【A視点】ゆうべもお楽しみでした◆
コツは、絡める前に触れるところかららしい。
いきなり動かさず、優しく、丁寧に。
「んぅ、」
舌先が触れ合って、温い感触がつながっていく。
包み込むように這わせていくと、彼女からもおずおずと応じているのが伝わっていく。
突き出した舌の受け皿となるように、慣れない鼻息を継ぎながら。
しかし、不慣れなので仕方のないことだが。
長く舌を外気にさらしていると、だんだん文字通り舌の根が乾いていく。
そこは、無理をせず引くことも大事なのだそう。
苦しくない程度に舌を出したら、軽く触れて、舌先を少し絡めて、また口を離していく。
がっつかず、少しずつ。
「ふ、ぁぅ、」
彼女のくぐもった甘い声が耳に届くたびに、ぱちぱちと耳の奥が爆ぜるのを感じていた。
聞いた端から脳が蕩けていくような、鮮烈な色香を振りまく嬌声。
油断するとふやけて、力が抜けてしまいそうになる。
本人はまだいい声が出せないと気にしていたが、自然に漏れる声だけで十分すぎるというのに。
なのに、もっと聞かせてほしいとも思ってしまっている自分がいて。
お互いに舌を出してつつきあっているだけだった状態から、私はさらに距離を詰めた。
「ん、くぅ、」
重ねて、口内よりも浅く。
唇の少し内側に舌を這わせる。
いきなり突っ込んでしまえば苦しいだけだ。
ゆっくりと、舌先だけを潜り込ませて。
入り口で留まっているだけの状態がもどかしかったのか。
「ふ、うぅ、っ、ん……」
やがて、生温かく柔らかい感触がそっと触れてくるのを感じた。
もっと来てもいいと、舌先がゆっくりと動いてなぞっていく。
絡めた指を握り返して、少しずつ求めに応じていく。
「…………」
少し奥まで潜り込ませたところで、握った片方の指が動かされるのを感じた。
ある場所へと導かれるように、彼女の腕に引っ張られて、そして。
「…………っ」
彼女のとある部位へと指が触れたところで、口が一度離れていった。
「……ここって」
それは、少し大胆な夏服にしか見えない水着の中で、ひときわ大胆に露出している場所。
お腹であった。
見た目は引き締まっているのに、触れた肌は瑞々しく、柔らかい。
何故ここを? と聞いてみると。
「まだ、局部は無理だけど。ここだったらセーフかなと」
「お腹だぞ。くすぐったくないのか」
さすがの私も、ここをくすぐられれば耐えきれない。
「婦人科のエコー検査では飛び上がったけど」
光景が容易に想像できる。
「なんか、むずむずするから。今なら、気持ちよくなれる、かも」
腹部は性感帯なのか? どこか別の部位と勘違いしているだけでは。
とはいえ、それを気持ちいいと認識できるのであれば開発するに越したことはない。
「……えっと。嫌であれば」
「”終わって”だよね」
「そう」
とりあえず同意は得たので、軽く刺激してみることにする。
「うぅっ」
ぺた、ぺたと。
手のひらを腹部に這わせていくと。
3秒くらいで終われと却下を申しだされた。
続く脇腹を掴む行為も、つまんで揉む動作をしたところで無理と耐えきれず終了し。
やはり腹を感じる場所と思い込むのは無理があるのではと、さじを投げかけたところで。
「き、キスと組み合わされば。うまくいくかも」
そう提案される。
確かに、昂ぶっているときに性感のようなものを覚えるのであれば。
気持ちいいと認識できる他の行為と進めていくのがいいのか。
「声は出せないから、嫌だったら思いっきりどこかをつねって」
「おけ。よろしく」
そのまま、再度唇を重ねた。
「ん、んんぅ、っ」
今度は奥まで、絡み合うように。
互いの舌をすり合わせて、深くつながっていく。
舌先でつついて、時折唇を軽くふちどって、また口内へと。
こそばゆくも気持ちいい口内への感触に溶け合いつつ、そっと手を望む場所へと近づけていく。
「っぁ、ぅ……っ」
お腹の上や横は跳ね除けられたので、なら、下はどうか。
へその下へと、静かに触れると。
「…………っ」
ぶるりと半身が震えたものの、振りほどくほどの反動はなかった。
となると、ここなのか?
