恋はするものじゃない、されるものだ。(小さな恋の始まりver.)
恋はするものじゃない、されるものだ。
ずっとそう思っていた。
昔から美人だと持て囃されて、嫌になるくらい告白されてきた。
近づいてくる男の中から、適当に見繕って付き合って、やっぱり合わないからって別れ話を切り出して。
どんなにいい男に愛を囁かれても、心が動いたことなんてなかった。
彼らは皆、私に恋をしていたけれど、私は彼らに恋をしたことがない。
いつだって、一方通行で受け取るだけの想い。
なのに最近、あの子のことが気になって仕方がない。
新卒で入ってきた、私の初めての後輩。
ボサボサの髪の毛に、白衣だっていつもクタクタ。
だけど仕事は丁寧で、褒めると嬉しそうに笑う。
いつもお世話になっているからと、残業のたびに彼がくれるチョコレートは、もったいなくて食べられないまま、すでに十個以上デスクの引き出しに眠っている。
二人きりの残業を、楽しみにするようになったのは、いつからだっただろう。
これが、恋なのだろうか。
初めて芽生えた感情に、私はついていけない。
今日も、二人で残業だ。
私は、自販機で甘いココアを二つ買う。
甘党な彼に差し入れたら、またあの嬉しそうな笑顔を見せてくれるだろうか。
少しだけ弾んだ足取りで、私は彼のもとへと向かった。