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○13 悪魔の罠と決戦の時。



 アクアート伯爵家主催のパーティーを開くことにした。

 名目は交流会。多くの知人に招待状を送りつけた。

 アレキサンドにも、その実家にも。

 そして、ヒロインことミンティーにも、だ。


 実質、彼女とは知り合っていない。

 なので『ミンティー嬢とはお会いしたことはありませんが、噂のこともありますし、我が家の交流の場である夜会で誤解をときましょう』という内容を彼女を引き取ったサライト伯爵家に送りつけた。


 ミンティーも私と同じ転生者。原作と違う私の動きに気付いて、悪い噂を流すという手を打ってきた彼女の動きも注意している。

 私ではなく、ゼノヴィスの使い魔だけど。

 また私の殺害を企てていないか、気を張っているのだ。

 アレキサンドとミンティーの方で、しっかり見張りをつけている。その点も注意して、私もゼノヴィスから決して離れないことに決めていた。また悲劇が起きても、一緒に戻れるように。



 準備万端の夜会の日を迎えた。

 明るい赤生地に金のラメが散りばめられたドレスに身を包んだ私は、緊張でいっぱいの胸を撫で下す。


 主催者になってもらった両親と挨拶をすると、参加者の貴族達はキョロキョロと視線を彷徨わせる。

 わかりやすい。『謎の貴公子』は来ていないのかと、捜しているのだ。


 すでに、私の新しい婚約者ではないかと疑惑の噂が広がり、”ならアレキサンド達が言っているのはなんだ?”という疑問が湧いているらしい。

 私達の愛憎劇は、今夜のディナーのように注目を集めていた。


 そうして、アレキサンドの一家がやってきた。

 一斉に突き刺さる多くの視線。

 ピリピリした雰囲気の両家の挨拶。


「ディナ……」

「こんばんは、クリストン侯爵令息」

「っ……」


 アレキサンドが声をかけるから、扇子で口元を隠して、そっぽを向く。

 すげなくされて、赤面して震えるアレキサンドに、前回の最期が過って、真後ろに控えるゼノヴィスに飛びつきたくなった。必死にその場に立って、大丈夫大丈夫と言い聞かせる。


 この距離ならゼノヴィスが守ってくれるし、私だって身を守る術を色々備えた。十全よ!

 今夜だけは、アレキサンドを煽って煽ってやるんだから!


 私の態度に、アレキサンドが袖にされていると、周囲はコソコソと囁き出す。

 聞こえているのか聞こえていないのか、睨みつけるアレキサンドの背中を押して、クリストン侯爵夫妻は次の挨拶者に場所を譲った。

 恐らく、離れたところでクリストン侯爵は、アレキサンドを責め立てるに違いない。それが彼を追い込む起爆剤になるだろう。


 やがてやってきた宿敵、ヒロイン。

 ふんわりした白金髪と垂れ目の青い瞳。原作のヒロインは家族の不幸によって男爵令嬢から伯爵令嬢になって、健気で王都に馴染むよう心掛ける中で、婚約者のいる侯爵令息に恋してしまう葛藤に苦しむ子だが。

 転生者である彼女は進んで嵌めていくスタンスなので、ただの腹黒である。

 悪評で周囲を誘導して護衛騎士に切らせるような策士だからね。知ってんだからな。庇護欲そそる美少女の見た目に騙されんっ!

 そんな怯え切った様子で前に来るとは、その喧嘩買ったわ!


