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第11話 くっころ男騎士と方針決定

「傭兵、ですか」


 感心したような表情で、ソニアが僕を見る。


「いざというときは、肉盾として使えば良いわけですしね。なるほど、さすがはアル様。いいアイデアです」


 いや、その……もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないかな……ソニアの発言が物騒なのは今さらなので突っ込まないけどさ。


「……まあ、盾にする云々はさておき、このままじゃ索敵や情報収集すらままならないからな。"敵"に対して受け身のままってのも、よろしくないだろ。出来るだけこちらからアクションをしかけられるよう、体制を整えよう」


「ええ、その通りです。急いで傭兵を手配しましょう」


 にっこりと笑って頷くソニアだったが、部下の騎士の一人が片手をあげて質問する。


「しかし、隊長。こんなド田舎……いや、失礼」


 使用人たちの方をちらりと見て、騎士は発言を改める代官屋敷に残った使用人は、この町で雇用された人々だ。その目の前で故郷を馬鹿にするのは無思慮というものだろう。いや、そこまで配慮が出来るなら、最初からド田舎なんて言わないでほしかったけどさ。


「もとい、開拓地で、手ごろな傭兵が雇用できますかね? 手足として使うつもりならば、それなりの規模の傭兵団を雇いたいところですが」


「この町で、というのは難しいだろうな」


 カルレラ市はまだまだ町としての規模が小さいし、その上ほかの地方へのアクセスが悪い。傭兵団からすれば、あまりうまみのない土地だろう。


「なので、傭兵は別の場所で雇う」


 そう言って僕が取り出したのは、この地方の詳細な地図だった。この世界において正確な地図というのはまだまだ貴重なものなので、騎士と言えどそう簡単に手に入るものではない。これも、アデライド宰相に無理を言って用意してもらったものだ。

 そしてその代償にやはり僕はセクハラされた。地図を貰えるうえ、美女に体中をまさぐられるとか、むしろご褒美なんじゃないだろうか。いや、その先の関係性に発展する目が皆無なのがかなりツライところだけど。


「北の山脈を越えた先に、レマ市という街がある。往復で一週間かかるかかからないかくらいの距離だな」


 地図をテーブルに乗せつつ説明すると、興味深そうな様子で騎士たちがワラワラと集まってきた。その様子を見るに、彼女らの士気は十分高い様子だ。

 何しろ今は、そうそうないくらい厄介な状況に陥っている。そんな中でも混乱することなく士気を維持してくれているのは、有難い限りだ。心の中で、そっと安堵のため息を吐く。


「ここはそれなりに発展した街らしいし、その上領主はアデライド宰相の派閥だ。使者を送って事情を伝えれば、腕のいい傭兵をあっせんしてくれるはず」


 馬をはじめとした足りない物資も、レマ市ならば補充できるはずだ。今後のことを考えれば、レマ市に使者を送るのは確定路線と考えていいだろ。


「……宰相派閥ですか。協力を要請するのは致し方ありませんが、アル様は絶対にその街に近づかないようお願いします」


 やたらと警戒した表情で、ソニアがそんなことを言う。宰相の仲間は全員セクハラ魔か何かだと思っているんだろうか、この副官は。いや、僕を心配してくれているのはわかるけどさ。


「まあ、そもそも僕によそ様の領地へ行くだけの余裕ができるのは、しばらく先になるだろ。たぶん」


「ならば良いのですが……」


 安心したようにその豊満な胸を撫でおろすソニアだったが、今日から馬鹿みたいに忙しくなることが確定している僕からすれば、たまったもんじゃない。思わず顔が引きつりそうになった。


「とはいえ、レマ市も結構遠い……傭兵が到着する前にコトが起こってなきゃいいけど」


 そもそも、レマ市までは一本道だ。僕がオレアン公なら、その道に刺客を配置しておく。エルネスティーヌ氏の行為が中央に知られると、向こうもかなり厄介なことになるだろうからな。対策はしっかり打ってるだろ、流石に。


「やっぱり、馬がほしいな。オレアン公の手のものに使者が襲撃された場合、徒歩じゃあ強行突破さえおぼつかないぞ」


 護衛を大勢連れて行けばなんとかなるかもしれないが、今の状況じゃあ送れて一人か二人だろう。


「奪われたのは我々の馬のみです。町で使えそうな馬を探して、徴発してしまいましょう」


「背に腹は代えられないか……」


 強制徴発するからには、普通に売買するより多くの謝礼を持ち主に渡しておく必要がある。強盗じみた手段を取って住民に嫌われるのは、代官としては致命的だからな。

 とはいえ、傭兵を雇う以上出費は多くなる。軍資金は借金が原資であり、補充されるめどは立たない。出来るだけ節約していきたいんだけどなあ……


「ケチっていい状況でもないか。よし、そこらで暇そうにしてるやつをとっ捕まえてきて、馬を持ってる人を探してきてもらえ」


 僕は腰に下げている巾着から銀貨の入った革袋を引っ張り出し、部下の一人に投げ渡した。カネで買える労働力は、積極的に活用するべきだ。今は節約のことは考えないようにしておく。

 最悪、コトが終わったらアデライド宰相のオモチャとして自分の身体を差し出せば、追加融資の一つや二つしてくれるかもしれない。……なんだか楽しみになって来たな。黒髪美女のオモチャ、悪くないぞ。


「そっちは任せた。僕の方は、町の参事会へ事情を説明しに行く。僕たちは行政に関しては素人ばかりだからな……そっちに協力を頼まなきゃ、まともに仕事を回せないだろう」


 参事会というのは、いわば市議会のようなものだ。とはいっても、ここは封建制が現役のファンタジー世界。選挙でえらばれるわけではなく、職業ギルドのギルド長をはじめとした町の有力者たちで構成されている。

 彼女らにも思惑やプライドがあるだろうから、ハードな交渉が予想される。気が重いが、こればっかりは他人に任せるわけにもいかないからな。僕が頑張るほかない。


「ほかの連中は、マニュアルに従って役人どもが抜けた穴を埋めてくれ。慣れない仕事でなかなか大変だろうが、お前たちだけが頼りだ。よろしく頼む」


 僕の言葉に、騎士たちは「了解(ウーラァ)!」と元気な声を上げた。


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