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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
高校時代編

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【B視点】クリティカルヒット

 あいつは、ぽかーんといった擬音が似合いそうな面構えで突っ立っていた。


 言われたことない言葉を掛けられてもそうリアクション取るしかないよね。

 え、どこが? って今脳内で必死に考えてそうだ。


「ほら、背高いし。髪短いし。大人びた顔立ち寄りだし。思い切ってそっちに舵切るのもいいんじゃないって思ったんだよね」


 要素を抽出して伝えると、あいつは我に返ったようにはあ、と声に出した。


「正直、私からはどちらも縁遠い言葉だけど……二択で選べと迫られたら後者だろうか」

「おー。冒険しますか」

「ま、まだ合わせられそうという意味で」

「りょーかい」


 妥協した言い方には聞こえた。

 仕方ない。人からは似合ってますよーと言われても自分ではしっくり来ないことって、あるあるだから。


 さて、そうなるとセンスは全部あたしにかかっている。プレッシャー半端ない。

 人のコーデ見立てるのは好きだけど、これであいつが服に興味持つか持たないか転ぶわけだから。

 でも、こういうときの強い味方がネットにあるのだよ。


「はい、ちょっとやってみて」

 あたしはスマホからあるページを出して、あいつに渡した。


「これは……?」

「パーソナルカラー診断ってやつ。簡単に言うと、自分に似合う色合いが見つかるかもしれない質問ね」

「こういったものがあるんだな」


「自分の個性を探すのが、おしゃれ上級者の近道になるかな。ただファッション雑誌真似してたんじゃだめ。分析して、いらないものは消して必要なものを足していく。化粧もそうだよ。引き算と足し算の繰り返し。何が自分の顔には足りていないのかわかれば、化粧しても無駄ってことには絶対ならないから」


 まずは自分をよく知ること。そう力説するとあいつはスマホに真剣な目を向けた。

 うむ、自分と向き合おうとしてる。えらい。


「コーラル? アイボリー? フューシャピンク……?」

 耳慣れない横文字と悪戦苦闘していた。

 仕方ないのであたしも横から覗きつつ、二人で回答を進めていくことにした。


 さて、これで情報は出揃った。

 まずは着てみることを条件に、あいつには試着室で待機してもらうことにした。あらかじめ服のサイズは聞いてある。


 あたしは診断結果の色合いを参考に、頭の中でシミュレートを開始する。

 これで予算内でいけそうなものかあ。んー、よし。あれでいってみるかね。

 結びついたものに近い服を取って、あたしは早足で向かっていった。



「着て、みたが」

 カーテンの隙間からあいつが顔を出す。

「サイズ、大丈夫だった?」

「ああ」


 台詞の端切れは悪い。明らかにギャップに戸惑っている声色だ。

 例えるなら、店員のお姉さんにおだてられるがまま着てしまったときの反応に近い。


「気に入ってない?」

 あたしは率直に尋ねた。あいつはそういうわけではない、と首を振る。

 じゃあ、あいつ基準では外してはないかもしれないけど似合ってるかもわからないってことか?


「あたしにはウケるかもしれないよ。見せて見せて」

「……笑わないでくれよ」

「芸人用の服選んだわけじゃないから。大丈夫、しっくり来なかったら次切り替えるまで」


 自信持って、とあたしは胸の前に二つの拳を作る。

 それを見てあいつは覚悟を決めたように息を吐くと、顎を引いた。

 姿勢を正して、そっとカーテンが開け放たれる。



 一瞬、周りの音が消えた錯覚に陥った。

 無音となった世界にあたしと、あいつだけが取り残される。


 釘付けになっていたのだ。新たな一面を垣間見たことに。


 いつもは制服で、長めのスカートで、体操服も私服もゆったりめのものが多かったから分からなかったけど。

 単にサイズが合ってなかっただけだったんだ。

 背が高いのは知っていた。でも、足がここまで長いとは気づかなかった。


 ミリタリージャケットを意識したモッズコートに、すらっと伸びる黒のスキニー。

 筋肉に引き締まった足のラインが、辛口さを引き立てている。


 上はゆったり下はぴしっとしたコーデって定番だけど、足が短いと事故りやすい。

 だぼついて、服に着られている感が強くなっちゃって。


 それも配慮して、生地は薄手に。袖はまくるタイプに。

 前は開けて首元を大きく見せる、甘めのインナーにしたけどこれがハマってたみたい。


 いいんじゃないかな。大いにいいと思いますよ。

 初手でヒットしたあたしのセンスにも万歳。なんて自画自賛してみる。


「…………?」

 フリーズ中のあたしにあいつが怪訝な顔を向けた。それでやっと我に返る。

「変、か」

 おそるおそるかけられた声に、あたしはとっさに首を振った。横にぶんぶんと。

 そして親指を立てて、ぐいっと前に突き出して。


「いい。好き」


 やっとあたしから出てきた言葉はそれ。

 つか、なんだ好きって。褒め言葉としてどうなんだ。口説いてるんじゃないんだから。


 後から思ったけど、人間、いっぱいいっぱいのときって語彙力が著しく下がるんだね。


 似合ってるというニュアンスだけは受け取ってもらえたのか、あいつはそのままレジへと向かった。

 あたしもいくらか出すことにした。選んだ側だからね。

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