表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/14

●17 ヒロインにエンディングを。(ミンティー視点)


ヒロインことミンティ視点。


悪魔がダークにざまぁ。





 どうしてこうなったの!!



 意味がわからない!! ちゃんと原作通りにヒーローのアレキサンドと恋に落ちて、愛し合ったのに!!

 あの悪役令嬢が悪い! 全部悪いのよ!!

 悪役令嬢も転生者だからって、ふざけんじゃないわよ!!


 あたしはこの世界のヒロインなのよ!?



 大好きな小説だった。ヒーローのアレキサンドがど好みだし、優等生だった前世のあたしはヒロイン・ミンティーに共感もしていた。だから夢のような転生だった。

 運命的に惹かれ合って、愛し合ったのに……。


 悪役令嬢のディナ!

 彼女も転生者だと気付いて、すぐに悪役令嬢の罪をでっち上げなくちゃ、あたしはハッピーエンドを邪魔されると理解した。冗談じゃない。


 小さい頃から、アレキサンドと幸せになることだけを目指して頑張ってきたのに!

 ここで邪魔されてたまるもんですか!!


 順調に悪役令嬢の仕打ちを広めていけたと思ったのに、悪役令嬢は急に夜会に現れたという。

 『謎の美しい貴公子』にエスコートされて。

 どういうこと!? そんなキャラ知らないわよ!?

 『謎の美しい貴公子』のせいで、アレキサンドが霞んだ!

 アレキサンドが悲劇のヒーローなのに! みっともなくしがみつく悪役令嬢が役目を果たさないから!!

 役目を果たさないだけじゃなくて、邪魔するなんて! これじゃあ清廉潔白のヒーローのアレキサンドが、浮気者だと思われるじゃない!

 そうじゃない! これじゃあ悪役令嬢を婚約破棄で退けても、社交界で居場所がなくなるじゃない!! ハッピーエンドにならない!!

 ふざけないでよっ……! これじゃあ綺麗な愛の物語では終わらないじゃない!


 あたしがヒロインなのに! ラブストーリーのヒロインなのに!!

 ハッピーエンド以外、許さないんだから!!



 そんな中、悪役令嬢の家が夜会を開くと招待状を送ってきた。

 何か仕掛ける気? いえ、ここは『謎の貴公子』との不貞を突き止めて、逆転するチャンス!


 そうアレキサンドと決意を固めて挑んだ夜会。

 結果は、惨敗だった。


 『謎の貴公子』である美しい黄色の瞳をした青年は、悪役令嬢の従者だった。


 しかも、あたしが嘘を言いふらした証拠を集めたし、アレキサンドとキスしたことまで調べ上げた!


 詰んだ! 絶望的だ!

 あたしの罪は明らかにされて、アレキサンドとの仲まで周知された!!

 酷い! これじゃあ、もう幸せになれない!!


 だから、頭に血が上りすぎて、あたしは魔法で攻撃した。

 ちょっと痛い目を見せるだけだった。顔に傷でもつけて、あの女の幸せを奪うつもりだった!

 なのに、呆気なく攻撃魔法は弾かれて、ギロッとあたしを睨んだ従者が、衛兵に取り押さえさせた。

 ジタバタもがく間に、アレキサンドは悪役令嬢から婚約破棄されるし、父親のクリストン侯爵に殴られて置き去りにされた。

 あたしは連行されて、牢屋に入れられた。


 金切り声を上げる叔母様に「引き取った恩を仇で返すなんて!!」と罵られたあと、あたしも勘当宣告を受けた。


 こんなことって……。どうして……どうしてなのっ?


 悪役令嬢の勝ちなの?


 あたしの物語なのにっ……!!



 こんなヒロインの結末……許されないのに……!



「面会だ」


 急に告げられた面会の知らせ。

 アレキサンドかと希望を抱いた。何か好転したんじゃないかって。

 だって、アレキサンドは侯爵家の嫡子よ? 本当に勘当するわけないわ! きっと何か! 何か逆転が!


