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短編集【不思議】

未来に書くラブレター

作者: ポン酢

夏至。

昼の時間が最も長い日。


冬至は知名度が高くて柚子風呂に入れとか南瓜を食えとか色々あるのに、夏至はなんともパッとしない。

多分暑いだからだと思う。


冬至は春を待つものに、暗い日々の終わりを告げ、これから少しずつ日が長くなり、暖かくなるのだと教えてくれる。

だから皆、南瓜を食べ、柚子湯に浸かってそれを待つ。

春を夢見る。


しかし夏至は違う。

すでに陽の光は満ち溢れ、世界は活動期真っ盛り。

皆、忙しなく動き回る。

そしてこれから来るであろう猛暑と熱帯夜にぐったりしている。


だから皆、夏至を素通りする。


一応、夏至にも蛸や水無月、冬瓜などその地域によって食べるものがあったりする。

けれど冬至の南瓜のような統一感はない。

冬至の頃はあんなにも陽の光を待ち遠しく焦がれていたのに、いざそうなってしまえば案外皆、それに気づかないものだ。


それは日々の幸せに似ている。


辛く苦しい時にはその存在に焦がれ、しかしその中にいる時はそのありがたみに気づけない。

そして失くしてから、「ああ、あの何でもない、むしろ鬱陶しいとすら感じていた「当たり前」が恋しい……」と、気づくのだ。


「ねぇ、寂しい?」


「……別に。」


「私が離れていっても?」


「別に……。」


ふふっと彼女は笑う。

毎年そう言うわね、と……。


狡いと思う。


彼女はそんな事、気にも止めない。

誰も気づかなくても、気にとめなくても。

そんな事どこ吹く風。

自由で、明るく、何にも囚われず、そこに自分がいる事を楽しんでいる。


遠く離れれば恋い焦がれ、どれだけ彼女を愛しているか誰もが思い知るのに、僕らは皆、側にいてくれる時には気づかないのだ。

そして悔しいかな、彼女はそんな僕らを歯牙にも掛けない。


あるがままに自分を謳歌している。


あぁ、悔しい。

きっとまた君が遠く離れた時、僕らは閉ざされた暗い日々に閉口し君への想いを胸に募らせる。

なのに君ときたら、どれだけ愛しているかを語っても気にもとめないのだ。


「さて!少しずつ帰りますか!」


「……さっさと帰れよ。」


「またまた〜!寂しいくせに〜!」


「暑苦しいんだよ!」


「だって夏至だもん。」


「さっさと帰れ……。」


やけっぱちにそう言うと、彼女は笑った。

太陽みたいだ。


そして無邪気に言うのだ。



「冬至のラブレター、楽しみにしてるわ!」

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