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【A視点】あけましておめでとうございます

・SideA


「明けまして、おめでとうございます」

「ことよろー」


 寝不足のまぶたをお互いこすって、布団から這い出た私達はその場で深々と頭を下げた。


 彼女は美容のため。私は健康のため。

 ともに夜ふかしはほとんどしない質なのだが、昨晩はついつい正月特番を見続けてしまった。


 布団に入っても目が冴えて時間だけが過ぎていき、やっと眠りにつけたのは丑三つ時のこと。


「ねみぃ」

「わかる」


 顔を洗って歯磨きを終えても、眠気はまだ取れない。

 これから彼女と近所のショッピングモールにまで買い物に行くというのに、これでは締まらない。寝正月で惰眠をむさぼりたくはない。


「とりあえずご飯の準備だけはしとくよ。それまで寝てていいから」

「ありがとう」


 とは言っても、家事を丸投げした上に二度寝に入るのは失礼だ。

 洗濯物くらいはと干すことを申し出て、それから体を休めることにした。


 干し終わってから、少し経って。


「で、き、た、ぞー」

 耳元で声をかけられて、勢いよく私は布団を跳ね除けた。


 そんなに時計の針は回ってないであろうに、何時間も寝ていたかのような倦怠感が頭にまとわりついている。

 電車内で眠りこけて、車掌に揺り起こされた感覚に近い。


「おっと」

 至近距離にいた彼女と、額が軽くぶつかる。

 鼻先をかすめて、唇が届きそうな距離に互いの顔があって。


「まだお眠そうですね」

「…………」

 強制的に意識が浮上したため処理速度が落ちて、まばたきしかできない私へと。


「昨日いっぱいしたから、今日はここまでね」

 肩を掴まれる。

 そのまま軽く、頬へと柔らかい唇を受けた。


 寝起きの身には刺激が強かったのか、遅れて一気に血流が上昇していく。

 固まる私の肩を、大丈夫かいなと彼女が軽く肘で押した。


「目、覚めた?」

「さめ、覚めた」

 何度も首を縦に振る。

 彼女なりの目覚ましは、己の身には効果てきめんであった。



 元旦のご飯といえばおせち料理かお雑煮が定番なのであろうが、私達はどちらもあまり好まない。

 保存食として作っていたからか、やたらと甘い食物ばかりで。

 どこぞの県が広めた年明けうどんが、新年の朝食である。


「昨日のお蕎麦の具が残ってて助かったわ」

 丼も、具も、味付けもほぼ一緒。

 違いといえば青ネギが散らされていることくらいか。

 なのに麺をうどんに変えるだけで使いまわし感が薄れるのだから、不思議である。


「……美味しい」

 一口麺をすすると、優しいお出汁の味わいが胃にじんわり広がっていく。

 麺自体もコシがしっかりあって、つるつるとした喉越しは手打ちうどんよりも食感が好みだ。冷凍麺は侮れないと思う。


「昆布つゆってマジ万能だよね」

 七味唐辛子をかけつつ、彼女はチャンネルを回した。


 バラエティコーナー多めのニュース番組。新春初笑いと称したお笑い番組。箱根駅伝。

 いかにも正月といった、定番のラインナップが立ち並ぶ。


 とりあえず食事中ということで、グルメ番組も兼ねたあるドラマを流すことに。

 個人的に、この番組は最後の原作者コーナーが本番だと思う。


「今日は何時から走るん?」

 食後。片付けを済ませて熱い緑茶をすすりながら、彼女が聞いてきた。


 こたつに浸かっていると、だんだんやる気のエンジンが鈍くなってくる。

 満腹感と正月ののどかな雰囲気も相まって、だらけた空気がどんどん広がっていく。


「買い物終わってからがちょうどいいかな」

 昨日の猫の件も気になるし、と付け足すとじゃああたしもついでに走るわと彼女が食いついてきた。


「じゃ、もう行く?」

「そうする」


 元旦は、モールの開店時間が1時間ほど早い。

 混雑する前に早めに買い物を済ませておくかと相談して、食休みもそこそこに私達は家を出た。

 このままのんびりしていては、あっという間に正午になりそうであった。

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