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【A視点】初めての夜◆

続・SideA


 優しくしてね。そう囁いて、彼女は私へと静かにもたれかかってきた。


 すべてを預けて、身を任せてくれる。自分だけが特別なのだという意識から、この人を満足させてあげたいという想いが強まってくる。


「…………」

 枕に頭を預けた彼女へと、静かに覆いかぶさる。


 こちらを見据える彼女のまなざしは、いつもと違い覇気がない。どこか憂いを帯びて、甘やかに潤んでいる。

 綺麗、としか言葉が出てこない己の語彙力を恨めしく思う。


「ん、っ」

 衝動のままに唇を寄せた。受け止められた肉厚の口唇はいつ重ねても温かく、瑞々しい。

 薄く引いたグロスがよく映える、艶光った上唇をついばむように。何度か軽い接吻を重ねていく。


 押し当てて、離して、また求めに応じて重ねていく。

 触れ合うたびに接吻はどんどん深くなって、やがて味わうように、すり合わせていく動きへと変わっていく。


 いつまでもこの柔らかさを独占していたいと脳髄が灼かれるほどには、今の彼女からは理性を引きちぎる魔性が備わっていた。


 先に我慢の限界を迎えたのは彼女だった。

 赤く淫靡な舌がこちらの下唇へとちょんと触れて、じわりと神経を撫でていくような痺れが走った。


「ん、は、ちゅ、っく」


 舌先が触れ合って、口内へと滑り込んでくる。

 時折漏れる唾液の水音が狂おしいほどに厭らしい。はしたなく音を立てて、奥深くまで舌を貪り合う。


 飽きる気配がないほどに吸って、扱いて、また絡み合って。

 なんて甘美で下品な行為だろうかと。分かっていても、止めようがない。


「つ、ぅ、は……っ……」


 最後まで名残惜しく、ゆるゆると舌を引き抜いていくと銀糸が滑り落ちた。行為の深さを物語るように。


 しばし思考すらも忘れて、また互いに見つめ合う。

 さきほどあれだけ熱い視線を交わしたのに、欲は尽きることがなく。


「するよ」

「うん」


 短く合図を交わして、彼女へアイマスクを装着させる。


 しかし、目隠しとは。今している行為は本当に同意の上であるのか心配になってくる。

 万一係員に見られたら、どう言い訳を取り繕っても無意味であろう。


「居眠りしてる恋人がいたんで夜這いしましたーでいいと思うよ」

「なにもよくない」


 冗談か本気なのか分からないジョークを軽く飛ばして、本格的な局部の責めへと移った。



「……っぁ、く」


 目隠しの効果はそれなりに表れていた。

 浴衣の上から、胸元を刺激する。首元に口を寄せて、時折舌でなぞりながら。


 直接触れるより感覚は鈍感になっているはずなのだが、服越しでもわかるほど突起の部分は隠しきれず尖って、快感の主張をこちらへと伝える。


「やっ、い、あふ、うぅっ」


 何度か固くしこりのある胸元をさすっていると、うなり続けていた彼女がぐんと背中をはぜしならせた。

 耐えるように肩で荒い呼吸を繰り返して、小刻みに身体を揺らしている。


「…………」

 なんとなくいたずら心が湧いて、手のひらに収まる胸部に指を伸ばす。軽く突起を弾いた。


「ひゃいっ」

 びくびくと、彼女から大きな反応を感じたのちに。身体がぐんと前かがみになる。


 無理やり私の腕から逃れると、彼女はまだ余韻が残るであろう身体を自身の腕で掻き抱いた。外敵から身を守るように。


「い、痛かったか?」

「や、そーゆーわけじゃ、ない……」


 持っていかれそうだったと意味深な言葉をつぶやいて、それほどまでに目隠しの効果はあったよと彼女は息を整えながら説明した。


 布越しでこれくらいの刺激なら耐えられる範囲だと、程度がわかったため。行為を続行する。


「ひうぅっ」


 何度か胸元とそこから上を愛撫し続けるうちに、声色が変わってきた。

 くすぐったさに悶える泣き声にも似た反応から、湧き上がる欲を押さえつけるような、何かに我慢している唸り声へと。


「え、えと」


 唸る合間、ようやく会話目的の声が聞こえたので拾うと。

 もう少し強くてもいいと要望を受けた。身体が順応してきたらしい。


「んっ……はぁぁっ」


 浴衣の隙間から手を滑り込ませて、わずかな肌着越しに胸元を愛撫する。


 瑞々しく弾む感触をより近く味わえるようになって、少し揉む手に力が入ってしまう。痛くはないだろうか。


 尋ねると、形が変わるくらいほぐすというか潰さなければと返ってきた。

 想像するだけでもこちらとしても怖い。


 ひとしきり上への愛撫が済んで、次は、つまり。

 残っている部位は必然的に下になるのであって。


 優しくしてくれるなら大丈夫だと聞いているものの、やはり一抹の不安は残る。

 最初から感じて当たり前ではないと分かっていても、苦しむ姿は見ているのも辛くなる。


「平気。あたし我慢強いから」

 少し乱れた髪を梳きながら、彼女が吐息混じりに言った。


 本当に、強い人だと思う。何度か練習を重ねているとはいえ、素人同然のこちらを信じて受け入れてくれているのだから。


「わかった。けど、無理はしないように」


 叩き込んだ知識を活用させることを心に固く誓うと。

 今度は軽く、唇を寄せた。

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