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6 上玉らしい

 1番男は自分の指をハンカチで拭いた。そして、ルジェリアの顎を持ち上げてハンカチでもう一度、ルジェリアの口角を拭いた。


「っ!」


 ルジェリアは少し顔を歪めた。


「痛かったですか? 少し腫れてますね。

全く、売り物を壊そうとするとは……」


「エヘヘ、壊すつもりなんてありませんよ。ちょっとしたお仕置きです」


 頬傷男はだらしない顔で言い訳する。


 1番男は同様にモナローズの口角もハンカチで拭いた。それから隣の女性に移っていく。


 次の男が回ってきた。


「これはこれは、上玉ですなぁ」


 2番男がルジェリアとモナローズをジロジロと見る。そして、ルジェリアの服の襟を触る。


「おや? これは、これは。ほっほっほ。

この国では使えない方のようですなぁ。クフフフ」


 2番男の下品な笑いに二人は顔を顰めた。

 服の上質さで身分がある程度わかってしまう。本当に他国に連れ去られるかもしれない。


『この国にいる間に逃げなくちゃならないわね。モナローズと同じ人に買われるといいのだけれど。他国に連れ去ってほしいお相手はあんたじゃなくて、王子様よっ!』


 ルジェリアはどんどん悪くなる状況にあり、気持ちは少しヤケになっていた。


「イヤイヤ、店ではなく館用にすればいいのですよ」


 3番男は特に触るわけではないが、上から下まで真面目な顔でじっくり見た。


「いくら上玉でも、これは貴族を相手にさせるのは危険ですよ」


 4番男はモナローズの服を確認した。ルジェリアとモナローズの前で買った後の相談を始める3人。


『今度お忍びする時に服を買わなくちゃ』


 ルジェリアはヤケになりつつあるが、まだ何も諦めていない。この服は、領地にいるときにメイドが用意してくれた町娘風の乗馬服だ。まず、乗馬をするような町娘はいない。なので、その時点でよい布になるのは当然だ。


『少年服を買うしかないかしら?』


 ルジェリアはどこまでも前向きだ。


「おい。商品に傷を残すようなことをしたら次はないよ」


 頬傷男は、1番男だけでなく2番男にまで釘を刺された。


「わ、わかりました……」


 頬傷男の返事が1番男の時より素直だ。2番男はここの常連なのかもしれない。


 3人の男たちは次の女性へ移っていった。


 男4人が一周する頃、入口近くにテーブルと椅子が用意され、その男4人が女性たちを見るようにテーブルについた。


 ルジェリアを殴った頬傷男がルジェリアから見て1番右の女性の脇に立ち、その女性を立たせた。


「では、この女からです。5からで」


 テーブルについた男たちが次々に数字を言っていく。最後に2人の男が残る。


「70」 


 2番男が手を上げて宣言した。


「どうぞ」


 3番男は諦めたようだ。女性の首に何か書かれた木札が下げられた。恐らく競り落とした男を示すものなのだろう。


 女性の買い主が次々に決まり、木札が下げられていく。


 ルジェリアの番になった。


「その二人は最後にしましょう」


 4番男の提案にテーブルに座る男たちは全員賛成した。


 ルジェリアとモナローズを飛ばして、再び、女性の競りが始まった。


 あっという間に、ルジェリアとモナローズを残して木札が女性全員に掛けられた。


〰️ 


 残るはルジェリアとモナローズだけになったところで、2番男が手をあげた。


「ところでぇ。みなさんは、あれを安全に扱う場所をお持ちなのかな?」


 2番男は左右にチラチラと視線を送りながら、ルジェリアとモナローズを顎で指して他の3人に訪ねた。


「それを答えてしまったら、競りの値段に響きますね。そんなに安く買い叩きたいのですか?」


 4番男が笑いを押し殺しながら聞いた。


「バカにしないでもらいたいな。あなた方に買われてここのことが貴族たちの知るところとなることが、困ることだと言っているだけですよ」


 2番男がイラッとした様子で答える。

 頬傷男がルジェリアとモナローズを立たせた。


「始めていいですかね?」


 4人が頷く。


「では、二人合わせて600から」


 ルジェリアとモナローズはあまりの数字に二人の後ろにいる頬傷男を睨んだ。

 先程の男たちの話を聞くと、自分たちは上玉だが扱いは難しいらしい。なので、二人合わせて売るというのは、わかる。だが、他の女性とのあまりの金額格差に驚愕した。


『まさか私たちを売らずに殴りたいのかっ?』


 ルジェリアがそう疑うような数字だった。まわりの女性たちは高くて100だ。


 だが、それは杞憂だった。


「2000」


 2番男がいきなり高値を出した。自信有りげな顔をしている。


「ほぉ、よほど自信がおありのようだ」


 3番男がチラリと2番男の様子を伺う。


「さあ? それはどうでしょうか? ハッハッハ」


 先程からかっていた4番男は両手を広げて、参戦しないというジェスチャーをした。


「では、に、2000、で、です。他は?」


 すごい数字に後ろの頬傷男でさえびっくりしている。

 2000と言った2番男が勝利を確信したようにニヤけた。


「5000」


 部屋に響かせた声は――1番男だ。


「なっ! ここは現金のみですぞっ! そんな金があるようには見えませんなぁ!」


 2番男が食ってかかった。


「おいっ! 下の馬車へ行ってこい」


 入口近くにいたのはルジェリアに投げ飛ばされた小男であった。小男が外へ出て行った。階段を降りる音がする。しばらくして階段を登る靴音が複数した。


 ボストンバッグを両手に抱えた男たちが取りに行った男も含めて5人いた。ということは、5000は本当にあるのだろう。


「上乗せするのは構わないが、そちらも宣言した数字の現金は見せていただかないと、上乗せには応じられませんよ」


 1番男が2番男に凄んだ。


「降参だ」


 2番男は早々に返事をした。


「すげぇ、あんたらに感謝するぜ」


 頬傷男がルジェリアとモナローズだけに聞こえるように呟いた。頬傷男はルジェリアとモナローズの肩を叩いて喜んでいた。そして、二人を椅子に座らせた。

 室内にいた男たちがそれぞれのテーブルへ行き、お客様の現金を確認していく。


 頬傷男はルジェリアたちを買った1番男の元へ行った。1番高額の確認をするのだから、コイツがリーダーで間違いないだろう。


 精算の終わった者に買われた女性たちからどんどん下階へ連れて行かれた。


 1番男の精算も終わったようだ。1番男に買われた女性たちが立たされて扉の外へと連れ出された。


 ルジェリアも立たされようとしたが、ルジェリアは少し抵抗した。


「立てって言ってんだよっ!」


 手下男が椅子を蹴飛ばし、ルジェリアは思いっきり転んだ。


「きっさまっ!!」


 1番男が椅子を蹴飛ばした男に向かってきて、殴り飛ばした。


「おいっ! 代表! 私が5千で買った女だ。5万で買い取ってもらおうかっ!」


 1番男が頬傷男へ向かって大声で命令した。


「そ、それは勘弁してください。

おいっ! 連れていけっ!」


 頬傷男の命令で、男たちが椅子を蹴飛ばした男の両脇を抱えて隣の部屋へ連れて行こうとする。


「あ、兄貴?! 待ってくれっ! 勘弁してくれっ! なんで、なんで今日に限って!!」


 手下男はヨダレを流して一生懸命に訴えた。


「価値の違いもわからねぇやつに商品を触らせられねぇ!」


 頬傷男は部下の話を聞く気もないようだ。

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