【B視点】後輩さんとの出会い
『ちょっと、お話よろしいですか?』
あたしが後輩さんと出会ったのは2年の秋だ。
ちょうど、あいつがインターハイでボロ負けして主将の座についた頃。
あたしは後輩さんに呼び出されて、人気のない図書室廊下にいた。
後輩さんを筆頭に、この子のクラスメイトらしき女子数人。
このシチュからあんまりいい予感はしなかったけど、面識のない子たちばかりだ。
加えて学校モードのあたしは地味子。そうキャットファイトにはならんだろーと身構えていると。
「で、ご用件は?」
「先輩、主将のご友人ですよね。ほら試合とかいつも見に来てくれて」
「そうだけど」
「率直に言いますと。主将についてご印象をお伺いしたく」
なんで中心にいる子じゃなくて、後輩さんがぺらぺら喋ってんだろって思うけど。
でも、シチュと台詞ともじもじした女子の態度からあたしもなんとなく読めてきた。
「つまり、あこがれ? が転じてラブってこと?」
うつむいてた女子は、そこでようやく顔を上げた。
頬を染めてこくんと頭を下げる。
わあ、女子校みたいなことってほんとにあるんだ。
確かに、そっちで男役っぽい子がモテるって話は聞く。
あいつはもともと口調が中性的だったからボーイッシュ路線どうよ、ってあたしが示してからはますますハマってきていた。
「で、印象だっけ。そうだねえ。すげー大人しい」
「ああ、わかります」
だからなんで君が応対するんだ。会話が成立しないよりはいいけど。
でも、求めてるのは好物とか意外な一面とか、そういう断片的なものじゃないんだろうねきっと。
なぜ好きに至ったのか、あたしなりに考察してみいって聞きたいわけで。
「君らといるときと、そんな変わんないと思うよ。無口で、無愛想で、口下手で、あんまり輪に入らないような子で」
でも、それだけじゃない。
「だけど、すごくまっすぐで。誰に対しても。決めたことにもまっすぐで。試合中とかかっこいい」
あたしでも驚くぐらい、さらっとお褒めの言葉がでてきた。
それは共通する感情だったのか、うんうんと他の子たちもいっせいにうなずく。
「……あと、私服です。センスいいなって」
ずっと黙ってた女子は、それだけをぼそっと言った。
ふふふ、やっぱりあたしの目に狂いはなかったようだ。
あいつのことを言ってるのに、なぜか自尊心が満たされていく。
「……で、こんなもんだけどお気に召して?」
友人にしてはしょぼい収穫だけど、あいつは基本自分のことは話さないからね。
あたしは次に、これからどうするのか聞いた。
相手が男子だったらどう距離を縮めるか画策するけど、同性だとねー。
あこがれと恋のはざまでふらついてるっぽいし、そもそもあいつにそっちの気があるとは思いづらい。
恋をしたいって願望すらなさそうに見える。
予想通り、相手も叶うとは思ってない、ただ身近な話を聞きたいだけと言った。
あたしはいつもあいつの低すぎる自己評価が気になっていたから、こうして密かにモテていることが嬉しかった。
ねえ、あんたは誰からも愛されるわけないって思い込んじゃってるんだろうけど。
ちゃんと、見てくれている人はいるんだからね。
なので女子の頼みには快く了承して、たまに会っては守秘義務に抵触しない範囲であいつの話、つか恋バナを談笑するようになった。




