表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

●16 クズ元婚約者への報復。


新年あけましておめでとうございます。

早速のダークざまぁ。


三人称視点で、先ずはヒーローから。






 アレキサンドは、ショックから立ち直れないでいた。


 運命の出会いを果たして心通わせていたミンティーが、ディナに虐げられた嘘をついていたことは()()()

 アレキサンドの関心を引き、婚約を破綻させるために仕組んだことならば、可愛い嘘だと思う。

 それほどに自分を欲したのなら、()()()()()


 最早、アレキサンドはミンティーを愛してしまっている。


 だが、ミンティーが魔法で攻撃までしたことまでは庇えない。

 衛兵に取り押さえられたなら、大人しく連れていかれた方が賢明だ。


 アレキサンドは、それどころじゃなかった。

 ディナに婚約破棄を言い渡されたのだ。


「(唐突に婚約解消を申し出て、全ての努力を踏みにじった挙句に、婚約破棄を突き付けるだと!?)」


 その衝撃を受け止め切れない間に、父に殴られて勘当を告げられて、頭が真っ白になった。

 そのまま、いつの間にか倒れている母を運んで、先に帰ってしまった。


 愕然としている間に、ディナの父であるアクアート伯爵は事態を収拾していて、貴族のほとんどが帰ったあとで、侮蔑を込めた目を向けられてアレキサンドは追い出される。



 ああ、どうにかしないと。

 父に説得を。私を切り捨てて、どうするというんだ。私は嫡子だぞ。

 絶対に、なんとかする。なんとか挽回すると説得しないとっ。



 真っ暗な夜道に、馬車なんてない。

 父親は、アレキサンドを置き去りにした。


「(どうやって帰ればいいんだっ!)」


 アクアート伯爵邸から歩いていくと、袋のようなものを被せられて、何一つ見えなくなった。

 次の瞬間には、気を失うアレキサンドだった。




 目が覚めた時、アレキサンドは地下部屋に閉じ込められていた。

 叫んでも、何も答えてはくれないが、拉致犯は食事を出してくる。お粗末な簡易的なもの。

 文句を言っても食事の量は増えやしないため、大人しく食べるしかない。


「(どういうことだ! 父さんが馬車を残してくれないからこんな目に! 勘当したと言っても、身代金を払うよな? 見捨てないよな?)」


 指折り数えるが、拉致犯は何も言わないし、解放される兆しがなかった。

 焦燥感にかられながら、体力温存のためにアレキサンドは、じっと耐える。


 一日二回ほどの食事が、三回続いたあと、地下部屋の扉が開かれた。


「お待たせ~」

「!?」

「いやぁ、こんなに待たせる気はなかったんだ。なんとも離れがたすぎて、ついつい長居しちゃった♪」


 軽装な声を弾ませて現れたのは、ディナの従者のゼノヴィスだ。

 椅子を引きずり、閉じた扉の前を陣取るように座った。

 その姿を見たアレキサンドは、カッと血が上る。


「お前!! ディナの差し金か!!」

「婚約破棄されたんだから、もうアクアート伯爵令嬢と呼べよ。クズ」


 スッと目を細めたゼノヴィスは、冷たく吐き捨てるが、アレキサンドは止まらない。


「こんなことをしてただで済むと思うなよ!! 必ず罪を白日の(もと)に晒してやる!!」


 冷笑を浮かべるゼノヴィスは、威勢のいいアレキサンドを静かに見据える。

「白日の(もと)ねぇ?」と、意味深に呟く。


「先ず、ディナお嬢様はコレには関与していない。言っても信じないと思うけど、ディナお嬢様ならお前というクズな婚約者からやっと解放されて、すやすやベッドで眠っているよ。なーんにも知らない」


 初夜を思い出したゼノヴィスは恍惚と舌なめずりしたが、見られないように片手で覆い隠した。

 最後に見たベッド上のディナを思い出して、欲に濡れた瞳の光りもすぐに消して、切り替える。


「お前さ。公衆の面前で、浮気暴露されて、婚約破棄もされた上に勘当もされたのに、どうして生きて戻れると思ってんの?」

「はっ……? まさか、殺すというのか!?」


 サァーと青ざめるアレキサンド。

 すぐには肯定も否定もしないゼノヴィスに、慌てた。


「それがバレたら、主人のディナに迷惑がかかるぞ! わかってるのか!?」


 ディナが知らないとなれば、なおのこと。やめろと説得をする。

 殺人という罪がもしも明らかになれば、迷惑がかかるのだ。

 ディナが拾った孤児だと、記憶している。そこを攻めて、殺人だけは思い留まらせようとした。


「……自分が殺されるとなると、そりゃ顔色を変えるよな。思い留まれって」


 長い足を組んだゼノヴィスは、冷淡に言葉を紡ぐ。



「でも、()()()()()()()()



