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第310話 くっころ男騎士と迎撃作戦

 僕はダライヤ氏やカリーナを伴い、北川陣地を訪れた。すでにアリンコ部隊は間近にまで迫っており、彼女らの叩く陣太鼓の激しいリズムが、否が応でも焦燥感を掻き立てる。

 すでに妖精弓(エルヴンボウ)の射程内であり、ライフル兵のみならずエルフ兵も射撃に参加していたが、アリンコ兵は相変わらずの防御力を発揮しており、大した効果は無いように見える。まるで移動要塞だ。進軍速度がゆっくりなのが、唯一の救いだな。

 ああ、あの密集隊形のド真ん中に大砲をブチこみたい。重砲なんて贅沢は言わない。リースベン軍で制式採用している八六ミリ山砲で十分だ。……だが、残念ながらもはや僕の手元には一門の大砲もないのである。ロケット砲も残弾はないしな。はあ、無いものねだりをしても仕方ないのはわかってるんだが……。


「背後に回り込んで矢を撃ち込めば、面白かごつ倒せっんどんねぇ。相変わらず無暗に面倒な手合いじゃわ」


 出迎えてくれた顔見知りの長老が、肩をすくめながらそう言った。確かに、弾幕と言っていい密度で降り注ぐ矢や銃弾を前にしても、アリンコ共は怯むどころか進軍スピードを緩めることすらしていない。

 そうこうしている間に彼我の距離は縮まり、アリンコ部隊の中衛や後衛が槍を投げ始めた。投槍器(スピアスロアー)(投槍の飛距離を稼ぐために使う棒状の器具)の類いを使っているようだが、それでも凄まじい飛距離とスピードである。野球選手に転向すればメジャー・リーグでも大活躍間違いなしの強肩ぶりだ。

 とはいえ、こちらの部隊は塹壕に籠っている。投げつけられる槍は地面や土塁、天蓋に突き刺さるばかりで大した被害は受けなかった。


「不毛な射撃戦だな……」


 射撃の応酬を見ながら、僕は呟いた。補給のめどが立っていない以上、矢玉は温存しておきたいんだよな。もしかしたら、第三のヤバ蛮族が出現するかもしれんし。無いとは思いたいが、二度あることは三度あるともいう。警戒するに越したことは無いだろう。


「エルフは射撃中止! ライフル兵も、牽制程度に打ち続ければ十分だ!」


 砲兵火力には頼れず、歩兵の射撃ではほとんど効果が見込めない。なんともしんどい状況だ。このまま漫然と戦い続けていたら、いずれアリンコ共は塹壕内になだれ込んでくるだろう。それはマズイ。


「ダライヤ殿。僕はあのアリンコ共を塹壕の外で迎撃しようと考えているが、どうだろうか?」


「ウム、その通りじゃ。閉所での戦闘は、あ奴らの得意中の得意とするところ。なにしろ奴らは四本の腕に加え、尻には毒針まで備えておるのじゃ。さらには強力な噛みつき攻撃までしてくるのじゃから、手に負えん。逃げ場がないような場所で戦えば、ひとたまりもないぞ」


「手数が実質三倍ってことか……」


 毒針だの噛みつきだの、まるでクリーチャーみたいな攻撃手段だな。怖すぎるにもほどがあるだろ。虫人は獣人や鳥人と比べても個性豊かなメンツが揃っているが……軍隊アリ虫人は、その中でもかなり強力な部類のように思える。


「とにかく動き回ってかく乱しつつ、一瞬のスキをついて倒す……これが定石じゃな」


「なるほど、承知した」


 ま、何はともあれやることは同じである。僕は頷きつつ、迫りくるアリンコ痴女軍団を睨みつけた。彼女らは、もはや目と鼻の先まで迫っていた。被っている兜の恐ろしげな意匠まで、ハッキリと視認することができる。


「陸戦隊は、塹壕内で待機! 連中が射程に入ったら、手榴弾を投げつけまくって敵前衛を滅茶苦茶にしろ」


「手榴弾を投げ終わったら?」


 陸戦隊の隊長が聞いてくる。リースベン歩兵は一人に付き三個の手榴弾を装備していた。この程度の数では、下手をすれば一分も立たないうちに投げ尽くしてしまうだろう。


「塹壕内に連中が入り込まぬよう、銃剣で突きまくれ。オルファン殿から火炎放射器兵を借りてきているから、彼女らと連携して立ち回るんだ」


「か、火炎放射器兵ですか……了解しました」


 隊長の顔色が悪くなった。ルンガ市郊外の戦いで起きた惨劇は、まだ記憶に新しい。僕だって人間相手に火炎放射器なぞ使いたくはないが、背に腹はかえられない。仕手段は全部使う。


