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第13話 くっころ男騎士の協力要請

 銃をぶっ放したおかげで、今のところ参事たちは僕の話を聞いてくれる状態にはなった。でも、これはあくまで銃声を利用した動揺に付け込んでいるからに過ぎない。正気を取り戻す前に、ちゃんとした危機感を持ってもらわないとな。


「あなた方が血の滲むような努力をして築き上げたこの都市に、不埒な輩の魔の手が迫っている」


 舞台に立つ役者のような声音と身振りで、参事たちに語り掛ける。前世にしろ今世にしろ、軍人であれば演説を聞く機会はいくらでもある。それらの記憶から参考になりそうなものを思い出しつつ、言葉をつづけた。


「店や、家や、あるいは家族。あなた方には、守るべきものが沢山あるはずだ。侵略者どもは、それを虎視眈々と狙っている! 破壊の限りを尽くし、財貨を奪い、家族や友人を殺し、恋人や夫を犯そうとしている! そんなことを認められるか?」


 まるで激怒しているような口調で、僕は叫ぶ。怒りはもっとも伝染しやすい感情だ。相手の不安に付け込むように怒って見せれば、大概の人間は簡単に乗ってくる。まあ、これはどちらかといえば詐欺の手口だけど……

 案の定、ただ困惑するばかりだった参事の目に光が宿った。一人の恰幅の良い女がこぶしを握り締め、首を左右に振る。


「認められない。……そんなことは絶対に!」


「その通りだ!」


 よし、かかった。心の中で安堵のため息をつく。怒りを煽るのは簡単だが、場合によってはその矛先がこっちに向かってくることもよくあるからな。もしそうなれば、どうしようもない。人狼ゲームの人狼よろしく吊るしあげられる前に、尻尾を巻いて逃げ出す以外の選択肢はなくなってしまう。


「我々は、団結せねばならない! 内紛などしていたら、奴らの思うつぼだぞ。少しでも隙を見せれば、敵はそれに付け込んでくる!」


 腕を振り上げ、僕は叫んだ。これがペテン以外の何だというんだと、僕の中の冷静な部分が毒を吐く。冷静な説得よりは、感情に訴えかけた方が手っ取り早いからな。

 やり方は詐欺的でも、危機に備える必要があるというのは事実だ。自己嫌悪を押さえつけつつ、僕は続ける。


「前任者は明らかに、人心の乱れを狙ってこの事件を起こしている。どういう目的があるのかは不明だが、ろくでもないことであるのは間違いない」


 荒々しい口調から静かな口調に切り替え、僕は参事たちに語り掛けた。おそらくは彼女もオレアン公の駒の一つにすぎないのだろうが、ここは彼女に泥をかぶってもらおう。


「たんなる嫌がらせのために、ここまでのことをするはずがない。何者かが狙っているんだ、この町を!」


 実際のところ敵の狙いが何なのかはまだ不明だ。しかし、ここはあえてこの町が狙われていることにしておく。出来るだけ危機感をあおってやらないと、彼女らの協力は得られそうにないからだ。


「そういえばあの女、ことあるごとに辺境に飛ばされたと文句を言っていたな……」


「まさか、左遷されたことを不満に思って……?」


「神聖帝国のスパイにそそのかされたんじゃ……」


 参事たちの間に、ざわざわと疑念が広がっていく。やはりエルネスティーヌ氏は、この街の住人とは不仲だったみたいだな。

 しかし、寝返りか。完全にオレアン公の陰謀のつもりでコトにあたっていたが、そういう可能性もあるか。あくまで脅威の一例として挙げた神聖帝国だが、そちらの方も警戒しておく必要がありそうだな。厄介ごとが多すぎて、胃が痛くなりそうだ。


「何にせよ、我々が脅威に備えねばならないということには変わりがない。人心の乱れを防ぎ、治安を維持する必要性がある。もちろん、こんなことは言われるまでもなくあなたたちは理解しているだろうが……」


「あ、ああ。そうだな。それは確かだ」


「町中で強盗が横行するようになったら、商売あがったりだ。神聖帝国だの蛮族だの以前の話だな」


 神妙な表情で頷く参事たち。彼女らも本業は別にある。商人にしろ職人にしろ、町が荒廃すれば仕事どころじゃなくなるからな。それは何がなんでも避けたいところだろう。


「とりあえず、自警団を強化して町の巡回に当たらせよう。代官様も、それでいいね?」


「ああ。本格的な武装も許可する。こちらも出来る限りの協力はするから、どうか自体が落ち着くまでは協力していただきたい」


 ガレア王国の法律では、武装は貴族か特別な認可を得た者以外には許可されていない。町の自警団のような人々は短剣やこん棒のような非力な武器しか装備していないわけだ。

 しかし、非合法な武器が裏社会に出回っているのは、前世の世界も今の世界も同じだ。それらを制圧しようと思えば、武装を強化するほかないだろう。正直、後々のことを考えれば本業の衛兵でもない連中に武器は渡したくないが……。


「それから、代官屋敷のほうにも人手を回してほしい。何しろ、僕の手勢以外には使用人連中くらいしか残っていないからな。このままでは、行政を回すどころじゃない」


「確かに、それは困るねえ……仕方がないか。わかったよ」


 不承不承と言った様子で、老婆が頷いた。それを聞いた周囲の参事たちも、協力を申し出はじめる。よかった、これで何とかなりそうだ。


「待ってくれ」


 そう思った時だった。一人の参事が、僕を睨みつけながら言った。「男ごとき」と発言した、あの女だ。


「なるほど、確かに皆が協力してコトに当たる必要性があるのはわかったさ。だけどね、それを男が差配できるはずがないじゃあないか。男は貧弱だからね。そんなヤツをアタマに据えていたら、あたしらまでナメられることになる……」


 傲然とそう言い放った女の声には、明らかに僕を馬鹿にする色があった。

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