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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
来店編

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【B視点】なんかいろいろやって来た

 もし、奴だとしたら。

 もちろんその可能性を考慮したうえでここに来たわけだけど、絶対にあいつの存在だけは知られるわけにはいかない。


 ただ、その場合は近くで見張っている店長が目撃してるだろうし。

 ここら一帯は見晴らしいいから、部外者が何時間も身を潜められる公園や公共施設はない。


 もう一度、インターホンが鳴った。あたしはビビるあまりあいつに思いっきりしがみついた。

 やっぱさっきの考え、訂正。

 こんな状態で一人暮らし続けるとかマジ無理ゲー。もう明日にでも不動産屋行きたい。


 あいつは庇うような体勢で、腕の中にあたしを抱き寄せる。隣に誰かがいるということが今はとても心強い。

 守られているという扱いに嬉しさを感じる反面、怯えているだけの自分が情けなく感じる。

 辞めないってあれだけ啖呵切ったのにこれとか。ったく、これしきでビビってんじゃないよ。

 とりあえず通報か、居留守するべきか決めあぐねていると。


「ちわー、××運輸でーす」


 は?

 あたしたちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を互いに向け合う。

 え、そっち?


「何か頼んだのか?」

 あいつが小声で聞いてきた。

 もちろん今日指定の便なんてあるわけない。首を横に振る。


「なら、嫌がらせだろう。身に覚えのない荷物を送りつけて恐怖心を煽る手口かもしれない」


 あたしは頷いた。そっちの可能性が高い。

 一般的には受取拒否なんだろうけど、証拠収集の観点で考えると別だ。

 受け取るだけ受け取って、開封は警察に任せるのがいいか。


「はーい」


 あいつには背後に控えてるようにと言って、あたしは玄関先に向かった。

 ドアスコープはないから、チェーンのついたドアを数センチほど開ける。


「お荷物が届いております」


 立っていたのは初老の男性だった。

 トラックの排気音も聞こえる。配達員に扮装したやべー奴ではなさそうだ。


「あ、ハンコないんでサインで」


 これあたし頼んでないんですけど。喉まで出かかった言葉と不快感を押し留めて、必死で営業スマイルを形作る。

 宅配業者が去ったのを見届けると、あたしは手早くドアを閉めた。

 ダンボールもそのまま玄関に直置きだ。あー、気持ち悪い。


「……大丈夫か?」


 あいつが険しい顔で訪ねてくる。平気、とあたしは無理やり笑った。


「むしろ好都合。警察に持ってけば納品書から送り主の特定も一発だろうし」

「いや……どうだろう」

「えっ?」

 歯切れの悪いあいつの言葉に、あたしは目が点になる。


「この荷物は元払いだ。何度も送られてくるならまだしも、まだ一回。事件性が薄いと判断されてしまう可能性が高い」


 うへえ、と品のないため息が口から漏れていく。

 被害届も難しいんかい。もしそれも読んだ上で送っているのだとしたら、本当に悪質だ。

 露骨にがっかりしてうなだれるあたしを見て、あいつが即座にフォローする。


「た、ただ対応も警察署によって違う。持っていくことは無駄じゃない。これ以外に証拠品もあるわけだから。すまない、軽率な発言をしてしまった」

「いーよいーよ、あんたが気に病むことじゃない。警察が駄目なら弁護士ルートよ」


 あんまりフォローになってない言葉をかけて、あたしはさっきの恐怖を振り払うように日用品を詰めていく作業に取り掛かることにした。

 箱は……とりあえず今は写真だけにしておこう。

 警察に行くときにだけ持ち出しときゃいいか。でかいし。



「おかえり」


 あたしたちは無事に店長の待つ車へと戻ってきた。

 何か変わった動きは無かったか聞いてみると。


「そうだねえ。確かにさっきLINEでくれた通り、宅配のトラックは見かけたよ。それくらいかな」


 分かっちゃいたけど、収穫はいまいちだ。ゴミとか身に覚えのない荷物とか、目立った被害はちょいちょいあったのに。


「サトウちゃん、明日は非番だったよね?」

「あ、はい」

「私も明日は休むことにするよ。さっき交代をバイトリーダーに頼んだから。一緒に警察署行こう。また、ここまで送ったげるから」

「すみません……ありがとうございます」

「謝らないの。結構被害が出始めてるから、こっちからも動いたほうがいい。大丈夫、あなたの安全はみんなで守るからね」

「……はい」


 あたしは鼻の奥が熱くなっていくのを感じた。

 察した隣のあいつが、優しく背中をさする。

 本当にあたしは周囲の人に恵まれた。絶対辞めてやるもんか。


「それと、今日は心細いだろうからそこのお友達と一緒にいてもいいけどさ。明日からはやっぱり、心配だからホテル手配したげるね。警察も一時的な宿泊先だったら負担してくれるみたいだし、そこ相談するから」


 そうなの? とあいつに聞くとそういった制度があると返ってきた。

 何もしてくれないと思っていたけど、やっぱり然るべき処置はしてくれてるんだね。


 そんなこんなで、あたしのだいぶ波乱に満ちた一日は終わりを告げた。



 そしてこの事件の顛末は、意外な形で幕を下ろすこととなったのだ。

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