()()()()()()()()()()()。私はディナ・アクアートです」


 先手必勝。

 ”()()()”と言い放って、カーテシーを披露。


「酷いですわ、アクアート伯爵令嬢……何故初めてだなんて、嘘を?」


 反撃をするミンティー。

 被害者ぶるの、ホント上手いわね。

 あくまで、嫌がらせを受けている被害者ぶりたいなら、初対面認識されてはマズいもの。


「あら? 先ずは挨拶をしてくださいませ。自己紹介をしたら、自己紹介しないと」


 ()()()()()、と微笑む。


「ええ、そうですわね。()()()()()()()()、初めてでしたね。ミンティー・サライトです」


 そうくるか。”()()()()()()()()()()()”に持ってきたミンティーは、カーテシーを返す。


「おかしなものですよね。こうして初めて会ったというのに、私があなたに嫌がらせをしたという噂が広まっているのですよ。婚約者と何かあるわけでもないのに、どうしてかしら」

「そんな! アレキサンドと、本当に何もないのですよ! 何度も言っているのに!」


 婚約者の話題に入って、ミンティーが仕掛けた! だがしかし、しくったな!


「まあ! クリストン侯爵令息とは、名前で呼ぶ仲なのですか? 仲がよろしいことで」


 普段の習慣でつい名前呼びとか初歩的なミスね!

 グッと一瞬歪んだ顔が無様よヒロイン! おーほほほっ!

 耳をすませている貴族達が、私が家名呼びをしているせいで、余計勘ぐるわよ!


「私がクリストン侯爵令息と想い合っている婚約者同士なら、噂通り嫉妬してしまうかもしれませんが、あいにく私達は両家の政略的な婚約で結びついているの」


 どうせならここで”婚約解消の申し出をしているのに”と言いたいところだけど、両家に溝を作るなと両親から視線の圧がかかるので、我慢してあげる。

 ()()()()()()


「嘘をつけ!!」


 そこで割って入るのは、聞き耳を立てていたアレキサンドだ。


「オレ達、想い合っていたはずだろ!」


 なんてほざくので、溺愛悪魔から冷気感じます!! やめて!

 自分が爆発するならまだしも、別のところを起爆するのやめて!


「それなのに、ディナ! 君は『謎の貴公子』にエスコートされて夜会に参加しているじゃないか! ただならぬ仲だと噂だ! 申し開きはあるのか!?」


 自分を棚に上げる奴って、ホントむかつくよね。

 心を通じて、キスもしているくせに。

 私もそうなので問い詰めないけれども、そもそも私も浮気状態なのは、お前が婚約解消に承諾してくれないからですがー!? と言ってやりたい。その言葉は、呑み込む。


「あら、それを言うなら、あなたもこちらの令嬢をエスコートしたじゃないですか。それについての申し開きはあるのですか?」


 あくまで他人行儀の言葉遣いで、しれっと言い返す。


「ああ! 君が嫌がらせをするから、交流会のエスコート役をお詫びにしたんだ! 王都に来たばかりで、新しい友人として人脈作りを手伝ったまで。疚しいことは断じてない!」


 おお。堂々と嘘をつく。私は正しいと威風堂々と主張する。

 清廉潔白の男主人公。その実、ただの大嘘つきの浮気男。


「おかしいですわね。今夜が初対面だというのに、どうやって私は彼女に嫌がらせをするというのです? それに証拠なんてありますか? 一体どんな嫌がらせを?」


 優雅に微笑んで、会話の主導権をしっかり握って尋ねる。


「証拠だと! ミンティーがそう証言している! 本当に会ったことがなければ、嘘の証言をする理由があるか!?」

「そうですね。例えば、婚約者のあなたに横恋慕しているからでしょうか? 妥当な理由では?」


 にっこにこの私と、苦そうに顔を歪ませる二人。

 心当たりあるでしょ? ね? ね?