 そう期待いっぱいにして面会室に入ると、そこにいたのは憎き悪役令嬢の従者だった。


 夜会にいた時とずいぶんと雰囲気が違う。『謎の貴公子』でも『有能な従者』でもなく、顔立ちの整った普通の青年のように、気楽な様子で椅子に座ってた。


「どん底の落ちた気分はどうだ? ()()()()

「!?」


 あたしが座るより前に、従者はそう声をかけて来たから、驚愕が走る。


「さっきお前のヒーローにも面会してきたが、どん底に落ちぶれていたぜ。今は悪夢見て魘されているだろうよ」


 鼻歌を歌いそうなほど軽く、従者がそう言う。

 アレキサンドが……!?


「あ、アンタ! なんで知ってるの!?」

「なんでって、もうわかってるんだろ? ディナが悪役令嬢で、お前がヒロイン。そういうシナリオなんだろ?」

「っ!!」


 悪役令嬢から聞いたの!? 全部知っているのね! 協力者として! ずるい!!


「アンタは誰よ! アンタも転生者!? それともお偉い魔法使い!? 誰なのよ!! めちゃくちゃにして!! ふざけんじゃないわよ!!」


 転生者だとしても、チートなイレギュラーキャラだとしても、ずるい!! ずるいずるい!!

 あたしには協力者はいないのに! どうして悪役令嬢にはいるのよ!?


「オレは転生者じゃない。その様子なら、やっぱりお前は()()()()()してないんだな」

「はっ……? 死に戻り?」


 転生の話をしているのに、どうして死に戻りの話になるのよ。

 あたしが睨みつけていると、従者は手を上げた。長い指がパチンと弾くと同時に、目の前が真っ暗になって、ズキッと頭が痛くなって、頭を抱えて呻く羽目になる。


「痛いっ!!」

「クズな浮気野郎には順番に入れたけど、お前には一瞬で全部埋め込んだ。面会時間、短いからね」

「は? はぁあ!?」


 何を言っているのコイツ!?

 痛みが引いたから、顔を上げた。


「ホントは時間をかけてお前を痛めつけたいけどさ。お前の方はうっかり殺しちゃったら、死に戻りの可能性がないとも否定出来ないじゃん? せっかくオレ達がいい感じに勝ったのに、台無しだ。ちゃんと生かさないと」

「っ! さっきから死に戻り死に戻りってなんなの!?」


 ゾッとするようなことを言っているが、とにかくわからなくて叫ぶと、ニヤッと笑みをつり上げた悪役令嬢の従者。


「お前の護衛騎士に切り捨てられる死」


 その言葉を聞くなり、護衛騎士に切り殺された光景が浮かんだ。生々しい感触に、ぞぉっと身の毛がよだつ。


「アレキサンドの実家から送られたお茶が毒入り」


 次は紅茶を苦しんで吐き出し、息が出来ないままこと切れる記憶。息が詰まった。


「アレキサンドに胸を短剣で突き立てられて死ぬ」

「いやぁああ!!」


 アレキサンドが怖い顔して胸に短剣を刺してきた光景に、飛び上がってしまう。

 な、何この記憶!? なんなの!?


「それ、全部ディナが死に戻った原因の死だ。お前達がやったんだ。教えてやるよ」


 親切だろ、という従者を信じられないという目で見る。

 記憶を植え込んだ? 何そんな魔法知らない! なんなのコイツ!!


「知らないっ……知らないんだから!! そんなの知らない!」


 パチンと従者が指を鳴らした途端、植え付けられた恐怖の記憶が突き抜けた。

 リズムを取るみたいにパチンパチンと鳴らし続ける度に、恐怖が走る。悲鳴を上げる間もなく、びっくんびっくん震えて、頭を抱えたまま床に座り込む。


「や、やめてっ」

「お前。ディナの顔めがけて攻撃魔法を放ったよな?」

「ひぃい!!」


 さっきまでの明るい声音が、低いトーンに変わって、怒りを露にする。


「お前の顔、ズタズタにしてやろうか?」

「い、いやっごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」


 ガタガタ震えながら、なんとか壊れたように謝罪を繰り返すしかない。

 怖い怖い!! やめて!! お願い!!