そのまま、ぐっ、ぐっと指圧マッサージでもするように刺激していく。
……部位が部位なので、生理痛緩和のケアを施しているかのようだ。
「ぁ、ぅ、んん…………ぅうっ……っ」
何度か押し揉んだところで、急に彼女の力が抜けた。
絡み合っていた舌がぐっと突き出されて、それからずるりとほどかれていく。
あわてて崩れ落ちる身体を支えた。
「っく……ぅ……」
意識はあるようだ。
全身が弛緩しきったかのごとく私へともたれかかり、ぴんと伸ばされたつま先が小刻みに震えている。
痛かった、というようではなさそうだが。
「……大丈夫か?」
「え、あ、うん。平気」
放心状態にある彼女に話しかけると、ややあって反応が戻ってきた。
「えっと。間違ってなかったから。たぶん、気持ちよかったと思うから」
お腹への刺激は外してなかったよと、フォローがかけられる。
何がどうそういう感覚につながったのかは掴めなかったが、苦痛でなかったのなら安心はした。
「うお、なんだこれ」
そろそろ上がろうかというところで、彼女が素っ頓狂な声を上げたので振り返る。
「どうした?」
「や、こっちの問題。先上がっていいよ。あたし身体洗うから」
「わ、分かった」
早く行けとでも言うように、半ば追い出される形で私は浴室を出た。
どのみち、着替える時間はバラバラにしたかったので好都合ではあったが。
もろもろが済んで、寝間着に着替えて私達は横になる。
風呂場であれば、汗を流す手間も省けるので行為の場所としては今後もいいかもしれないと思った。
「今年もホワイトクリスマスにはならんかったかぁ」
窓を開けて、乾いた寒気だけが流れる暗い夜空に彼女がため息を吐いた。
「関東だし。ここは滅多に降らない地域だから」
「降っても喜ぶのは犬と子供くらいなんだけどね。路面凍るからチェーンつけないとだし」
言い忘れたけどめりくりー、と適当に祝って彼女が窓を閉めた。それでいいのかキリスト教。
そのままぼすっと自分の枕に倒れ込むようにして、こちらに寝返りを打つ。
「どうよ。それ」
クリスマスプレゼントに買った枕の使用感は、控えめに言って最高であった。
ほどよい弾力感が心地よく頭を包み込んで、すぐに意識を手放してしまいそうなほどの安らぎを与えてくれる。
「買ってよかったなと思う」
「そ。また使ってあげてね」
「ああ、そうだ。一応」
昨日撮影したツーショットをLINEへと送信する。
「メリークリスマス、ということで」
「そっか。初めてだっけ。二人で撮るの」
よう考えたねえ、と感心そうにスマートフォンを見つめて、慈しむように彼女は二人で映る画面を撫でた。
なお、速攻で待ち受け写真へと登録していた。
少し恥ずかしいが、嬉しくもある。いずれこちらも飾ってみよう。
眠気が深まってきたところで、片手にそっと重ねられる感触があった。
「一晩、いい?」
「いいけど、珍しいな」
こんなふうに手をつないで寝たことはなかったはずだ。
なにか寂しいことでもあったのだろうか。
「夢の中でもつながってたいかなー、なんて」
恥ずかしいことを口走ってしまったと笑い飛ばされて、そして会話が途切れる。
とっさに舌のことを思い出して顔が熱くなった。
「じゃ、また明日」
「おやすみ」
電気を消す。
すぐに隣からは静かな寝息が届き始めて、しっかりと握りしめられた手のぬくもりだけが残される。
明日は二人で、一日のんびりと過ごそう。
良い枕と、柔らかな手の感触に包まれて。
今日は良い夢を見れそうだと長く息を吐いて、私は眠りへとついた。