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ボイタチさんとフェムネコさん  作者: 中の人
クリスマス編
109/171

【B視点】バスルームの秘め事◆

 前とは違って、今日はお風呂。

 肌が湿っているから、乾いているときみたいな産毛へのぞわぞわ感は少ない。


 ただ、触れているだけ。

 なのに、時間が経つたびに身体がむずむずと、何とも言えない感覚が湧き上がってくる。


 それもそのはず。だから場所をお風呂にしたのだから。


 ぬるめのお風呂にゆっくり浸かると、体内では副交感神経の働きが活発になる。

 全身の血流がアップするため、普段より感度が上がるとか言われている。


 いざ本番ってときに、痛いのを耐える時間じゃなくするため。

 何も考えられなくなって、気持ちよさに翻弄されるだけの時間にするため。



 あれから何分経っただろう。

 頸動脈に刃物ではなく手刀が添えられているだけで、あたしはわりとぽんこつになりかけていた。


「……っ、うぅ…………」

 勝手に声が漏れていく。

 口を塞いでいるのに、余計に快楽の叫びは止まらなくて。


 ちなみに口に手を当てているのも、そのほうが色っぽく出るとか聞いて試してみたもの。

 あはーんとか大げさに出す必要はなくて、吐息であえぐのがポイントなんだとか。


「ふ、うぅ……」

 むずむずを体内で処理しきれなくなって、あたしは腕の中で無意味にもがく。


 抱擁から逃れたいわけではなく。

 勝手に身体が反応してしまうのだ。


 あいつの目から見れば、時間経過で即落ちしているあたしが映っていることだろう。


 首押さえてればいいだけなんだから、なんともまあ、お手軽といいますか。


「あうぅ」

 抑える間もなく、喉から嬌声がほとばしる。

 それまでなんのリアクションもなかったあいつから、動きがあったから。


 耳たぶに、熱さと柔らかさを感じる。

 唇で挟まれていたのだ。


 前にあいつは耳に向かってはそんなにしてこなかったけど、それは汚れるのを気にしていたから。

 だからここだと、そういうのを気にする必要がないわけで。


 つまりは、あの時からこうしたかったわけですね?


