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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
番外編②

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【B視点】誓い

「いいねえ。れっきとした秋だねえ」

 偶然見つけた石焼き芋店に並んで、二人揃ってほかほかのサツマイモを頬張る。


 うん、昔はあんまり良さが分かんなかったんだけど今の焼き芋って美味しいね。

 蜜がびっちり詰まってて、ねっとりしてて、甘みがすごい。香りもそそる。


「…………」

 あいつは無言でもくもく齧っている。

 夢中になるほど美味しかったのはいいけど、そんながっつくと喉に詰まりますぜ。


「何年かぶりだけど、たまにはいいものだな」

 あっという間にぺろっと平らげて、あいつは満足そうに持参してきたお茶を啜った。


「小さいときは丸ごといっことか無理だったなあ。切って親と食べてたわ」

「ああ、確かに」

「イモ焼くだけなら簡単じゃーん、って落ち葉集めて燃やして新聞紙でくるんだサツマイモぶちこんだことあったよ。結果はお察しだけど」


「……どうなったんだ?」

「炭のカタマリになりました」

 あいつが背中を丸めて吹き出した。

 む、意外とこういうので笑い取れるのか。


「カチンコチンで見る影もなかったけど、割るとうっすらイモっぽい表面は残っててね。水分全部飛んでたけどちゃんと焼き芋の味はしたよ」

 まあ、ほとんど食べられるとこ残ってなかったけどね。

「マシュマロあたりにしておけば無難だったのに」

「君言うようになったねえ」


 過ぎ去りつつある秋を満喫しつつ、あたしたちはまったり気分で散歩から帰宅した。

 なんか芋が昼飯代わりになっちゃったので、お昼はトーストとカップスープで軽めに。


 午後はお互い、別々にのんびりと。

 レポート書いたり、筋トレやったり、再放送のドラマ観たり、買い物行ったり。


 そうして布団と洗濯物取り込んでるうちに、陽はすぐに落ちてしまった。

 5時に差し掛かる頃には、もう真っ暗。


 冬に向かうこの時期は日照時間の短さもあって、一日を速く感じるよね。


「お腹空いてる?」

 お昼あれだけだったし、まだ6時前だけどあたしはそれなりに空腹を覚えている。


「まあまあ」

 あいつはそう言ったけど、あたしより筋トレしててエネルギーは使い果たしているだろうから、だいぶ空いてるはずだ。


 じゃ作るからーと言って、あたしは手早く夕飯の準備に取り掛かった。


 んー、朝は和食でいったからちょっと国籍を変えてみるかなあ。

 あたしは得意料理に決めた。

 得意といっても調理が簡単だから、自炊めんどいときに作りまくって覚えただけだけど。

 そのために、さっきこれを買ったのだから。


「できたよー」

 課題に取り掛かっているあいつに呼びかける。

 やがてキッチンから運ばれてきたメニューにほう、と感心の声が上がった。


「天津飯?」

「ご名答」

 あまり食べたことがないであろう料理名だ。

 中華料理作れるってすごい、とあいつは褒めながらずっと料理をガン見している。

 や、これ中華もどき料理だけどね。


「めちゃくちゃ簡単だよ。ご飯盛って焼いた卵かけて片栗粉とめんつゆとごま油の餡ぶっかけて、仕上げにカニカマ盛り付けるだけだし」


 ほんとは彩りにグリンピース添えるんだけど、あたしは嫌いだから緑っぽい野菜を代わりに添えている。

 今日は、朝茹でて残っていた小松菜があったのでそれをてっぺんに。


 汁物は、夜用にちょっと多めに作っていた味噌汁が残っていたのでそれを温めて。

 あとは主菜の味付けが濃いので、箸休めにほうれん草の胡麻和えを。


「……美味しい」

 レンゲで一口すくって、あいつが吐息まじりに感想を述べた。


 そのまま他には目もくれず一心不乱にレンゲをかちゃかちゃ動かしてるもんだから、気分はまるで子供の好物を引き当てたお母さんだ。


「気に入ったみたいだね」

「実は初めて食べた」

「……まじか」


 確かに、この子中華料理屋とか行くイメージないけどさ。

 卵がふわふわで本当に美味しい、と料理上手なあいつからお墨付きをもらったのであたしはほくほく顔でいた。卵料理好きなのかな?


「そんなに気に入ったのなら、またいつか作ってあげようか?」

「是非」

 そんな身を乗り出して言うことかな。食いつきぶりにちょっとビビったぜ。


「その気になったらリクエストしてね」

 口約束じゃ、あたしが忘れてるかもしれないからね。



「やっぱり、いいな」

 びっくりする速度で完食して、熱いお茶を啜ったあいつがぽつりと漏らす。

 んー? と剥いた柿をつまみつつ続きを促すと。


「自分のために温かいご飯を作ってくれる人がいるということは。幸せだなと」

「一人暮らしするようになってわかるんだよねー」


 買い物をしているとき、あたしはちらっと見てしまったのだ。

 少し羨ましそうに、家族連れを目で追っているあいつの姿を。


 今日みたいな休日は、特に寂しさを覚えていたのかな?

 サ○エさん症候群とはよく言ったものだよね。



「お前は、いい奥さんになれるよ」

 急にそんなことを真顔で言い出すもんだから、あたしはお茶がむせて咳き込んでしまった。


「そんなに驚くことか?」

 むせながら、あたしは何とか返事をする。


「嫁ぎ先にお褒めいただけるとは光栄ですわ」


 なんて、これは100パー本気だけどね。

 重いと言われようが心に決めた人だから。


 あいつはそこまで将来のビジョンは見えてなかったのか一気に赤面して、口元を押さえる。

 自分がすごいことを言ってしまったと気づいたようで。


「……いつか、な」

「うん、いつかね」

「今から、長いな」

「きっと来るから」


 互いに待ち望む未来を思い描いて、そっと小指を絡める。


 まだ一緒には住めないけど、来週からはちょっと距離が縮まるんだ。

 物理的に近づくその日を待ち望みつつ、あたしはあいつと食後の片付けに取り掛かった。

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