【A視点】インターハイ団体戦
ある種のトラウマとして残ってしまった団体戦は、難なく一回戦を突破した。
続く二回戦も余裕のオール一本で抜けたので、ひとまず去年の呪縛からは逃れられたということか。
そして今日は、三回戦から決勝戦までを行う。個人試合は軽量級のみ。
この練度の面子なら遅れを取ることなどないだろうが、五輪と同じく総体にも魔物が潜んでいるものなのだ。
「よう」
今しがた三回戦を終えたばかりの学校、そのエース格であるNがこちらへとやって来る。
彼女のことは手合わせした日から、片時も忘れたことがない。あの新人戦決勝で敗北の苦汁を味わわせた、因縁の相手である。
否、今は良き好敵手というべきか。
新人戦で華々しいデビューを飾ったNは、それからもとどまることなくめきめきと実力を磨いていった。
時にポイントが優勢になると逃げがちになる柔道スタイルを咎められることもあったが、多彩な技で一本勝ちを決め続けるとバッシングは沈静化していった。
奴とは合同練習・強化合宿・県大会・春高・金鷲旗で幾度となく対戦を重ねている。(新人戦以降予選に現れなかったことに疑問を覚えたが、2年の進学時に諸事情で転校したと後に本人から聞いた)
ちなみに成績は今の所3勝4敗。今日の団体戦と明日の個人戦で勝利を収めれば勝ち越しとなる。
と、思ったのだが。
「惜しかったな」
「よく言うぜ。ライバル校が一つ潰れて嬉しいくせに」
Nは私に向かって悪態をつくと、先程の対戦の感想を述べてくれた。
「どうせならおめーんとこに当たってくれりゃよかったのによ。3回めでこれだぜ、これ。ざまあねえや。初戦を落としたのがまずったわ。階級下だからカヨも油断しててよ、かなり粘ったんだけど優勢負け。そっからあれよあれよと流れがあちらさんになってな。うちは1勝返したけど、先鋒に行くべきだったと反省。あー、接戦だった分余計に悔しいわ」
対する相手校は優勝候補の一つであったNの学校を破ったおかげで、一気に注目のダークホースへと躍り出た。
どの選手もほとんどの階級に対応できる受けの強さを持っている。アイギスの盾のごとき強靭な守りに、Nたちですらも敗れ去ったとは。
「いーか。あの忌々しい牙城を崩すには、初戦で崩すほかない。ペース持ってかれたら終わりだ。戦力も出し惜しみすんな。パワーでねじ伏せろ。うちがブーイングを実力で黙らせたみたいにな」
「忠告痛み入る」
経験者が言うとなかなか説得力がある。
Nはペットボトルの中身を一気に飲み干すと、私をおもむろに指差した。
「明日の個人戦では負けねーかんな」
「こちらもそのつもりだ」
空になったペットボトルを憂さ晴らしのように握り潰し、Nは自身の控えへと戻っていった。
あれは、団体で会えなかったぶんのあの人なりの詫びなのかもしれないな。その無念は今日晴らさせてもらおう。
続く三回戦までは順調であった。
準々決勝は初戦から組み負けて指導で敗れるなど、開始早々暗雲が立ち込めていた。
が、中堅から取り返したことによって事なきを得た。
部員たちもNの学校とやりあえなかったことを残念に思っていたのだ。ゆえに、流れを乱されたくらいでは心を乱されることはなかった。
あいつらに代わって、あの学校を下す。
同じ方向を向いて我々は勝負に挑んでいる。一つになった心が、何よりも嬉しかった。
そして。準決勝でいよいよ、その件の学校と対決することになったのであった。




