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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
来店編

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【B視点】愛をください

『アタシは好きで独身やってんじゃない』


 心からの絶望と慟哭が、妹さんにぶつけられる。


『独身ならお金使い放題とか、責任背負わなくていいとか、自由でいいねとか。そんなすでに満たされた側からの余裕は聞きたくないの。アタシはただ、ただ、女として愛されたかったの。選ばれたかったの。娘として愛されなかったんだから。他の人に愛を求めてなにが悪いっていうのよ』


「……わたしはどこまでも考えなしの人間でした。姉の孤独をわかろうとせずに、自分の価値観で推し量ったのです」


 誰からも愛されず。巡り合うことも叶わず。

 空っぽの状態で自分を肯定しろと言われても、これまで自己肯定感を得られなかった人間が受け入れられるわけがない。

 だから。嫉妬心から始まった向上心は折れたことによって、ふたたび黒い嫉妬心が膨れ上がっていった。

 上を向いてもたどり着けなかったのだから、引きずり下ろす方向へと。


「姉は、綺麗な人に恨みを募らせるようになりました。追いつけなくても、追い詰めることはできると。追い出してはじめて自分の居場所が得られる快感は、何物にも代えがたい幸せであると」


 そうして何人もの美人に目をつけて、なりきり日常を侵食することによって彼女たちを潰していった。

 服やアクセはそのたびに合わせてコピーした。それが一番付け入る隙を作るのに効くやり口だったから。勝手に向こうから消えていってくれるから。


 ……なんか、ここまで歪んだ話を聞くと怒りよりも哀れみの感情のほうが湧いてきちゃうなあ。

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだって定番の台詞が浮かぶ。孤独はここまで自分を追い詰めちゃうもんなんかーってね。


「……思うんです。もし、わたしが洗脳に屈しなかったら。姉の味方であり続けることができたら。親に取って代わる愛情を与えられていたら。姉はこんなことにならなかったのかもしれないのかなって」


 これから先、わたしは姉とともに在る覚悟です。

 それがわたしの償いであり、罰なのです。

 多大なるご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。


 妹さんはこう締めくくると、静かにあたしたちに向かって頭を下げた。

 めっちゃ高そうな包装紙にくるまれた箱をあたしに手渡して、その場を後にしようとする。


「すみません」


 放心状態にあった店長が呼び止めた。

 振り返る妹さんに、あなたの中では決まっていてもお姉さんは暮らすことにはどうなのですか、と問う。


「ご心配は無用です。どのみち姉は仕事を辞めてお金も尽きかけており、そう遠くないうちに追い出される予定みたいだったので。わたしが養うと告げたところ、じゃあ一生面倒見なさいよと快く了承してくれました」


 お金ないのにプレゼントや荷物押し付けてたってこと?

 身を削ってまで陥れる欲はあるって、何かに取り憑かれてるとしか思えない。

 でも、最後の最後に救いの手が差し伸べられたってことは、まだ人生捨てたもんじゃなかったんだね。


「それに、姉を苦しめた親はもういません。わたしがそれまでは二人の介護をしていたので。あとは存分にわたしをこき使ってくれれば、それが本望です」


 それであなたの人生はいいのかとあたしたちは言いたくなったけど、生き方を決めるのは他人じゃない。

 妹さんはこれが罰とは言ったけど、いつか二人にとっての救いに変わればいいな。綺麗事だけどさ。


 あたしと店長はそれ以上言葉を継ぐことができず、黙って女性を見送った。

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