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ギフティ  作者: ハル
3/10

第3話 それぞれの想い・後編

 その日の放課後。

 昇降口で、壱は背後から突然話しかけられた。


「鳴海君、途中まで一緒に帰らない? 私ね、鳴海君と帰り道が同じ方向なの」


 笑顔でそう言ったのは、萌花のニつ前の席の、名前は確か……糸田サン。

 カバンを持ち直して壱が断る。


「俺、今日寄るとこあって別道だから」

「どこ行くの?」

「萌花の家に見舞い」

「佐々原さん、病気でヤバイ状態なんでしょ?」

「は?」


 唐突のそんな言葉に、足を止めて相手を見る。

 すると彼女が真顔で言う。


「私、鳴海君のことが好きなの。私と付き合わない?」

「断る。俺は萌花と付き合ってるし」

「でも彼女、もうすぐ死ぬんでしょ? 噂でそう聞いたもん」

「死ぬわけないだろ! お前バカじゃないのっ?」


 乱暴にそう言い放ち、壱は振り切るように駆け出す。


 なに言ってんのアイツ、なんなの。

 少し寝込んだだけで死んでたら、病院は死人だらけだろ!

 冗談にしては悪質すぎる暴言に、怒りが込み上げるのは当然。



 ……六分後。

 萌花の住むマンションに到着。

 デートの後で、何度か彼女をマンション前まで送ったことはあったから、場所は確かに知っていた。

 が。


「部屋番号……知らねぇ」


 たった今それに気付く。

 マンションというのは、部屋は一つだけじゃなく、たくさんあるものだ。

 イマドキ、防犯意識から表札出してる部屋などない。


 交際三ヶ月。

 お互いの部屋に行く親密度ではない、キス以上の行為はまだしてない関係。

 ズボンのポケットからスマホを取り出して、壱は萌花にかけてみる。

 けれど応答なし。


 ……さて、どうする?


 時折、マンションの住人らしい人物が出入りしている。

 かといって『佐々原萌花さんの部屋はどこですか?』などと訊こうものなら、ストーカーか変質者に疑われる確率大。

 ヘタすりゃ、警察通報→ 職質→ 保護者連絡→ 夕飯ナシ→ 絶望。


 もう一度、電話をかけてみる。

 眠っているのか応答はない。

 一度マンションを見上げた後、回れ右して、壱は来た道をゆっくり戻って行った。



 その同時刻。

 壱より一足先に、萌花の家に招かれた一人の訪問者がいた。

 萌花の部屋のドアをノックして、その人物が中に入る。

 部屋の中は、大小様々なぬいぐるみが大量に置かれた、女子らしい可愛い部屋。

 入って正面に大きな窓があり、けれど今はカーテンが閉じられたまま。

 左奥の壁際に置かれたベッドの布団の中で、萌花はパジャマ姿で寝ていた。

 傍に置かれた勉強机のイスを引き寄せて、ベッド脇に置いて座ってから、静かに声をかける。


「久しぶり」


 たぶん起きているだろう、そう感じたから言葉を続ける。


「どうしたのお前? 飯もロクに食ってない、大好きなお菓子も食わない、っておばさん相当心配してたぞ。おじさんが単身赴任中で頼る人いなくて、連絡先知ってる元カレの俺のところに昨日電話くれて、それで俺が今日様子見に来たんだけど。つか、おばさんに俺と別れた件と今カレの連絡先を教えとけ」


 ぶっきらぼうにそう話すのは、萌花の元カレの、海斗。

 彼の言葉通り、萌花の父親は現在、仕事で遠い福岡に一人単身赴任中。

 娘の体調が優れず休学していることを心配した母親は、頼る相手がいなく、連絡先を知っていた海斗に助けを求めた。

 二人が別れていたとは知らずに。


「学校ずっと休んでるんだって? 風邪一つひいたことない健康体のお前が、急にどうしたよ?」

「……」

「イジメではないだろ? お前をイジメる勇者が仮にいたとしたら、速攻、お前の親友二人に返り討ちにあうはずだし」

「……」

「彼氏とケンカでもしたか? それで行けなくなってる?」

「……」

「起きてるんだろ、バレバレだぞ。黙ってたら分からない、わざわざ来たんだから理由を教えなさい」

「……」


 いくら話しかけても返答ナシ。

 彼女は横向きで壁側を向き、海斗に背を向けている格好なので、表情を見ることはできない。


「こっち向いて。萌花の可愛い顔を見せてオネガイ」


 飴と鞭作戦に変更。

 ネコ撫で声でそう誘ってみる……が、反応なし。

 少し伸びた彼女の後ろ髪は、クシで梳かしていないのか、派手に絡まっている。


 そっと。


 手を伸ばして髪に軽く触れ、髪が鳥の巣みたいになってるぞ、小さな声でそう教える。

 少しだけ見える白い首筋は、元から華奢な体だが、さらに細くなったように見えた。


「原因が彼氏なら別れればいい……俺がもらってやるよ」


 気付けばそう言っていた。

 それは海斗の本音。

 なにも話さない振り向きもしない彼女の後ろ姿を見ながら、静かな声で、そのまま自分の想いを伝える。


「萌花……もう一度やり直さないか? 俺達、お前のヘンな誤解が原因で別れて、お互い嫌いになって別れたわけじゃない。そうだろう?」

「……」

「なにか言えよ」


 するとようやく。

 海斗に背を向けた姿勢のまま、とても小さな声で、彼女は呟くように言った。


「……こわい……」

「なにが?」


 けれど、萌花はそれ以上の言葉は発しなかった。


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