 無感情な呟きを、アレキサンドは理解出来ない。

 人を殺した記憶なんぞ、ないからだ。


「さっさと婚約解消に承諾すればよかったんだよ。あれはお前の唯一の逃げ道だったのにな。ディナお嬢様が悪い夢を見たからお前を信じられなくなったって言われた時点。それにどんなに頑張ってもディナお嬢様の信頼を回復出来なかった時点。そして、サライト伯爵令嬢と出会って心変わりした時点。そこで承諾すればよかったのに」


 三つの指を折るゼノヴィス。

 指を折る度に、アレキサンドの背後で闇が伸びる。ぞわりと闇が蠢く。

 アレキサンドは、それに気付かない。


「(何故知っているんだ!?)」


 ミンティーに出会って心変わりしたことを見抜かれて動揺するが、後ろには闇が迫っている。


「おかげで容赦なくディナを傷つけた報復が出来る」


 ニヤッと大きく笑みをつり上げたゼノヴィスは凶悪な加虐性を見せつけるなり、闇の中にアレキサンドを閉じ込めた。


「(なんだ!? なんなんだ!?)」

「これは序の口だ」


 ゼノヴィスの声が、闇の中に響く。



 アレキサンドが闇の中で見るのは、ディナが見ていた悪夢だ。

 一回目。確かにディナと良好な婚約関係にあった。しかし、ミンティーと出会い、コロッと心変わりしたアレキサンドを、ショックを受けて見るディナ。チクりと罪悪感が刺さる。

 その後、ディナは身に覚えのない悪い噂に、孤立して戸惑い傷つく。チクチクと罪の意識を味わう。

 それは、アレキサンドの手酷い裏切りの結果。

 ディナはミンティーに誤解をといてほしくて話そうとしたが、悪い噂ですっかり怯えたミンティーを守るために、護衛騎士がディナを切り捨てた。

 無念にディナは命を散らした。



()()()()()()()



 ハッと目を覚ますアレキサンド。

 厳密には、闇から解放されて、椅子に座るゼノヴィスに見下ろされている光景を目にした。


「い、今のは……?」

「ディナの悪夢を見せた。だからディナはお前に婚約解消を申し出た」

「……!!」


 なんてことないとゼノヴィスは答える。

 しかし、そうじゃない。


「ど、どうして見せられる……!?」


 そんな魔法、見たことない。


「(孤児が使える魔法じゃないだろ!!)」


 やっとゼノヴィスが得体のしれない存在だと、アレキサンドは悟る。

 明らかに『有能な従者』ではない異質さ。


「見せたんじゃなくて、植え付けた。お前って偽善者だけど、偽善者は偽善者らしく、胸を痛めることはするだろ? それも偽善だとしても」


 二重の黒い瞳孔の金色の瞳を細めて、笑みをつり上げるゼノヴィスは、小首を傾げた。


「次だ」


 パチンと指を慣らされたかと思えば、また闇の中に呑まれたアレキサンド。



 今度は、ディナとの良好な婚約関係が唐突に終わる。

 ディナが拒絶し始めたのだ。それはもちろん、悪夢を見たから。当然とも言える行動。

 裏切られる前に拒絶したまで。

 しかし、アレキサンドは納得いかずにワケを問い詰めた。悪夢の内容など知らないのだから。

 でもディナは心変わりをするのだとアレキサンドを拒む。アレキサンドもまた、食い下がる。ディナは家族の説得にも負けて、条件を突き付けた。

 『心変わりしたのなら、婚約解消に承諾してください』と。

 それには『絶対にそんなことにはならない! 君だけだ!』と、アレキサンドは言い切った。

 グサリと罪悪感が突き刺さる。

 ディナも信じていないが、しぶしぶ頷いた。

 そしてミンティーとの出会い。恋に落ちた。

 一回目と同じ。ミンティーへ心変わりしたのだ。

 ディナはわかり切っていたから、そら見たことかと婚約解消を要求し続けた。

 アレキサンドは心変わりしないと言い切った手前、婚約解消が出来ない。

 それは自分の嘘を認めることになるから。約束を破ると認めたくなかった。

 裏切ったのは自分の方だと、意地でも認められない。


 見せられるモノは、ディナの視点のはずなのに、アレキサンドは自分の視点で考えて言い訳を並べ立てた。

 他でもない自分自身のことだ。

 だから、いつまでも、婚約解消に同意しない理由を理解した。


 一回目と違い、孤立しようがディナは、アレキサンドもミンティーも避けに避ける。そしてひたすら婚約解消の催促を続けたのだ。

 ディナに非があればいいのに、噂はただの噂にすぎない。

 最初のディナの冷たい拒絶で同情的だった両親も、アレキサンドを疑い始めるし、アクアート伯爵当主からも抗議がきた。

 答えを待つディナは、紅茶を飲んで倒れた。毒に苦しみ死んだ。


 息が苦しい。熱い。痛い。



()()()()()()()()()