「僕は塹壕から出てあのぽっと出の害虫をまとめてチェストする。エルフどもは供をせよ」


「おうおう、お任せあれ! もちろん地獄までお供いたす!」


「蟻狩りとは久々にごつ! 血が湧きたちもすなあ!」


「上げた首級ん数で競争をしようじゃらせんか」


「面白か勝負じゃな! (オイ)も一枚噛ませてくれぃ」


 こんな状況でもエルフどもは相変わらずである。なんとも頼もしい限りだ。……なんだかひどく物騒なことを言っている連中がいるような気がするが、気のせいだ。気のせいであってくれ。

 まあ、それはさておきやはりこういう状況ではエルフは大変に頼りになる。装備も練度も大切だが、一番重要なのは士気だ。戦意の萎えない兵隊は強い。そういう面では、エルフどもは最強である。

 頼りになると言えば騎士隊もだが、連中は南の戦線でヴァンカ派と交戦中である。向こうの戦線も油断ならぬ状況なので、さすがに引き抜くわけにはいかない。現状はエルフ兵と陸戦隊のみで対処しなくてはならないということだ。


「……」


 周囲を見回す。狭い塹壕内には兵隊がミッチリ寿司詰めになっているが、これでも我らの総兵力の中では二割から三割程度である。残りの連中は南の戦線にいるか、あるいはすぐ後方で塹壕や防御拠点の拡張にあたっている。

 せっかくの戦力の優位も、戦場が狭いせいで生かしきれないのが残念だ。まあ、いくらエルフェン河が大河だといっても、所詮ここは河原だからな。こればっかりはどうしようもない。

 護衛対象がいる以上、森の中にも逃げ込めないしな。……いや、森は河原以上に大軍の利が活かしづらい土地なので、アリンコ共の出現という条件を加味してなお森林戦は避けたいところだが。


「来たな……しっかり引き付けろよ」


 陣太鼓を打ち鳴らしつつ、アリンコ兵が接近してくる。すでに目と鼻の先といっていい距離だ。ここまで近寄ると、彼女らが装備している武具も細かく観察することができる。

 アリンコ兵が身に着けている防具は漆塗りしたように黒光りする独特な代物だ。特に特徴的なのは兜で、恐ろしげな意匠を施された顔の上半分を覆うものである。鼻から下は露出している。アメコミ・ヒーローがよく被っているタイプのマスクのように見えなくもない。


「手榴弾、放て!」


 あまり引き付けすぎると、投げ槍が塹壕内に飛び込んでくるリスクが高くなる。僕は大声で手榴弾投擲を命じた。鉄帽を被った竜人や獣人の兵士たちが、鋳物の鉄球を思いっきり投げる。

 放物線を描いて飛んだ手榴弾は、狙い違わずアリンコ軍団へと降り注いだ。頑強極まりないスパルタ式重装歩兵隊も、さすがに爆発に対しては無力である。連続爆発で幾人ものアリンコ兵が吹き飛んだ。

 歓声を上げつつ、陸戦隊は手榴弾を投げまくる。爆発、爆発、また爆発。鼓膜が破れんばかりのその大音響に、テンションが上がってくる。


「城伯様! 全弾投擲完了いたしました!」


「よぉしッ!」


 隊長からの報告に、僕はサーベルを抜き放った。フラストレーションをため過ぎたのか、すっかり気分が前世のころに戻っている。普段なら口にしないような言葉が自然と口から漏れ出していた。


「さあて貴様ら、ペイバックタイムだ! クソ虫どもをファックしてやれ!」


 僕の号令に、エルフたちはワッと鬨の声を上げながら塹壕から飛び出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鳥人一人でエルフ一人吊るして移動かのうなら 後方やや上空から射撃して欲しいわな 流石にここまでしろとは言わんが https://youtu.be/1XL0x8tf94c?t=558
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