01 ログイン!
「ただいま」
──ガチャ。
「って、いつも通り誰もいないか」
少女は玄関でそう独り言を呟く。
彼女の名は『照之内すてら』今年で16歳。
母は仕事で忙しく普段家には居ないらしい。
その誰一人としていない居間を見渡し、電気を付ける。
冷蔵庫に昨日冷やしておいた、新発売のケミカルな色のエナジードリンクを一気に喉へと流し込む。彼女的に味はあまり好みではないらしいが、今日はガッツリゲームをする気なのかカフェインに願をかける。
自室に繋がる階段を勢いよくリズムをぎざみながらかけ登り、靴下を脱いで背負っていたバッグを乱雑に投げ、勢いよくその身をベットにインする。
「はあ、疲れた。……よっし! 今日も今日とてやりますかね 。ふふっ」
今日はバイトもなく、学校が終われば完全1日フリーな日であった為、彼女が毎日楽しみにしている『VRMMO』アプリの起動を試みる。
──終わらない別世界の体験をアナタに。と言う触れ込みで大流行のVRゴーグル機器『スマートメモリア』用アプリ『ENDLESS×ONLINE』略してエンオン。
ミーハーな私はもちろんそれを速攻インストールした。
飽き性な私が珍しく今日もモチベーションが高い。
無趣味で何をやっても続かない飽き性な私だったが、このゲームに関しては今日で始めてから3ヶ月くらいになる。
リリースと同時にやり始めたので、私はいわゆる(※FAP)と呼ばれる初期プレイヤーと言うやつである。
3ヶ月連続ログインくらい普通じゃない?という横槍がガチ勢から飛んできそうだが、彼女からしたらモチベが全く落ちずよく続いている方だという。
「そんな自分を褒めて上げたい。うん、褒めよう」
いや、褒めれるべきは飽き性の私を離さないこのゲームの完成度の方か。
ゲームは楽しむのが1番なマインドで彼女は色々な種類のゲームをやってきた。
しかし、夜も寝れないくらいにガチガチにガチるのだけは好きじゃないらしい、つまりは彼女のゲームプレイスタイルは俗に言う、エンジョイ勢なのだ。
──が、ゲームセンスはある方だと実は友達に裏で言われてるとか何とか。
しかし、飽き性が足を引っ張って伸びた所でいつも辞めてしまう。
それが理由で伸び代はあるのにどのゲームでもランカーレベルには1歩及ばず、いつもなれず終い。
そんな彼女がそこそこ良い戦績を残せているこのゲーム、今の彼女のランクは全体の25%に相当する上位ランクの『50ランク』レベル、悪くない。
『私もしかしたらエンオン向いてる?』
そんな事を考えながら彼女はこのゲームにダイブする。
「よし、じゃあ始めるかな」
そんな私が熱中するこのゲーム フルダイブ型MMO『ENDLESS×ONLINE』*略して『エンオン』そのシンプルかつ、美麗なアイコンを今日もタップしバイトで買ったゲーム特化の高額なスマホとそれに装着する専用のVRゴーグルデバイスを顔面に装着する。
『VISION社』が開発したVRゴーグルとスマートフォンをリンクするだけでフルダイブ出来るストレスフリーな仕様、ここに行き着くまでは色々試行錯誤があったと昔のゲーマーは語る。
そして彼女は今日もゲームの世界にダイブを開始する。
──フィイィィン。
起動音が鳴り、装着したゴーグルの動作中のライトが緑色に光る。
そうするとリンクしたスマホの映像が流れ始め、フルダイブが開始される。
真っ白な空間に飛ばされ目の前にコンフィング画面が表示されアカウント名の『ステラ』と記された画面をタップするとみるみるうちに彼女の服装がファンタジー世界に相応しい姿に変わっていく、彼女の今の選択ジョブは『魔法使い』フリフリした女の子らしいスカートと魔法の杖、それは小柄な彼女にとても似合っていて可愛らしい。
服装のロードが終わると画面が一瞬で切り替わり『ENDLESS×ONLINE』の世界へとフルダイブが完了する。
こちらの世界へと意識が移り変わり、ステラはゆっくりと瞳を開ける。
──澄み渡る森林の空気。美しい鳥の声、キラキラした湖そんな光景が彼女の目の前に広がっている。
「はーーっ……やっぱりイリスの森は癒されるなーっ 学校の疲れも吹き飛んじゃったーっ」
前回ログアウトした場所である新緑が綺麗な場所『イリスの森』に彼女は居た。
現実とはかけ離れたこの美しい世界を全身で感じながら開放感に浸る、現代社会生活でのストレスを癒すようになんて気持ちがいいんだろう彼女は心からそう思った。
パタリとその場で草むらに倒れ深呼吸をする。
(んー〜っ気持ちいい……)
澄んだ森の空気が肺へと行き渡り全身でこの心地よい大自然を感じる。
「特に今日は走るイベントも無いし丸一日ゆっくりやろーかなー〜 ふぁぁ──……ねむっ 」
──彼女はそうやって目を閉じ、少し眠ることにした。
VRゴーグルを装着するだけで家の中なのに外出が手軽にできるといった【VRMMO】ならではの楽しみ方である。
『スゥー、スゥー、スャア……』
──ザッ……。
「ん? ふふ、やっと見つけた……彼女なら。ええと名前は『ステラ』ちゃんね」
◇何時間たっただろうか、静かな森でお昼寝をしている彼女に近づく影が1つ。
「ねぇ? 君、今時間あるかな?『ステラ』ちゃん」