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第312話 くっころ男騎士VSアリンコ兵(2)

 アリンコ部隊との戦闘は、かなり熾烈なものとなった。こいつらは四本も腕が生えているだけあって一対一の白兵戦でも滅茶苦茶強いし、統制も良く取れている。密集隊形を多用するため爆発物は有効だが、残念ながら手榴弾の備蓄はそう多くは無い。手榴弾一辺倒で立ち回るのは流石に無理があった。

 そこで僕は、初撃の手榴弾祭りによるショック効果が薄れてきたタイミングで、一度部隊を後退させることにした。とはいっても、本格的な撤退ではない。相手により多くの損害を与えるため、部隊の再配置を行ったのだ。


「こうしてみると……あの穴倉は一種の城砦なのじゃなあ」


 倒れたアリンコ兵にトドメを刺しつつ、ひどく気楽な声でダライヤ氏がいった。まるで散歩の途中のような気安い話し方だが、彼女のポンチョは返り血で真っ赤になっている。背中に描かれた血染めの轡十字(くつわじゅうじ)が大変におどろおどろしかった。魔法の名手であるダライヤ氏だが、剣技の方も達人級なのである。


「我々エルフは砦を築かん。アリンコもじゃ。このような戦い方は、なかなかに新鮮じゃのぅ」


 彼女がちらりと視線を送った先には、我々の塹壕があった。アリンコ兵の一部はスクラムを組んで塹壕の突破を図ろうとしているが、守備に当たっている陸戦隊がそれを許さない。ライフルを撃ち込み、銃剣で突いてアリンコ兵に対抗していた。

 塹壕前方の地面はスロープ状に整地されており、銃剣を持った兵士は塹壕内に身を隠しつつ敵兵を上から攻撃できるように工夫されている。これにより、練度面にやや不安のある一般兵でも精強なアリンコ兵と対等に渡り合えるのである。

 そしてそうやって攻勢側の守備側が拮抗している間に、火炎放射器兵が急行してきて敵集団を焼き払うのである。このコンボにより、今のところ塹壕には一人の敵兵の侵入も許していないようだった。


「エルフたちが野戦を得意としていることは分かっていたからな……敵の得意とする土俵で戦うなど、冗談ではないッ!」


 アリンコ兵の噛みつき攻撃を籠手で防ぎつつ、僕はダライヤ氏に返した。クワガタめいた大アゴが籠手の装甲を圧迫し、耳障りな音を立てる。凄まじい噛力だ。生身で受ければ手足くらいは簡単に噛みちぎられそうに思える。追撃しようとするアリンコ兵の腹に、僕は拳銃を撃ち込んだ。そのまま膝蹴りを喰らわせて、強引に身体を引き離す。

 ルンガ市や"正統"の隠れ里は、防衛設備の類が一切なかった。拠点に籠っての防御戦などは一切捨て、野戦にすべてをかけるのがエルフ流の戦闘教義(ドクトリン)なのだろう。なんぼなんでも攻撃偏重過ぎるだろとは思わなくもない。


「長命種の感覚からすると、たいていの建造物は寿命が短すぎるのじゃ。手入れも面倒じゃしのぅ……建物など、使い捨てにした方がラクで良いのじゃ」


 そんなことを言いながら、ダライヤ氏は舞うようなステップでアリンコ兵に襲い掛かる。迫りくる槍の穂先を最低限の動きで回避し、返す刀で強烈な逆袈裟斬りをお見舞いした。盾でそれを防ぐアリンコ兵だが、その足を風刃の魔法で斬り落とすダライヤ氏。悲鳴を上げつつ転倒する敵兵に、ロリババアは無慈悲なトドメを差した。


「ほんにアリンコ共は手強いのぅ。老骨にはなかなか堪えるわい……」


 腰を叩きながらそんなことを言うダライヤ氏に、僕は不信の目を向けた。手強いとか思ってる人間の戦い方じゃないだろ、アレ。


「……」


 一方、ダライヤ氏のようにはいかないのが、僕の従者として戦場に出てきたカリーナである。アリンコ兵の猛攻を、剣を振り回してなんとか凌いでいる。どう見ても劣勢だ。

 我が妹も毎日の鍛錬を決して怠っているわけではないのだが、単純に相手が強すぎるのである。アリンコ兵の平均的な練度は極めて高い水準にある。エルフどもと同じく、雑兵でも一般的な騎士と同じくらいの戦闘力があると判断していいだろう。見習い騎士には荷が重い。

 できれば助太刀してやりたいところなのだが、僕もなかなかに忙しい。周囲のアリンコ兵のほとんどが、なぜか僕を集中攻撃してくるのだ。「チェストアリンコ!」などと叫びながら一人のアリンコを真っ二つにするが、即座に次の敵が現れる。