「っは、ぁぅうっ」

 抑えてても、声量がまったく意味をなさない。


 優しく吐息がかかるだけで、すでに昂ぶっている身体は勝手に跳ねる。

 びちびちと、まな板の上でもがく魚のように。


「ひゃ、ぁっ」

 小さく耳たぶが吸い上げられて、離れたところを舌でかするようになぞられた。


 ぞわわっと。

 ひときわ大きなふるえが脳天からつま先までを貫いて、あたしはぐんと背中をしならせる。


 自分のものとは思えないくらい、身体ががっくがくに震えている。

 水面が揺れて、息ができるのに溺れていくみたいで。


 感度の深さを物語るみたいに、バスタブから激しくお湯がばしゃりと飛び散った。


 お湯はぬるいはずなのに、体の芯にともったとろ火は抜けてくれない。

 じわじわと炙られてるみたいだ。

 気が狂いそうなほどに。


 もう、主導権なんざとっくに失っていた。



 今、いったい何時だろ。

 相変わらず耳と首への責め苦は止まなくて、あたしは優しい拷問のさなかにいた。


「ん、んぐ、ふぅぅぅっ、」

 耳の外側あたりに指がかかって、中に入れない範囲で撫でくりまわされる。


 絶えずあたしの身体はぶるぶるいってるから、狙い定めるのも難しいでしょうに。

 耳への動きと連動して、首元の血管をなぞるように舌で舐めあげられる。


 前回のキスしながらさわさわとか、なんかもうあれの比じゃない。


 ただ口を抑えていい感じの声を聞かせることしか頭になくて、我慢せんでええわと放った言葉通りに、あたしは遠慮なくされるがままでいる。


「…………」

 ふと、ようやくあいつの動きが止まった。


 というか、止まったというよりは猶予をあげているだけと言いますか。


「聞かせて」


 はっきりと欲求が耳管を通っていく。


 ずっと口を塞いでいたから、ちゃんと声を出してほしいとのこと。

 あんまり手で抑えていても意味なかった気もするけどなー。


「で、でも。へんな声しか、まだ出せなくて」

 息も絶え絶えに拒否ると、いいから、と唇に指が押し当てられた。


 4本の指が顎へとかけられて、残った親指が口元に。

 そこから唇へ。もっと奥へ進もうとして。

 え、つまり。


「べ、べとべとにしちゃうんだけど。それ」

「……何のための風呂場だと」


 いや、そうだけど。

 でもこの発想はなかったんだけど。


 聞かせて、ってそういうこと?

 普通に出すよりやらしくはあるけど。遥かに。


「これだと不公平だ。何か要求があれば」


 するときはわりと大胆なのに、変なところで公平なのがあいつらしい。


「じゃ、じゃあ」

 あたしは恥を捨てた。

 突っ込んでもがもがしている間に、してほしいことを伝える。


「つけて」

 首元を指差した。

 すぼめて、強く吸い上げてと。

 よく濡らしておくとやりやすいみたいだけど、そこは十分なので。


 いちおうクリスマスなわけだから、なにか証みたいなものが欲しかった。


「め、目立つぞ。そこだと」

「……仕事中は化粧で隠すから」

「……、分かった」


 なるべく力を抜いてと、唇へと再度親指の腹が押し当てられる。

 ん、と頷いて、互いのリクエストを消化するべく事が始まった。


「ん、く、ぅ」

 舌とはまた違う、人のものが口内へとゆっくり入っていく。


 第一関節を少し潜り込ませただけだったけど、普段のあいつなら絶対しない行為のギャップにあたしはよくわからんむずむずがふくれ上がっていくのを感じていた。


「ぐ、んん、……っ」

 同時に、首元へと強い感覚が走った。


 吸着音が耳へと届いて、吸われているのが伝わってくる。

 あたしだけの身体じゃないって、物理的に証明するための。


「う、ぇ……っ、つ、じゅ、っ」

 え、何したの今?


 突っ込んでいるだけだった親指が動いて、口内をかすった。

 おかげで下品な音が漏れたんですけど。


「は、っうぅ、ちゅ、……っ」

 苦しくない範囲で、指が口内を這い回る。

 そのたびに舌がもつれて唾液があふれて、みだらな水音が漏れていく。


 変わらず首元に痕を刻み続けているあいつに、やっと言葉の意味を理解した。


 これを聞きたかったのだと。



「は…………っ、ぅ…………」

 ようやく唾液に濡れ光る親指が抜け出て、首元からも唇が離れていく。


 軽く蛇口をひねって洗うあいつを、あたしはぼーっと眺めていた。


 死にたい。

 めちゃくちゃ突っ込まれてめちゃくちゃ聞かれた。


 いやそれがお望みだったんだろうけど、普通に身体を重ねるよりもアブノーマルに偏ったメニューをこなしていたもんだからメンタルは崩壊寸前だ。


 なのに、なんだろう。これ。


 ふくれ上がったむずむずが普通胸から上へ湧き上がっていくもんなのに、さっきから下腹あたりでうずくまっていて。

 じくじくと。


 それが、嫌じゃないって認めたらおかしくなりそうで。

 なにこれ。


 考えている暇はなかった。

 次はこの前の続きをしたいと、膝に乗っていた体勢からあたしたちは向き合うことになる。


 ああ、もう、こうなったら行けるところまでお付き合いしますよ。

 もう、とっくに聖夜は終わったのだから。25日の日没と同時に。


「いいか」

「うん」


 刻まれた首元を、そっと撫でられた。

 今は誰のものであるのかを、ひと撫でで分からされていく。


 今まで我慢させていたぶんの熱は、まだ引きそうになかった。

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