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8 伯爵家の実態

 キアフールは、エスポジート伯爵の長男である。エスポジート伯爵は、建前上は、王立騎士団の副団長ということになっている。真実は、騎士団暗部の部長である。

 

 エスポジート伯爵州は領地はさほど広くはないが、歴代騎士団の団員や暗部の者を多く排出しているため、国からの補助金が多く出ている。

 団員が多いという点はルジェリアのカナート侯爵州も同じである。


 エスポジート伯爵州もカナート侯爵州と同じく特別初等学校制度になっており、特別中等学校ももちろんある。

 特別中等学校は、まさに全員暗部になるための学校である。学校内のことは、家族にも話してはいけないことになっている。建前上は健全な学校であるため、それとは別に訓練をするので苛烈なスケジュールをこなさなければならない。


 エスポジート伯爵州では、特に優秀とされ暗部に採用されれば、家族手当も多額で、もしもの時には、報奨金という名の多額の見舞金が出る。なので、暗部は秘匿部であるにもかかわらず、エスポジート伯爵州では花形の職業なのだ。その花形の職業への近道が特別中等学校である。


 そういう関係で、両家の子供の年齢が近かったため、当然のようにキアフールとルジェリアは、幼い頃からの婚約者となった。


 キアフールは、学園ではルジェリアたちより一つ上で、お姫様と名高いロゼリンダや、王子様と呼ばれるランレーリオや、才色兼備と言われるベルティナや、隣国ピッツォーネ王国からの留学生たちとクラスメートである。


 キアフールの秘匿側近ダリアス・バイヤティ子爵令息とヨーゼント・シーキュレス男爵令息も同じくAクラスだ。クラスでは3人は同州の友人ということになっている。まあ、それもあながち嘘ではないのだが。


 ダリアスとヨーゼントは、キアフールの秘匿側近と言われるだけあって、武力の実力はずば抜けており隠密としての実力も高い。そうなるために、幼き頃からキアフールと同じだけの訓練を受けてきているのだ。二人とも次男なので、将来は王都のエスポジート伯爵邸に部屋をもらうことになっている。もちろん二人とも特別中等学校(特中)出身である。


 キアフールは、暗部の中心エスポジート伯爵家内でも、天才と言われるほどの才覚を持ち将来を期待されている。


 が、残念なほどに婚約者に弱い。

 中等学校の頃から、ルジェリアに暗部のメイドをつけさせて事細かに報告させている。学園に入れば、暗部エリートをルジェリアにつけさせていて逐一報告させているのだ。

 そのせいで、ルジェリアには妙な事件がたくさん起きていた。まさかそのせいだということをルジェリアが気がつくことはない。

 ルジェリアの妙な事件の一部を見てみよう。


〰️ 〰️ 〰️


 キアフール、2年生の10月。


「運命の出会いって、してみたいわよねぇ。目と目が合った瞬間にビビッと何かを感じるのよぉ」

 

 暗部からの連絡で、ルジェリアの希望していることがキアフールに伝えられた。ここは学園の寮のキアフールの部屋だ。


「婚約者がいるのに運命の出会いは必要か?」


 キアフールは悩ましい顔を半分右手で隠していた。


「ルジェリアさんは、夢子さんですからねぇ」


 ヨーゼントは呆れたを表すように両手を脇にして広げてみせた。


「昔っから変わんないねぇ。ほら、小さい頃、どこかのお茶会てさぁ」


 ダリアスはすでに笑いたそうだ。


「うちの茶会だっ!」


 キアフールが渋い顔で答える。


「ああ、ありましたねぇ。『王子様に助けられたい』と言って池に飛び込んでいましたね」


 ヨーゼントが眉を寄せて口を半開けで頷いた。ダリアスはとっくに思い出して大笑いしている。


「ヒィヒィ! おっかしい! もし、王子がいても、王子は飛び込まないって! アーハッハッハ!」


 ダリアスはこのネタが大好きなのだ。この時飛び込んでルジェリアを助けたのは、当然護衛たちだ。


「そういうところが、かわいいんだ!」


『ダン!メキッ』


 キアフールが叩いたテーブルの足が一本折れた。


「……。恋は盲目とはこれいかに」


 ヨーゼントが毎度のことだとテーブルを部屋の隅に片付ける。ダリアスはさらに笑っていた。


「とにかく、ルジェが誰かと運命の出会いなど、させるわけには、い、か、な、いっ!」


 キアフールはダリアスの鼻先に人差し指を当てて宣言した。


「なら、キアルと『運命の出会い』をすればいいんじゃないのか?」


 ダリアスはキアフールのその手を払いのけた。


「そ、そんなことできるのか?」


 キアフールは態度を変えて縋るようにダリアスの袖を掴んだ。


「まあ、出会ってみたら、婚約者で『やっぱり私たちは運命で結ばれるのねぇ!』みたいな」


「そ、それ! いいなぁ……」


 キアフールはルジェリアに目をキラキラされることを想像して悦に入る。


「……。夢子がここにも……」


 ヨーゼントは再び呆れたを表すように両手を脇にして広げてみせた。


「それはどうすればいいんだ?」


 ヨーゼントの気持ちも無視して、キアフールはダリアスに詰め寄った。


「偶然を装って、街角でドン! だろうなぁ」


 ヨーゼントを無理やり引っ張りこんで3人は作戦会議を開いた。



〰️ 〰️ 〰️


 そして、早速実践された。ある日の日曜日、ルジェリアとモナローズが、お忍びで王都の下町へ遊びという名の警邏に出掛けたことを確認したキアフールたちは、さり気なくぶつかれるポイントを模索する。

 ポイント発見! キアフールは超スピードで裏から回って、角から飛び出して、ルジェリアとぶつかり、ルジェリアは尻もちをついた。


「いったぁ!」


「大丈夫?」


 と、キアフールはルジェリアに手を差し伸べた。そして、二人の目と目が合った瞬間に二人は、ビビッと感じた。恋に落ちて、キアフールは帽子をとるはずだった。


 なのに……


「怪しいやつ! ローズ! 確保よっ!」


 ルジェリアは、中折れ帽子を目深に被り口元はスカーフで隠していたキアフールに攻撃をしてきた。

 ルジェリアは素早く起き上がって、すかさずキアフールに蹴りを入れる。キアフールはぎりぎり避ける。


「ちぇっ!」


 ルジェリアの豪快な舌打ちが響く。


「え? ちょっ!」


 予想と違う展開に、キアフールは戸惑った。

 キアフールの背後にはモナローズ。ルジェリアは再びキアフールに向かい、右フック、左肘鉄、右足前蹴り。前蹴りで、キアフールがふらついた。ルジェリアの回し蹴り! キアフールは両手でそれを受け、ルジェリアを足から回す。ルジェリアは投げられる前になんとか体制を立て直すが、前面が空いたキアフールは、そのまま逃げ出し、人混みに紛れて逃げ切った。

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