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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
クリスマス編

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【B視点】クリスマスプレゼント

「お疲れ様でしたー」

 礼拝後は、厳かな雰囲気とは打って変わって和気あいあいとした談笑が繰り広げられる。

 みんな穏やかで気さくな人たちなんだよね。


 ご飯も作ってきてくれた人がいたのでみんなで頂いた。あえてケーキやチキンは避けて和食オンリーってのも気が利いてると思う。


「それにしても、若い子が来てくれて嬉しいわぁ」

 あいつは人見知りだけど年配さんの場合はその限りでもないのか、終始照れながら会話に応じていた。


 そんなに長くいたつもりはなかったんだけど、教会を出たときには夜の7時を回っていた。

 ここは親の好意に甘えて、家まで送ってもらうことにする。


 あいつも気を利かせたのか、『積もる話もあるだろうから車内で交わすといい。私は寝ている』と言ってくれた。

 そういや、目的としてはそっちもあったね。


 クリスマス礼拝については、『歌うまいな』と褒めてくれたことに密かな嬉しみを感じていた。

 や、内容ほっとんどわからんかったろうから苦し紛れの感想かもしれないけど。


「あの子、高校時代からのお友達だっけ?」

「そだけど」


 助手席にいる母さんが珍しく、あいつのことを持ち出した。

 確かに、あたしはこれまで友達を親に紹介したことなんて小学生以降は稀だったけど。


「仲いいんだなあ」

 父さんまで会話で冷やかしてくるもんだから、あたしはむずがゆい居心地になってくる。


「どしたわけ、急に」

「だって、ここまで長く続いてる関係って初めてじゃない? 大学だって違うのに」

 まあ、普通はそうか。

 大学で別々になったら縁はどんどん薄れていくもんだし。


 実際、うちら生涯親友ーだなんてプリクラ撮った女子連中とは、もう名前すら憶えてない。

 女の友情は時にハムより薄い。


「信者さん以外はつまんないであろう教会にまで来てくれてねぇ」

 いいのかクリスチャン。つまんないとか言って。

「今どき珍しく、まじめでいい子だと思うよ。大切にしなさい」

「言われなくても」


 一生大事にいたしますので。あなた方の目の届かないところで。



「あ、ここで降ろしてくれる」

 あたしはバイト先の隣、大型商業施設の前で車を停めるように言った。

 どうせならここで買ってこようと思ったのだ。9時で閉まっちゃう前に。

 あいつもいるわけだしね。


「じゃあ、来たくなったらいつでも待ってるよ」

「インフルとノロには気をつけなさいねー」


 親に手を振って、眠そうに目をこするあいつの背中を叩く。

 何か買うものでもあるのか? と聞いてきたあいつに向かって、あたしはふふんと胸を張った。



「クリスマスプレゼント。何がいい?」



 すっかりクリスマスムード一色に染まったモール内を、二人でうろつく。

 平日なのに中はそれなりに混んでいて、休息用に置かれているソファーはほぼ人で埋まっている。

 けっこう暖房も効いてるから暑くなってきた。


 あたしたちは3階の日用品店に来ていた。

 目的はあいつの希望通り、歯磨きセットを買うため。


「二人で集めていこう、と前に約束したから」

 ああ、誕生日のときか。


「いつでも買えるけど、それがプレゼントでいいの?」

「なんでもないものでいいと思うんだ。アクセサリーとか凝ったものよりも、日常にあるもので」


 そうだよね。いずれは一緒になるわけだから。

 使わない贈り物を貰ってそのままってこと、あるあるだしね。


 二人でどんなものを買おうか吟味して、よりすぐりの商品棚を眺めていく。

 最終的に持ち運びしやすいタイプに決まった。


 旅行時にも重宝する、ハードケースに入ったコンパクトなやつだ。

 そこのチョイスはあいつらしいと言うか。

 お値段もワンコイン内。本当にこれでいいのかな?


「ありがとうございましたー」


 プレゼント用と言って、きれいな包装紙に包んでもらった。

 大事そうにカバンにしまうあいつが、次はあたしの番だとプレゼントを聞いてくる。

 それなら、あたしも決まっているものがあるのだ。


「なんか、選んでもらってばかりで悪いな……」

「いいんだよ。これほんと効くんだから」


 選んだのは、同じく日用品。そしてあたしが勧めたのはあいつ用の枕だ。

 枕が一つしかないと地味に不便だしね。

 それに在宅ワークを始めたと聞いて、少しでも疲れをほぐすものを与えたいと思ったのだ。


 安眠の条件は、寝返りを打ちやすいもの。

 首から後頭部へのフィット感がいいもの。

 すぐに形崩れしないもの。


 というわけで、選ばれたのはウレタンフォームの低反発枕でした。

 首元の安定を意識して、ゆるくS字型のカーブを描くものにした。


 PC使うとストレートネックが心配になるから、これで快適な睡眠をサポートできればいいんだけど。


「当店はいつでもご利用をお待ちしておりますよ」

 大きい袋に包まれたそれを抱きしめるように抱えて、あたしはうきうき顔でモール内を歩く。


 帰ったらベッドに並べたいけど、うっかり使っちゃったら悪いから押入れに入れておこう。

 大事なお客様用だからね。



「…………」

 とある売り場に差し掛かったときに、あいつがさり気なくコートの袖をつまんできた。


 なんだろう、一体。こういうアプローチは珍しいな。

 足を止めて、聞いてみる。


「い、いつかの話だが」

 こういったものをいずれ贈りたいと、あいつが控えめに売り場を指した。

 背後に隠れていたお店だ。そっと覗き込む。

「ここって……」


 ジュエリーコーナーだった。

 もちろん、今のあたしたちではおいそれと手が出る額のシロモノではない。


 もっと大人になってから出直してきなさいと、ショーウィンドウに並ぶ物言わぬ輝きたちが相応の値札と共に語っているようで。


「今から頑張って貯めている。その時二人で、また来よう」

「じゃあ、それに備えてサイズも測っておこうよ」

 あんた一人に買わせるわけにもいかないので。


 サイズは疲れや季節とかのむくみで簡単に変動するからね。

 そのために体型と健康も維持していかないと。


 少しずつ、少しずつ。

 あたしたちはまだ、始まったばかりだから。


 いつか絶対また来るからなと二人で遠巻きに眺めて、あたしたちは少し早めのプレゼント選びを終えたのであった。

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