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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
進展編

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【B視点】夜は更けていく◆

 あたしは一度、顔をほんの数センチ離した。

 ふうとあいつの吐息がこぼれて、うっすら目を開く。


 固く握った手の親指が、くっと何かを伝えるように付け根をなぞる。

 期待に待ち焦がれているんだと分かった。


「……っ」

 意を決して、あたしは唇を突き出した。

 わずかに口を開けて、あいつの下唇をそっと捉える。


 歯は当ててない、よね。

 肉厚の、リップクリームに縁取られた湿り気のある感触が唇に伝わっている。


 ……えっと。ここからどうするんだ。

 はみはみって、そもそもどうやるんだ。


 やれと手順書にはあったけど、こうしろとは書かれてなかったと思う。

 1から10まで書くとこを、1と10しか書いてないサイトのなんと多いことか。


「ん、む、」


 こ、こうかなあ。

 挟んだ口唇を押し揉むように、力を込めて、抜いて、また入れてを繰り返していく。

 はみはみというより、あむあむだけど。

 ときおりくいくい引っ張ったり、強く挟んだりして、緩急をつけていく。

 下唇を刺激しまくったら、今度は上のほうも。


「…………」

 すべり落ちるようにそっとほどいて、顎を少し上げて、上唇を捕まえる。

 またあむあむやってたらワンパターンとか思われそうなんで、今度はしばらくそのまま挟むだけで。


「ん、んっ」


 ちょっと時間を置いて、上唇への奉仕を始めた。

 吸ったり、揉んだり、つたなくてもいい、とにかく時間をかけて。

 ……えっと。それで、次は。


「…………」


 あいつはしばらく、あたしにされるがままだったけど。

 なかなかあむあむから次にいかないあたしに痺れを切らしたのか、ついに行動に出た。

 次は短時間でのキスを重ねようと、口唇を解放した矢先。


「っ、」


 つなぎ止めるように、ぬるりと何かが唇をなぞっていった。

 遅れて、舐め上げられたのだと気づく。


「な、え、ぇぇ?」

 まさかあいつからそんなことするとは思ってなかったから、あたしは次に何をしようとしていたのかを一瞬で忘れて頭がパニックを起こす。

 なめ、え、されたの? まじ?


「嫌、か」

 あいつがためらいがちに聞いてきた。


 嫌じゃない、けど。けど。

 レディコミとか映画とかそういうとこでしか見たことがないようなやつだし、あれ。


 いつかするかなとは思ってたけど、まさか初日からするとは思ってなかったわけで。

 でも、ここでまだ早いからーなんて拒否ったら、ラブホから逃げ帰るひどい彼女みたいで断れる流れではなかった。


「や、やってみたい。です」


 今日何度目かの恥ずか死記録を更新して、あたしはかろうじて聞こえるくらいの声で同意した。

 雰囲気に押されてずるずると、とは思われないように、じっとあいつの顔を見つめて。


 心臓はずっとフルスロットルで稼働している。死ぬほど恥ずかしい。

 告白イベントなんてかわいいもんだ。今なら清水寺から奇声あげて身投げできそうなほどには恥ずかしい。


「噛まないように」


 一方あいつも止まれない瀬戸際にいたのか、行動に出るのは早かった。

 強く抱き寄せられて、そのまま唇が捕らえられる。


 ゆっくりと、這うように、口唇をすり合わせていく。

 こわばる緊張をほぐすように。

 時間をかけて、吐息を重ねて。

 互いの体温が溶け合って、引き結ぶだけだった唇への警戒が解けてきたころ。


「っ」

 生温かい舌の感触を覚えた。

 こじあけるように、下唇がそっとなぞられていく。


 す、するんだ。やっちゃうんだ。

 噛んじゃだめだ噛んじゃだめだと頭の中で繰り返して、受け入れるようにゆっくりと力を抜いた。


「ん……」

 温い舌先が、静かに唇を割って滑り込んでくる。

 激しさはなく、ただ突っ込んでるだけだけど。あまりの恥ずかしさにうまく息ができない。

 前回とは比にならんくらいふーふー鼻息が漏れてたけど、そんなのも気にならないほどあたしは羞恥の極みにいた。


「ん、っく」

 いきなり耳を撫でられて、予想していなかった刺激にあたしは肩をびくつかせた。

 ちょ、ちょっと待って。塞ぐって、つまり。


 そういう時に限って予感は当たる。

 耳たぶを軽く引っ張り上げられて、間髪入れず指の腹が首へ、頸動脈をなぞっていく。


「んん、ぅうぅぅっ……」

 いくら声が出ないからって、同時にって。おいこら。

 あたしがいろいろともちませんが。


 ふがふが悶えるあたしにかまわず、悪い手付きが首から上を好き勝手に這い回る。


 ぞわぞわと鳥肌の無限空間に放られて、ここまで来ると口を塞がれてるってのはあんまり関係ない。


 んーんーと、濁点混じりの唸り声をあたしは我も忘れて上げ続ける。

 おかまいなしのやりたい放題のくせに、左手は固く握られてるのが憎めない。


 舌入れられてあちこちくすぐられて、ついでにがっちり動きも封じられて。

 処理する脳がオーバーヒートでも起こしたんか、あたしは記憶が吹っ飛んでいた。



「…………」

 ようやく唇が解放されて、支えを失ったあたしはすっかり放心していた。

 意識までは飛ばなかったけど、高いとこに無理やり押し上げられて降りられない状態にあった。


 たぶん、一晩は戻ってこれないと思う。

 ごめんよあたしの心臓、今日は過労させて。


 なんか、すごかった。いろいろ。

 この先大丈夫か、あたし。



 一線を超えたわけじゃないのに、あたしたちは真冬とは思えないほど汗ばみながら、二人してへばっていた。


 今は仲良く添い寝状態で、どっか熱に浮かされたみたいにだらだらとおしゃべりに興じている。


「このむっつりさん」

「すみません」

「責任を取ってください」

「最初からそのつもりです」

「…………、満足できた?」

「……良かった」


 やっぱり腰が抜けたまんまのあたしに寄り添うあいつの頬を引っ張る。

 痛くしない程度に。


 だけど、感じるとか気持ちいいってこんなのなんだろうねえ。

 みんな通ってきた道なんかな。


「えっと。でも、またしよっか。ね」

 慣れなきゃ、その先にはいけないんだもんね。


 こくこく頷くあいつの頭を撫でて、そんなわけで眠りにつく。


 腕枕はちょっと興味あったんでやってみたけど、あいつの腕がしびれたら申し訳ないのであんまり長くはやらなかった。

 ハネムーン症候群って言うんだね、あれ。


 これを一晩中はちょっともたないや。まだ。

 お風呂も……だめだ眠気には勝てない。明日朝イチで帰ろう。


 ああ、それと。

 あたしは一つ学んだことがあった。


 

 次はシート、つけてこよう。

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