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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
クリスマス編
110/171

【A視点】延長戦◆

・sideA


『触ってるときって、どんな気持ち?』

 以前の行為のあとに、彼女からはそう聞かれた。


 向こうとしては、与えられる側の快感は分かるが与えるほうはどう感じているかが気になっていたらしい。


 外部接触を通して感じるものではなく、心から愉しむとはどんなものなのかと。


 それは、いまいち私としても掴めていなかった。

 何せ最初は、ちゃんと楽しませられているだろうか。これでいっぱいいっぱいではあったから。


 今であれば、答えられる。

 恋人が反応してくれる姿に、興奮を覚えるのだと。



「…………」

 先ほどまで吸い付いていた首元に手を当てて、彼女の唇からほうと吐息が漏れた。


 甘く潤んだ瞳がこちらを見据えて、まだ余韻が残っているのか肩が小刻みに震えている。


 血流が上昇していくのを感じていた。

 滾る熱情に、脳が痺れていく。


 あまりにも、艶やかだと思う。


 温泉の時に垣間見た、色気の度合いは比べ物にならない。

 理性を根こそぎむしり取っていくような、魔性といっていいものが今の彼女には備わっている。


 まだ手探りではあるものの、誰も知らないであろう表情を引き出せたことに例えようもない感情があふれていく。

 それがきっと、心から愉しんでいるということなのだろうか。



「次、あたしね」

 向かい合った矢先。

 バスタブに頭を預ける私に寄り掛かるようにして、彼女が胸元に顔を寄せた。


 頬を擦り付けて、指の腹でとんとんと胸骨のあたりをつつく。あたしのだからとつぶやいて。

 お返し、らしい。


「つけていい?」

「そこなら」

 私がしたように肌を出す位置でも問題はないが、するところを眺めていたいという下心のほうが勝った。


「あむ」

 てっきりそのまま吸い付くのかと思いきや、ぞろりと舐めずる舌の感触を覚える。

 軽く声が出てしまった。


「し、湿ってるから舐めなくてもいいんだ」

「や、だってこれ、内出血させてるってことだし。傷をつけてるわけだから労んないと悪いかなって」


 ああ、それもそうか。

 今更自分の肌がどう傷つこうとも気にならなかったが、彼女にとっては気になるわけで。


 それならお気の召すままにと身体を委ねて、優しい傷を受け入れていく。


「ん、ぅ……っ」


 十分すぎるくらいに肌に舌を這わせる様は、愛情表現を繰り返すペットのようで。

 健気な奉仕に愛しさがこみ上げてきて、思わず頭へと手が伸びる。


「ぁう」

 肩がびくっと跳ねて、彼女が訝しげにこちらを見た。


 乗せるだけで何もしないからと念を押すと、少しだけ頭が下がってふたたび胸元への接吻が始まった。


「む……」

 しばしの時間が流れて、ようやく彼女が満足そうに口角を上げる。


 吸う力が弱いのか、なかなか痕がつかなかったのだ。

 何度か繰り返し吸うことで、胸元にはうっすらと赤く小さなしるしが浮かび上がっていた。


「いたく、なかった?」

 最後にまた、痕をそっと舌を這わせて。


 唾液に濡れた部分へと、蛇口からひねり出されたお湯がぱしゃぱしゃとかけられる。

 むしろ良かった、とフォローしたところ。


「じゃ、こっちでも味わってみますか」


 口端から桃色の舌先をわずかに出して、私の唇へと指先が突き立てられた。


 心臓が跳ねる。

 理性が檻でできているのであれば、とんでもない勢いで溶解していってるのだと思った。

 美人に狂わされていく人々の気持ちを、今身を持って実感した。



「…………」

 すっかり湯気が抜けて、曇っていた浴室鏡に水滴が伝い始める。

 少し冷えてきた浴室のタイルへと、天井から雫が滴り落ちる音が聞こえた。


 真冬の寒気にさらわれて、ぬるくなっていくだけの浴槽内で。

 冷めぬ熱がまとわりついた私達は、互いに見つめ合っていた。


 以前は直視できなかった艶やかな素顔を、網膜に灼きつけるがごとく。

 今は、取り憑かれたように目をそらすことができない。


 彼女もまた、ぴくりとも動かぬまま上気した顔でまっすぐに見つめ返してくる。


 静止しているから、作り物みたいな整った顔立ちが本当に人形を間近にしているようで。

 なんて綺麗なのだろう、と高鳴る鼓動に周囲の音が消えていく。


 たっぷり視線を通わせて、やがてどちらからともなく顔を近づけていく。

 吐息を。髪を。肌を。

 そして、唇に。


 重なって、溶けていくぬくもりからは。

 厭らしさとは裏腹に多幸感が湧き上がってくる。


 両の指を絡めて、静かに目を閉じて。

 ただ口唇への柔らかさを感じ取るがままに、一切の激しさがない穏やかな口づけを交わし続ける。


 どれくらいの時間が流れただろうか。

 握った指へと反応を覚えた。


 親指でつんつんと、次を促すように彼女が信号らしきものを送ってくる。

 催促に導かれて、私はゆっくりと口唇をほどいていった。


「ん」

 その際に這い出た彼女の舌が、そっと下唇をなぞっていく。

 離さないでとも言うように。


 彼女から覚えて応えてきてくれたことに、欲求が膨れていく。

 もっと、深い場所へと。

 今度はこちらから舌を突き出して、なるべく力を抜いて舐めあげる。


 何度か行き交ったところで、やがて引き結んでいた唇がほころんでいくのが分かった。

 受け入れる意思を示すごとく。

 ぎこちなく舌が突き出されて、続きを紡がれる。


「来て」

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