遅いだけかと思ったけれど、前回オレが助けられなかったから、他の手段を選ぶのかと思って、焦って呼び続けたんだ。魂の形を覚えていたから、なんとか届いてよかった」

「……頭、痛かった」

「えっ、それはごめんっ」


 頭を、なでなで。痛かったよ、ホント。何日も。


「オレは、前回と同じオレだよ。ディナが好きで、婚約解消が成立したら、ディナにちゅーしたかった悪魔だよ」

「んっ」


 すりすりと頬擦りしてくるから、くすぐったい。


「ディナ……本当にこの中は酷い孤独なんだ。時間の経過もわからないくらい、真っ暗で、やることなんて魔力を練り上げて貯め込む以外、なかったんだ。あと何年、閉じ込められるかもわからない気が遠くなる恐怖。悪魔だから、気が狂うなんてそう簡単でもなかったから、余計苦痛で。だから、オレは……本当に本当に、感謝しているんだよ? ディナ」


 ゼノヴィスの両腕が、ギュッと私を抱き締めてくれた。

 それは今まで聞いていなかったゼノヴィスの苦しみ。


「あの暗闇から救い出してくれた君への恩は、絶対に死に戻りの運命から救うことだって決めてたのに……ごめん。あんな……あんな油断で、ごめんっ……。今回は、絶対に死なせない。もう殺させない。守る。守るよ、ディナ」


 私の首元に顔を埋めて、顔ずりして、ギュッと締め付けるゼノヴィス。



「君を救うから、対価に君をちょうだい」

「ゼノヴィス……」

「君の全部をちょうだい、ディナ。君が好きなんだ。大好き。愛しているんだ」



 甘く告げるゼノヴィスは、うっとり熱く見つめると、唇を重ねてきた。

 だめだと頭ではわかっていたのに、身体は強張るだけで抵抗らしい抵抗もせず、唇が重なることを許す。

 優しく包み込む両手は、私を放してはくれない。


「ディナの全部が欲しい。それだけなんだ……ちょうだい、ディナ」


 ほう、と吐息を零して、また口付けをするゼノヴィス。


「ゼノヴィス、だめっ。わた、私……まだ、婚約が……」

「ん。やだ。またディナを殺した奴なんか、裏切っていいんだよ。悪魔が許してあげる」

「ぜ、ゼノッ」


 身を引こうとする私を許さず、腰をグッと抱き寄せるゼノヴィスは、また口付けをしてきた。

 真っ赤になってゼノヴィスの肩を押すけれど、びくともしない。

 立ち上がりたいのに、初めてのキスにすっかり腰が抜けて、ゼノヴィスの膝から降りれなかった。


「ああ、やっとちゅー出来た……ディナの唇、柔らかい。美味しいな」

「んっ!」


 ぬるっと舌がねじ込まれてしまい、私はびくりと震える。

 舌が私の歯並びを確認するように口の中を撫でて、口の上もなぞるから、ゾクッとした。

 フッと苦しく息を吐いても、ゼノヴィスはやけに長く感じる舌を絡めてきては、じゅるっと音を立てて私の舌を吸ってきたのだ。


「ゼノぉ……」

「んぅー、ディナ……」


 深い口付けの行為中に、口の端から零れた唾液を、ゼノヴィスは唇を這わせて舐めとった。

 恍惚して瞳を細めたゼノヴィスは、とろける微笑みを零す。

 こてん、と私の肩に頭を乗せる形で、私を見つめた。


「ゼノっていいね。いい響き」


 そう愛称と受け入れて、気に入った様子。


「もう、ゼノ……。まだ婚約関係なんだって……あっちもまだ出会ってないし」

「浮気しちゃったね。でも先にしてもいいじゃん。ディナに”裏切り者”って言って短剣を突き刺したの、意味わからないんだけど」

「私も意味わからないけど、追い込みすぎたんじゃないかな。ネズミも追い込まれれば猫を噛むでしょ」

「猫を噛むどころじゃないでしょ……」


 のぼせそうな私は、一応苦言を呈した。

 悪魔はなんのそのな態度。確かに噛むという反撃とは、言い難い。


「その婚約は、今どういう状態?」

「私が解消を願い出たところ。傷心しているのを見て、家族もそっとしてくれてはいるけれど、いつまで持つかはわからないな……マズかった?」


 追い込んだネズミの逆襲を考えたら、婚約解消を願い出たのはマズい行動だったのかな、と不安になった。


「ううん。色々考えてはいるけど、まぁ、それは帰ってから詳しく話すよ。今日はどうやって来たの?」

「頭痛の原因がゼノヴィスが呼んでいるからだと気付いて、そのまま散策のためのおともを撒いて来た」

「撒いたんだ。……()()()()()()?」


 気遣う眼差しで私の頭を撫でるゼノヴィスに、また涙が込み上がる。

 それを見て、すぐにゼノヴィスは抱き締めてくれた。

 私も抱き締め返す。


「ゼノ。私も油断してごめんね。覚えているなら、つらかったでしょ」

「ッ……ディナ……」


 ゼノヴィスの背を撫でると、彼は軽く肩を震わせた。


「でも、一緒に過ごした時間を覚えててくれて嬉しい……」


 ぐすん、と鼻を啜り合っては、抱き締め合う。


「私も好きよ、ゼノ」

「……うん」

「好き……」

「オレもだよ、ディナ。好き」


 ちゅっと、頬にキスをして、まだギュッと密着。

 ぐりぐりと頬擦りして、髪に顔を埋めて匂いを吸い込むゼノヴィス。

 ぎゅうぎゅうと抱き締めて、すりすりするのは、ゼノヴィスの愛情表現なのかな。

 私は、ポンポンと頭を撫でた。


「でも、浮気はやめよう」

「……」

「……ゼノ? お返事は?」

「……」


 じっと見つめてくるのに返事をしないゼノヴィスは、やがてにっこりと笑みを作る。

 それから、ちゅっとまた唇を重ねてきた。

 逃げようとしたのに、しっかり両手で固定したゼノヴィスは、許してくれない。


「ん~~~~っ!」


 私を想う悪魔は、なかなか放してくれなかった。



 


朝にもまた更新します。

2023/12/24

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