【B視点】絡み酒はほどほどに
・sideB
姫こと広報さんの疑惑が晴れたことで、女子間のギスりかねなかったムードは回避された。
広報さんは芸人と接待モード半々で花を添えていく方針に切り替えるらしい。
うん、それ絶対モテるよ。
「てわけで、そろそろ解禁しましょー」
幹事の提案通り、あたしたちは二次会と称して男子らも交えてわいわい騒ぐことにした。
もういいかーいと広報さんが芸人口調で聞いて、きゃーエッチとノリよく返ってきたので襖を開けた。
それからさらに30分ほど経って、あたしたち以外の人間に酔いが回りきってくる頃。
「あー就活やだー。でも婚活も惨敗なんだー」
「寄生を当てにしてっからそうなんだろ」
「講義1限に集中させんじゃなかったー。しんどみー」
「俺必修科目落としたわ」
「それ、あんたが深夜のアルバイトしてっからでしょ」
「高卒でも口を開く権利はありますか?」
「4年先に働いてるぶん誇りを持ちなよ」
大学生活の愚痴を中心とした、ぐだり大会が繰り広げられていた。
だらしなく畳に寝っ転がって、酒の缶ぐびぐび煽ってだらだらと。
まともに身体を起こしているのはあたしたちと、ずっとスマホいじってるあの男子くらいだ。
「うっぷ」
「ちょ、ダブルマーライオンやめてよ」
ついに二名の男子が吐き気を訴え、そのままお互い身体を支えながらトイレへと導かれていった。
連れションならぬ連れゲロか。お気の毒に。
「…………」
さっきまで寝っ転がって談笑していた男子は、いつの間にか寝落ち。
畳に顔をうずめてまったく動かない。
気絶にも見えるけどあれ大丈夫なの?
なお、同じく広報さんもテーブルに突伏している。
うーむ。あたしら除く4人の中では一番先にリタイアか。
あんまり強くない子だったんだね。いやあたしも弱い方だけど。
「社会人になってからじゃ既婚者だらけだから遅いって言いますけどさ。大学生でもいい男は青田買いされてるじゃないですかー」
普段規律にまじめな人とは思えないほど、委員長は泥酔しきっていた。
お酒は人の本性を暴くとか言うけど、委員長は結婚願望強い人なんかな?
「わかるー。うちも街コン行くんだけど続かないー」
「そうそう。ダチは普通に生活してたら彼の一人や二人できんじゃんとか言うけどさあ。自然恋愛って天文学的数字に見えてきたわ」
「ねー、みっちょん。なぐさめてー」
高校時代の懐かしいあだ名を叫びながら、委員長があたしへとなだれ込んできた。
「おーよしよし。どうしたどうした」
避けたら畳に頭突きしかねない勢いだったので、とりあえず受け止める。
ちらっとあいつに顔を向けて、ごめんと手を合わせる。
他の子と密着してるわけだしね。
あいつは気にすんなと手を振った。あとでいっぱい甘やかしてあげよう。
「女子大ってのもあるけどー。まわりの女子レベチなんだよー。合コン行っても相手にされないってほんとしんどいんですわー」
ああ、だから髪染めたのね。
委員長も十分並み以上だとは思うんだけどなあ。
「学生なんだからとりあえず勉強なさい。社会に出てからのほうがいい出会いあるって」
なんだか将来を心配する親みたいな言い方になっちゃったなあ。
あたしも親の口調がうつってきてるのかもしんない。
「でもでもでもー。社会人じゃ収入とか結婚とかちらつくじゃんー。職場によってはジジババだらけで出会いないし。わたしゃ学生の特権である純愛をしたいわけですよー」
大学生だと、そろそろ損得を考える時期だと思うんだけどなあ。
初カレや初カノにかまけて大学棒に振ったとかよく聞くよ?
いや自制すれば済む話なんだけど、初めての恋愛だと舞い上がっちゃうんだろうね。あたしも人のこと言えないか。
「悪い」
あいつがすっと手のひらを突き出した。
察したのでいってらっしゃいと短く返す。
トイレ1は連れゲロ真っ只中なので、あいつはちょっと遠いトイレ2に向かうらしい。増改築で離れに住む祖父母用の。




