【B視点】初詣の帰り
そんで、ようやく本殿の前にある拝殿へ。
何人か前にいたので、並んで待つことにする。
さっきの清めで真っ赤になった指先を、お互いすり合わせながら。
ちなみに年末ということで、神社的にはもろ元旦の祭事準備まっただ中。
職人さんがえんやこらと木材を組み立てる横で先取りのお参りは、すげー場違い感がある。
しゃーない、客からすれば混雑は嫌だもの。
順番が回ってきたので、あたしたちもいよいよ参拝をすることに。
ひとりずつ5円玉を投げ入れて、二礼二拍手一礼を。ぱんぱん。
うっかりアーメンポーズを取りそうになってしまったので、とっさに直した。
血は争えないのか。
「何祈った?」
列から離れて、あいつが戻ってきたタイミングで聞いてみると。
「……そういえば祈る場所だったな」
「同じく」
お互い、何も考えず手を叩いて終わった。何しにきたんだ。
ここでもあたしたちの信仰心はかけらもなかったみたいだ。
「ところでここ、何が祀られてるんだっけ」
「祭神は3名ほどいるな」
スマホで調べると、ご神徳がごちゃごちゃと出てきた。
合祀祭神と合わせるとめっちゃある。
スサノオとかアマテラスとか、聞いたことのある神様もいるね。
うーん、ひっくるめてだいたいの願い事にご利益があると思おう。
とりあえずなんか祈っときゃ当たるかも精神で毎年みんな来てんのかな。
「にしても、調べてきただけあるね。作法とかわりと疎いから恥かかずに済んだよ」
「ええと、その。デートだから。一応」
デートスポットについて事前にリサーチしてきたというわけですか。古き良き恋人のようだ。
「下見にも行った」
「わあ本格的」
最後にあたしたちは、おみくじを引いていくことにした。
ふだんテレビの星占いも見ないくらい占いごとは信じない質だけど、せっかくの初詣だしね。
売店に行くと、若い巫女さん方が破魔矢や御札を売っていた。
屋外でその格好はくっそ寒そう。
アルバイトの子もいそうだけど、せめてカウンター越しとかで室内は暖房をガンガンに焚いてやってほしい。
くじ引きみたいにガラスケースにひしめくおみくじの横に、これまたミニチュアの賽銭箱がある。
お金はここに入れてねってことみたい。
無心でお互い引いて、しめ縄が巻いてある御神木っぽい木に移動して、お互い畳まれたおみくじを開くと。
「どうだった?」
「中吉」
「あたしは小吉だ」
運勢はそこそこってとこかな?
こういうのは都合よく、ご自分の状況に当てはめて好意的に解釈するくらいがいいのだ。
そしてとある項目に来た瞬間、あたしは文面に吹き出した。
『恋愛:良い 父母に告げよ』
できるかぼけ。
『縁談:他人の言動に惑わされるな』
うん、じゃあそのお言葉通り告げないでおくよ。
ちなみに、あいつのものも見せてもらったところ。
『恋愛:あわてず優しく』
「……どういう意味で?」
「深い意味でだと思うよ」
『縁談:自分で考えろ』
「……教えてくれるのではなかったのか?」
「プランは丸投げってことだと思うよ」
微妙に外して当たってるおみくじの扱いに困ったけど、木に結ぶのは願い事を結ぶって意味らしい。
なので、あたしたちはそのまま持って帰ることにした。
生活の指針としてささやかな手助けになるのも、おみくじの役目らしいから。
「また来年だね」
そんときゃまた、前倒しになるだろうけどね。
別れの一礼を大鳥居へとして、あたしたちは車へと乗った。
鳥小屋とか痛絵馬とかも見て回りたかったんだけど、それより寒さが限界だったので。
「生き返るー」
最大まで暖房を焚いて、温風が吹き出すカーエアコンへと指を伸ばす。
手袋してても冬の寒気は容赦なく冷やしてくるので。
「悪いな、寒いのに付き合ってもらって」
あたしが寒がりであることを気にしているのか、あいつが少し申し訳無さそうに話しかけてきた。
「別にいいよ。何日に行こうが寒いもんは寒いし。元旦じゃこうスムーズにはいかなかっただろうし」
また誘ってねとフォローすると、気落ちした声がちょっとだけ弾んで戻ってきた。
次は縁日のときにでも行ってみましょうかね。
夜の首都高ドライブも、味があって楽しいだろうな。いつか行きたいね。
『運転してるとこかっこいいね』と褒めると、照れくさそうにあいつからはそのために練習したからと返ってきた。
もうちょい横で観察していたかったけど、あまりじろじろ見るのはやめよう。ブレーキとアクセル踏み間違えたらやばいしね。
ひとしきり走って、駅近くのお店に車を返して、あたしたちは帰路へとついた。
もう夕方を回ってる。
明日はあたしの家で過ごすから、今のうちにお泊りセット移動させとかないとな。
「あ」
「?」
あたしの住むアパートへ向かう途中。
近くの公園で、見知った姿を見つけた。
茶色と、濃い縞模様の猫。
ベンチで二匹丸まって、ぴったり寄り添っている。
「あの子たち、たまーにうちの駐車場で見かけるんだよ。縄張り広いんだね」
「日向ぼっこにしては寒すぎないか? いくらくっついてるとはいえ」
確かにそうだ。
帰る家があるんだから、くそ寒い今日はお嫁さんとこたつで丸くなってると思ったのに。
そのうち、茶トラが起き上がってベンチをひょいっと降りていく。
中年の男性が一人、公園に入って手招きをしたからだ。
手にしたお皿の上には、キャットフードのカリカリ。
ん、餌付けしてるの?
「飼い主さんなのか?」
飼い主なら公園にわざわざ来るってことはないと思う。
男性は、近づいてくる茶トラを慣れた手付きで撫でていた。かわいいねーと言いながら。
うーん、普段からやってるのかね?
「まいっか。行こ」
このまま観察していても不審がられるので、陽が落ちる前にあたしたちはさっさとアパートへと向かった。
茶トラはがっついて、カリカリをばくばく食べていたのだけど。
ただ。
少しだけ食べづらそうに口をくっちゃくっちゃさせているのが、あたしはなんだか気になった。