 ハッと、また悪夢から覚めるアレキサンドは、喉を掻きむしっていた手を止める。

 ゆらゆらとブーツを履いた足を左右に揺らすゼノヴィスは、淡々と告げた。


「あの紅茶は、お前の実家が融通して送り込んだものと同じだ。お前は埒があかないからって、自分の有責で婚約解消になる前にディナを殺した」

「おっ、憶測だ!!」

「本当に? 自分の行動パターンなんだから、理解出来るだろ?」


 冷たい眼差しはおちょくりながら見透かす。

 先程まで激痛を感じていた喉をゴクリと鳴らして、アレキサンドは目を泳がす。


「(そんなわけない! そんなわけない!! 私は人を殺さない!!)」


 否定は心の中で叫ぶのに、声には出せなかった。

 またゼノヴィスが手を上げて指を鳴らそうとしたため「やめろ!」と叫んだ。間に合わない。


「次だ」



 またディナとの良好な婚約関係が崩れた。

 拒絶するディナ。ミンティーと出会い、心変わり。

 悪い噂が立ち始めると、ディナは対抗して見目のいい従者にエスコートさせて『婚約解消の話』を言いふらし始めた。

 なんて屈辱。ディナが先に袖にしたくせに、他の男にエスコートさせ、婚約解消の話を言いふらし、アレキサンドには全く興味がないと示す行為。

 怒りが湧く。おかげで、ミンティーとアレキサンドは、嘘つき呼ばわりだ。

 居場所がなくなってしまう。


 だから、暴挙に出た。

 アレキサンドの呼び出しに不審がるディナを衛兵が無理矢理庭に連れ出すなり、アレキサンドが『裏切り者め!!』と短剣を胸に突き刺した。



「うわぁああ!!!」



 鬼の形相の自分が、自分の胸に短剣を突き刺したと錯覚したアレキサンドは、胸を押さえ付けて恐怖に慄く。

 溢れ出したはずの血は、そこにはない。


「あははっ!! 何、今のは一番効いたの!?」


 バクバクと心臓を跳ねさせるアレキサンドを、愉快そうに嘲笑うゼノヴィスを見上げる。



「自分に直接殺されるのも悪夢だよねぇ。でも、殺されたのはディナだ。死なないだけありがたく思えよ」



 笑い声を上げたかと思えば、急落下で低い声で告げたゼノヴィスは、冷酷な表情で見下していた。


「えっ……な、なんだよ。悪夢なんだろ!? ただの夢なんだろ!?」


 まるで本当にあった記憶のような口ぶりに怯えて、アレキサンドは問い詰める。しかし、ゼノヴィスは答えない。


「なんで悪夢を見せられるんだ!? どんな魔法なんだ! こんな魔法は知らないぞ!!」

「ディナが悪夢を見る度に、吸い取ったヤツを、お前に植え込んだだけだよ。吸って移す魔法」


 コロッと笑顔を見せるゼノヴィスは簡単そうに語った。


「う、植え付けた!?」


 慌てて頭を抱えるアレキサンドは、異変がないか弄る。


「うん。お前はどうせ勘当された浮気野郎だから、数日行方不明でも誰も気にしないだろ。ちゃーんと闇ギルドにお前を拉致させてここに監禁してもらったから、あとは一人で悪夢を堪能してて♪」


 ヒョイっと立ち上がると、また指を鳴らそうと手を上げたゼノヴィス。

 アレキサンドは「ひい!」と身構える。


「やめてくれ!! 出してくれ!!」

「嫌だね。ディナを貶めた報復を受けろ。何度も何度も、自分に刺し殺される悪夢を見るがいい」

「ひいいっ!!」


 すがって許しを乞いたかったアレキサンドだったが、その前に椅子の背もたれに手を置いたゼノヴィスは、ニヤリと笑う。弄ぶ笑みだ。


()()()()()()()がどうなるか、知りたい?」

「えっ……? ミンティーか!? 彼女にも何かする気なのか!?」

「当たり前だろ。あの女も、積極的にディナを貶めた元凶だ」


 報復しない方がおかしい、とゼノヴィスは言い退けた。

「そんなっ」と絶望するアレキサンドに、止める術はない。


「お前は何度やり直そうとも、あの女と運命的な恋に落ちるんだよな」


 背もたれに頬杖をついて、にっこり笑いかけるゼノヴィスに、アレキサンドは同情を誘えるかもしれないと愚かな希望を見た。



「お前はオレのディナを刺し殺したから、()()()()()()()()()()()()()()

「なっ!?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あははっ!」



 加虐に歪んだ悪魔らしい悪魔の笑みを浮かべたゼノヴィスは、指をパチンと鳴らす。


 暗闇の中の悪夢で、アレキサンドは悪魔の笑い声を、確かに聞いた。





 


次回、ヒロインの番。ヒロイン視点です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