 アレキサンド! 助けて!!


「なんてあの瞬間は思ったけど、ちゃんと守護してたし、お前の攻撃なんてどう足掻いても届かなかったんだけどな」


 パッと明るく言い退ける従者。


「それに顔はやめておいてやるよ。だって、アレキサンドがお前を迎えに来るだろ? どこがいいのか知らないけど、その顔をズタズタにしたら、すぐに見捨てちゃうかもしれない。それは可哀想だ」

「アレキサンド……!」


 希望が見えた。

 アレキサンドが迎えに来てくれるの? そうなのね? ああ! あたしの王子様!!


()()()

「えっ……?」


 従者は意地悪な笑みを浮かべていた。

 意地悪と言うには、あまりにも凶悪な笑みに、ゾッと悪寒に襲われる。


「な、何をする気なの……? 何もしないわよね? ここで危害なんて……」

「そのうち、お前は出される手筈だ。ディナお嬢様の温情で、訴えはしないから、留置場からは出される。その頃には、アレキサンドも迎えに来るさ。アイツにも悪夢を植え付けた。おんなじ悪夢を見るといいさ。ディナが苦しんだ以上にな」


 おろおろと視線を泳がしてしまう。悪夢を植え付けた? あたしとアレキサンドにそれだけをして……あとは解放してくれるの……?

 まだ何かあるんじゃないかって疑ってしまう。



「――――まぁ、お前が苦しむかはわからないがな」


 意味深に呟いた従者は、ニヤリと凶悪な笑みで白い牙を見せつけた。



()()()()()()()()()()


「…………は?」



 何を言われているかわからなくて、間抜けな声を零してしまう。

 魂? 今、魂って言った?


「だって、転生者のディナが死に戻りしたんだ。お前も死んだら、死に戻りしちゃうかもしれないだろ。だったら、死に戻りする魂をなくした方がいいじゃないか」


 理解が追い付かない。何を言っているんだ、この人。

 魂を壊す? なくした方がいい?

 荒唐無稽すぎて、思考が追い付かない。


「魂の利用価値は高いから、誰も壊したりしない。だってもったいないからな。でもオレにとって、お前の魂は害悪でしかないから、壊す。大丈夫、魂が破壊されても、お前は生きる。……抜け殻状態にはなるがな」


 加虐的に笑い、従者はあたしに向かって手を伸ばした。

 宙をわし掴みにした途端、ぴきっと亀裂が入った音がする。

 何かが割れる音。壊れそうな音。

 グルグルする思考で、それが魂を壊される音だと理解して焦った。


「や、やめっ」

「そうだ、()()()()


 制止の声を遮るように、宙をわし掴みにしている従者は、にっこりと作り笑いを向けて声をかけた。



「お前はバッドエンドを迎えたヒロインだ。じゃあな? 転生も出来ず、死に戻りもするな。悲劇のヒロイン」



「いやぁあああああっ!!!」



 ぐしゃっと握り締められた手が、パリンッと硝子を粉々にする音を響かせた。



 世界に亀裂が入ったように見えた。


 恐怖で涙が零れ落ちたが、やがて止まる。


 一度は砕け散ったのに、元の視界に戻った気がする。何も感じない。


 何もない床を呆然と見つめるだけで、床に座り込んでいたら、衛兵が面会時間は終わったと、連れ戻してきた。


 悪役令嬢の従者の姿は、もうない。


 牢に戻ったあたしは、なんの思考もせず、無気力に壁を見つめた。




 


溺愛ヤンデレ悪魔が、

回帰不可能のバッドエンドをヒロインに贈る。


次回、最終話。その溺愛ヤンデレ悪魔視点で終わります(^ ^)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