【A視点】ハロウィン記念日②
日曜ということで、電車内はそれなりに混雑していた。
立ちっぱなしだったものの、試験後で頭が疲弊していたので座れば寝落ちしかねない。ドア付近にもたれていた今ですらうとうとしていたのだから。
乗客の中にもちらほら仮装している人が見える。ようやくハロウィンらしさを目で実感できるようになってきた。
『駅を出た』
もうすぐ着くとの旨を送ると、三階の本屋にいると彼女から返信があった。
店の前で待っててーと追伸が来たので、そのままお店のあるビルへと向かう。
店の外にはやはり今日を意識してか、大きめのジャック・オー・ランタンが紅葉の造花と共に飾られている。
夜間のライトアップのために点々と灯籠が置いてあり、何故かホオズキとイガグリ、ススキ、竹箒もオプションに。和洋折衷感漂う外装である。
オレンジの暖色で統一されているので、配役はともかく見栄えはいい。
スマートフォンを構える人も何分かに一度は見かけるほどだ。
「おつかれー」
見物客を眺めているうちに彼女がやってきた。
最初のLINEから1時間近くが経過している。お腹が空いてないか聞いてみると。
「へーき。まだ我慢できる範囲」
私もそれなりに空いてきたので、挨拶もそこそこに入店することにした。
以前会計時に貰ったスタンプカードは、しっかり財布に忍ばせている。
値引きクーポン目当てというわけではないが、味は気に入った。制服も気に入った。
今後とも足繁く通いたいものだ。
「いらっしゃいませー」
案内してくれた店員さんは、前回とは違う方であった。
彼女の姿を見るなりあらっと一瞬目を丸くするが、すぐに従業員として空いてる席まで案内してくれた。
ディナータイムということもあり結構席が埋まっていたが、女性客や家族連れが大半だ。カップル客らしき二人組はほとんど見当たらなかった。
ちなみに店長さんはレジの担当なのか、さっきからずっとレジ周りに立っている。だから、彼女が誘ってくれたのか。
「可愛らしい内装だ」
「でしょ?」
店内はハロウィン一色に装飾されていた。
カボチャ、魔女の帽子、松ぼっくり、布を被った白いオバケといった小物が、店内のいたるところにインテリアとして配置されている。
天井には『HAPPY_HALLOWEEN』とつづられたフラッグガーランド(三角旗)が吊り下がっている。
コウモリ・ドクロ・カエデの葉の切り絵が数珠状に壁一面を覆い尽くしているのも、彩りがあって雰囲気を盛り上げていた。
飾り付けは大変だったであろうが、ここまで気合を入れてくれると高揚感も湧いてくる。
時期に合わせて季節を演出してくれるシーズンイベント市場があるからこそ、日本の美点である四季を実感できる。
「ま、これも閉店後に全部剥がしてクリスマス仕様にリフォームしないといけないんだけどさ」
世知辛い事情を横でぼやく彼女がいた。
「商戦の世界は大変だな」
「前倒しで企画が動くからね。何ヶ月も前からトレンド読んで戦略練る必要があるし。目立った行事がなくて消費が落ち込みがちだった月にハロウィンはもってこいのイベントだったから、ゴリ押さない手はないんだろうけどね」
ざっくりと分割すると正月・節分・バレンタイン・受験・入学式・母の日・父の日・七夕・お盆・ハロウィン・クリスマス・年末商戦といったサイクルか。
「なんかそう考えるとさ。11月って実に不憫な月だと思うわけですよ」
「確かに」
七五三や文化の日やボジョレー・ヌーヴォー解禁といった行事はあるものの、どれも派手さはなく経済効果に期待はできない。
サンクスギビング(感謝祭)は日本では定着しづらいであろうし。
数少ない行事に舵を切るよりは、とっととクリスマスに備えてつなぎまでの期間に置き換えるほうが無難といえよう。
記念日は当日を過ぎたら雰囲気が廃れていくが、準備期間が長ければ長いほど期待は高まっていくものだから。
「ハロウィン過ぎたらクリスマスって、何? まだ秋ですぜ? 11月の存在意義ってなにさ? ってなるわけよ。この月生まれの子ってほんと気の毒。11月は売上伸び悩むから、最近はブラックフライデー(大規模セール)を採用している企業も増えてきたけどさ」
「この流れでは言い出しづらいが」
私は11月生まれである。
「なんかごめん」
「むしろ、長年の不満点を堂々と口にしてくれてすっきりしたよ」
嘘は言っていない。
クリスマス商戦が始まると11月が早く終われと急かされてるように感じるのは、きっと私だけではないだろう。
「ってことは、君さそり座の女?」
「いいえ、私は射手座の女」
そんな他愛ない話をしているうちに、頼んだ料理が運ばれてきた。




