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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
番外編②

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【B視点】君の誕生日②

「仕事は順調?」

 食後。

 冷蔵庫から取り出したケーキをお互いつつきながら、子供扱いしすぎたことを詫びるべくあたしは大学生らしい話題に切り替えた。


「関係はまあまあ良好だが、どうもやる気にムラがあってな」

「あの年頃だとねー」

「英語が本当に苦手みたいで、やっと一般動詞を覚えてくれたほどだ」

「だとすると、OCIオーラル・コミュニケーションを中心に叩き込んだほうがいいんじゃない? 長文読解よりは」

「ああ、高校の時にやった奴か。まだ教科書は家にあったかな……」


 最近、あいつは家庭教師のバイトを始めていた。

 週2回、オンライン授業で90分といった形で。

 生徒は中学生。苦手な数学と英語をメインに。


 あたしがバイト帰りにお邪魔するまでの間、スキマ時間に在宅でできる仕事を選んだらしく。家庭教師って時給いいよね。

 でも、なんで急にバイトしようと思ったんだろ。何か買いたいもんでもできたんかな?



「あ、やば」

「?」

 お誕生会が終わって、テレビ見ながらゆっくりしている最中。

 あたしは唐突に肝心なことに気づいて、がたっと意味もなく立ち上がってしまった。

 そうだよ。なんで頭になかったんだろう。


「誕生日プレゼント。何がいいか聞くのすっかり忘れてた。すまぬ」

 両手を合わせて、あたしはごめんと頭を下げる。


「い、いいよ。手料理を頂いただけで十分だ」

 あいつは遠慮がちに手を振ったけど、それじゃあたしの中で申し訳ない気持ちが晴れないのだ。

 玄関先で引っ越し祝いの品をもらっているぶん、余計に。


 引き下がらないあたしに、あいつは突如思いついたように『じゃあ』と声を張り上げた。


「なんでも、いいんだな」

「予算1万円以内なら」

「……、分かった」


 なんで両手がフリーになるの。なんで格闘家みたいに大きく息吸うの。

 どんなお高い要求が待っているのだと、あたしもつい身構えてしまう。


 と、あいつはすっとリモコンに手を伸ばしてテレビを消した。

 それから肩を控えめに叩いて、あたしにこっち来いと手招きする。

 座って、脚を大きく伸ばして。



「してほしい」

 自身の唇を指し示した。



 何がお望みだったかをやっとここで理解する。

 あいつからそう要求されたのは多分初めてだ。いつも口付けは向こうからだったから。

 そっかー。そうだったなー。ハグはよくやってるけどこっちはご無沙汰だったもんねー。

 とりあえずする前のケアは大事なので、お互いタブレットを口にしてからのスタンバイ。


「お、お邪魔します……」

 少したりとも目をそらさないあいつに怖気づきつつ、あたしはゆっくりとあいつの腿あたりに腰を下ろした。


 壁にへたり込むあいつと、その上にまたがるあたし。

 一見壁ドンの亜種っぽいけど、主導権は向こうにある。

 あたしがキスに慣れてないことを知ってるから。


 おそるおそる体重をかけると、腰に片方の腕が回された。

 しばらく離さないと言ってるみたいで。


「……んと、どれくらいっすかね」

「満足するまで」


 一回で帰してはくれないみたいだ。

 それが誕プレの代わりと考えたら安いもんだけど、あたしの心臓がもつか危うい。


 てか、すでに鼓動がやばい。

 どこどこどこどこ、太鼓のバチで内側から叩かれてるようで。

 頬もかつてないほど熱い。湯気でも出てんのかってくらい。


 今から恥ずかしがってる場合じゃないだろ。あたしは心の内で叱咤した。

 相手の要求一つ叶えられないで、何がパートナーだ。


 あたしは覚悟を決めると、汗ばみかけている手を顔の横に添えた。

 無言のあいつに、一応呼びかける。


「……するよ?」

「いつでも」


 あいつがすっと目を閉じる。

 頬をなぞる。位置が合ってるか、べつのとこに着地しないか。


 うう、なんでこんなビビってんだ。唇がふるえてるんだけど。

 寒気とは別の揺れが止まらない。

 恥ずかしさが臨界点間近で、筋肉に指令送る脳がバグってんのかもしれない。


 震える手で顔を固定して、あたしはじりじりと距離を詰めていく。

 吐息を感じて、鼻先が触れたとこであたしは目をつぶった。

 見つめながらは、無理。死ぬ。


 たどたどしく触れた先にはちゃんと唇の温かさがあって、歯にいかなくてよかったとほっとする。


「…………」

 柔らかい感触を受け続けて、熱がどんどん上がっていく。


 二人分の体温が重なっているとはいえ、熱い。

 心臓の音まで聞かれてそうだ。

 息継ぎも鼻で必死にしてたけど、たぶん荒いやつとか思われてるかもしれない。

 十分に酸素が回ってない気がして、とてもじゃないけど安静な呼吸がままならない。


 十数秒か。


 永遠にも近い時間が流れて、ちょっと息が続かなくなってきたのであたしは顔を離した。

 すーはーと品もなく酸素をむさぼる。とにかく体が熱くて、ぱたぱたと首を手で扇ぐ。


「…………」


 一方あいつは、顔色ひとつ変えてない。

 どころかあたしの片方の手を取って、指を絡ませてきた。

 もっと、という合図だ。

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