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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
文化祭編

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【B視点】恋心芽生える

「待って」

 立ち去る後輩さんに、あたしは本音をぶつけた。


「逆に、あたしは君たちが羨ましかったよ。一緒の舞台で、一緒に戦えて。

見ることしかできない自分が歯がゆかった」


 後輩さんは何も答えない。ただ、小さな背中がどんどん遠くなっていくだけだ。


 声に出したことで、あたしもやっとわかってきた。

 ひそかに、部活仲間が羨ましかったことを。


 あいつが部活の話をするときはとても楽しそうだった。

 一人一人を大事に思っていて、向上心も十分で。

 だからこそ、どこまでもあたしは傍観者でしかないのだと疎外感を覚えていた。


 戦えないなら、せめてそれに勝る強い結びつきを。

 あいつが部活以外でも学校生活を楽しんでもらえるように、あたしが友人としてできる精一杯のサポートを。


 ……それは、本当に”友人として”行動していたことだったの?

 違う。



 家族でも仲間でも友人でもない、それ以上の特別な存在になりたかったんだ。




 やっと、あたしには分かってしまった。

 だけど、本当の気持ちに気づいたところで。叶わない事実を思い知らされる。


 相手が男子の場合は、分かる。

 仲良くなって、好みを引き出して、メイクして、気を引く素振りをちょいちょい見せて。

 そんで『こいつ俺に気があるのかな?』とまで持っていければあとはタイミング次第だ。


 でも、女子の場合は。そんなのどこにも書いてない。

 女の子は男の子に恋をするのが普通だから。

 いくら性愛対象の範囲が広がってる現代でも、学校という狭い世界ではどこまで行ってもマイノリティなのだ。


 ただでさえ初恋は実らないのに、攻略法のない同性は強敵ってレベルじゃない。

 つかほぼほぼ無理ゲー。

 ましてや多感なこの時期、告白なんて自己満足の公開処刑に等しい。


 あいつの幸せを願うなら。守りたいなら。

 あたしは友人としてこれからも徹し続けるべきなんだ。


 無意識に縛り付けていたのだから、これからは適度な関係を保とう。

 あたしがいなくたって、今やあの子は友達も仲間もたくさんいるんだから。




「おめでとーございます」


 ちっともおめでたくないようなてきとーな一言をぼやいて、後輩さんは足元の砂を蹴った。


「やっぱずるいです。叶わないって言ってちゃっかりゲットしてるんですから。

これなら1年前に告っとくべきだったですかねー」

「ある意味ずるいよ。お酒の力だったもの」


 シラフだったら絶対今のような未来は無かった。

 あたしのヘマとはいえどう転ぶかわからんのが人生。

 だとすると今は、最高に出目が良かったという話か。



「ここにいたのか」


 時を同じくして、遠くからあいつが駆け寄ってきた。

 あ、スマホ見てなかったわ。


「ごめん。もしかして未読スルー結構ある?」

「いや、むしろ話し込んでいるところを邪魔して申し訳ない」


 話している途中で、あたしもあいつも気づいた。

 後輩さんは気配を消すように、そっと大好きであるはずの主将の前から消えようとしていて。


「あれ、店番……」

 不思議そうに見やるあいつに後輩さんは一瞬だけ振り向いたけど、さっきまでの恋する乙女の表情はとっくに抜け落ちていた。

 失礼します。そう言ってあたしの前を横切る後輩さんの肩を、あたしはそっと掴んだ。


「行ってあげなよ」

 目をつぶってあげるから。

 何か口を開こうとする前に、あたしはあいつへと端的に説明する。


「そこで暴露大会的なものやってるでしょ。この子もさっき出てたんだ。あんたにお世話になったお礼を伝えたいって」

「そう、なのか……? いや、それなら呼んでくれれば」


「それだと恥ずかしいじゃないですかっ」

 後輩さんは一瞬だけあたしに向かってすみませんと手を合わせると、まっすぐあいつに向かって頭突きをかました。

 いや、抱きついた。


「え、え」

 驚くあいつに、後輩さんは最初で最後の想いを告げる。


「改めて言わせてください。2年間本当にありがとうございました。去年インハイで優勝できたのも、今年団体戦で結果を出せたのも。全部みんなと主将がいてこそです」


 そのまま、後輩さんはあいつの服に顔をうずめて泣き出した。

 あいつはあたしの目もあるのか、こっちをチラ見してたけど。

「受け止めてあげなさい、主将?」


 いい女を装って、あたしは背を向けた。

 やがて地に伸びた二つの影が重なるのが見えた。


「ありがとう」


 涙を誘うどこまでも優しい声と、あらゆる感情がないまぜになった嗚咽。

 いつかのあたしたちを見ているようだった。



 しばらく、二つの影が動くことはなかった。


 ……羨ましくなんかない。

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