「だいたい、私、社交界への参加はついこの間まで休んでいたのですよ。一体いつ、サライト伯爵令嬢と会ったのでしょうか?」


 ん? と穏やかぶって尋ねる。

 知り合ってもいないのに、どうやって会って嫌がらせをするんだか。


 小癪なヒロインは、当然用意していた。それは原作にあった嫌がらせシーンだからだ。

 悪役令嬢の友人が、ヒロインがアレキサンドの出会いを目撃して、告げ口する。それで悪役令嬢は釘をさすのだ。


 どこでこう言われた、と主張するヒロインことミンティーは、口元を僅かに上げた。

「そうですの」と私が平然と相槌を打てば、解せないと顔を歪める。


「それで、サライト伯爵令嬢はその嫌がらせを、知り合ったばかりの方々に相談したのですわね?」

「え、ええ……」


 私の余裕な態度に、訝しげに見てくるミンティー。


「酷いですわ。私は、あなたと会っていないのに」

「だから、嘘をつかないでください!」

「私は会っていない証明は出来ないけれど、あなたは会ったのならその証明が出来ますよね? その場で会ったという目撃証言を提示してください」

「っ……!」


 ()()は、証明出来ない。でも、()()なら、証明してみろ。

 原作なら、告げ口した友人が同席したけれど、実際その告げ口する友人は告げ口すらしていない現実。ない証言は引き出せまい。


「いませんっ。他にいなかったのです!」

「では、二人きり? そんなはずはありませんわ。だって私達は貴族令嬢でしてよ? あなたも私も、おともがついていたはず。あなたか、私のおともの証言をください」


 証言なんてないでしょ。目を細めて見据える。

 その圧に悔しげに顔を歪めたミンティーには、嫌がらせを受けた事実はないのだから、証明させられない。原作でも、特定のメイドも従者も描写されていないのだ。当てずっぽうは、危険。


「そもそも、私は少し前まで静養していたのですよ。息抜きに出歩く時は、過保護におともがいつもついてきていましたわ」

「! そ、その従者がいました! 確かにいました!」


 おっと、当てずっぽうに出た!

 もっさりした従者ゼノヴィスを指名! 愚か!


「まあ! そうでしたの! こちらの従者は、雇ったばかりですから、事細かにその日あった出来事や業務を日誌につけていたのですよ。何日の何時でしょう? 言ってくだされば、その日同行していたおともを特定して証言が取れるかもしれませんわ!」

「っ!」


 はいはい! 墓穴! 顔が青いわよ! ヒロイン!


「君の味方では知らぬ存ぜぬを通すかもしれないじゃないか!」


 アレキサンドが庇うが。


「でも、日誌は証拠になりますわ。出掛けていたかどうか、本当に会っていたかどうかも、確かめられるじゃないですか。確かめようともしないなんて……疚しい気持ちがあるんじゃなくて?」


 どうせ疚しい気持ちがあるんでしょ? ほれほれ、と挑発を匂わせる。

 ブツリと青筋を立てるアレキサンドは、どうやら上手くやったようだ。


「『謎の貴公子』と疚しいことがあるのは、君だろう!?」


 再びの『謎の貴公子』だ。


「その『謎の貴公子』なら、ここにいますよ」

「なんだと!?」


 キョロッと二人だけではなく、両親も他の貴族も、周囲を見回した。


「私がクリストン侯爵令息と懇意にしている令嬢に嫌がらせをしているという悪い噂が立っているから、彼に守ってもらっていたのですよ。紹介しますね。従者のゼノヴィスです」

「「は……?」」


 二人して間抜けな声。

 でもすぐに驚愕の声を上げることになる。


 ゼノヴィスは分厚い眼鏡を外すと同時に、弱い認識阻害の魔法を解き、前髪を掻き上げて美貌を見せつけた。

 令嬢達は黄色い悲鳴を零し、多くの人達が「おおっ」と小さく声を零す。



「ディナお嬢様に拾っていただき、誠心誠意お仕えさせていただいている従者のゼノヴィスです。度々、エスコートを務めておりました」



 胸に手を当てて、恭しく一礼するゼノヴィス。



 従者にエスコートしてもらっていましたが、それが何か?



 と、私もゼノヴィスも、驚愕で顔色を悪くする二人をほくそ笑んで見た。



 ヒロインとヒーローの前に、悪役令嬢と悪魔は立ちはだかる。


 今宵は決戦の時!



 


今後の予定としては、明日ラスト更新をし、

来年元旦に残りを連投更新して、完結目標です!


社会的にざまぁ回! 明日もよろしくです!


ディナの悪役令嬢っぷりに笑えたら、いいねください笑


2023/12/30◯

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