「おうおう、男たぁ思えん暴れっぷりじゃのぉ。ええ、コラ? 手前のせいで何人の姉妹が死んだと思っとるんじゃワレ!」


「どう落とし前つけてくれるんじゃボケ! 最低でも殺した分は孕ましてもらうけぇ覚悟しとけやこの野郎!」


「頭パーになるまで輪姦(マワ)しちゃるけぇ楽しみにしとけよコラ!」


 アリンコ兵は荒々しい口調でこちらを威圧してくる。こいつらは軒並み体格が良いので正直かなりコワイ。カリーナなんか、もう完全におしっこをチビっている。だが、指揮官たるものこの程度で怯むわけにはいかない。僕は即座に言い返した。


犯す(ファック)犯す(ファック)うるせんだよこのファッキン害虫共が! そんなにファックされてぇンなら鉛玉(タマ)でも(サオ)でも好きなだけぶちこんでやらぁ!! キエエエエエエーッ!」


「グワーッ!」


「あ、姉貴ィ! この野郎男じゃけぇ甘い顔しとりゃつけあがりよって……もう許せん!」


「やめんかこのダボ! 隊列を崩すな!」


「グワーッ!」


「ああもう、言わんこっちゃない!」


 戦場はもう大混乱である。しかし、全体的にはこちら優位に傾きつつあった。アリンコ兵どもの持ち味は、ファランクス陣形による強固な防御力だ。しかしすでに大人数で密集隊形を取れるような状況ではなく、エルフたちの得意とする乱戦に持ち込めている。さらに……。


「突出は絶対にしんさんなや! エルフは盾を使うて囲んで叩く……ぐあっ!?」


 指示を出していた指揮官らしきアリンコ兵が、脇腹に銃弾を受けて倒れ伏す。塹壕からの狙撃を受けたのだ。部隊を再配置した理由がこれである。塹壕を背にしていては、支援射撃をうけられないからな。大砲がないからこそ、小銃火力を最大限発揮する陣形で戦わねばならない。

 手榴弾で敵の出鼻をくじき、その隙に近接白兵を仕掛ける。そして、敵陣が混乱しているうちに塹壕からの狙撃で敵兵を着実に削っていく。それが僕の作戦だった。即席で立てたものだが、今のところうまくいっている。


「よぉし、今だ! 押し込むぞ!」


 指揮官が倒れたのであれば大チャンスだ。僕はサーベルを振り上げながらそう叫び、目の前の敵兵に襲い掛かった。エルフどもは「オーッ!」と唱和し、猛攻を始める。

 アリンコ共は精強だが、エルフも決して負けてはいない。体格で劣る分を経験と魔法でカバーし、果敢に攻めたてていく。敵に回ると極めて厄介なエルフどもだが、味方に回ればこれほど頼もしいものもなかった。


お前(おんどれ)ら、雁首揃えて何をやりよるんじゃ情けない!」


 だが、アリンコ共もやられるばかりではない。後方から部下を引き連れた背の高い女が出てきて、大薙刀を振り上げながらそう叫んだ。アリンコ兵が「大姉貴ィ!」などと声を上げているので、おそらく高位の指揮官だろう。


「このままウダウダやっても無駄に兵隊が死ぬるだけじゃ。ここはわしがなんとかするけぇ、おどれらはいったん退いて体勢を立て直せ」


「ウス、わかりやした。大姉貴、よろしゅうおねがいします」


 まさに鶴の一声、大姉貴と呼ばれた女の撤退命令に、アリンコ兵は誰一人異論をはさまず整然と後退を始めた。そうはさせまいとエルフどもが追撃をはじめたが、そこに投げ槍の雨が降り注ぐ。"大姉貴"の取り巻きたちが放ったものだ。……凄いね、アリンコの投げ槍。平気で百メートル以上飛んでるんだけど……。


「雑兵なぞ捨て置け!」


 エルフたちに向かって、僕は大声でそう命じた。すぐ近くには、ヴァンカ派の連中もいるのだ。下手に深追いして陣地をがら空きにしたら、敵に付け入るスキを与えることになってしまう。戦果拡大は後回しにすべきだろう。

 それよりも、今は"大姉貴"だ。せっかく敵将がノコノコ前に出てきたんだ、それなりの歓迎をしてやらにゃ、ブロンダンの家名が泣くってもんだろ。よーし一発煽ってやるかと口を開きかけた瞬間だった。


「おおっ! 手柄首が自分から飛び込んでくるとは感心感心! これぞ飛んで火にいる夏の虫じゃな!」


「おい大婆様、今は秋……ちゅうかもうすぐ冬だぞ。アレん首が(オイ)が獲ってやっでボケ老人はすっこんどれ!」


「オウオウ、(オイ)を差し置いて先駆けとは良か度胸じゃな。若様ん口づけを頂ったぁこん(オイ)じゃ!」


「首や首だ首だ! そん首級貰い受くっッ!」


 命令を出しても居ないのに、エルフ兵どもが大挙して敵将に襲い掛かり始めた。その先頭に立つのは、なんとダライヤ氏である。……コイツらさぁ、ほんとさぁ……はあ……。

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[一言] 知恵捨て勢が多すぎるw カリーナは素直にメイスか大斧でも使わせとけばいいと思う(牛頭orミノタウロス扱い
[一言] おもしろい!
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