5 監禁事件
ルジェリアが目を覚ました時、後ろ手に縛られ足首も縛られた状態で床に転がされていた。なんらかの棒で殴られた肩は痛むが、その他のところに特に痛みはない。
同じようにされてると思われるモナローズは、ルジェリアからは見えない。
まわりの子は縛られていないようだ。身を寄せ合って泣いている者、泣いている者を慰めている者、一人で震えて者、様々だが、全員女の子である。
部屋の中には男が3人。
部屋には窓がなく、ドアが前に1つ、後ろに1つ。木棒を持った男がルジェリアから見て前方のドアの前に立っているのでそちらが出口だろう。
部屋の角にある小さなテーブルに座っている男が2人。
しばらく転がったまま様子を伺っていたが、男の一人に起きていることが見つかった。
「おっ! 目を覚ましたのか。威勢いいねぇちゃん!」
ルジェリアに飛び蹴りをされた男だ。頬に傷がある。テーブルから立ち上がり、ゆっくりとルジェリアに近づいてきた。やおら、ルジェリアの脇にしゃがむと、ルジェリアの髪を引っ張りルジェリアの顔を上げる。
「その人に触るなっ!」
モナローズの元気そうな声に、ルジェリアは安堵した。どうやらルジェリアの背中側にいたようだ。
「ほぉ、そっちのねぇちゃんも起きてたか」
真冬なのに半ズボンの男が、眉根を寄せて、手の関節をポキポキといわせながら、テーブルからこちらへやってきた。その男は、モナローズにやられた男なのだろう。ルジェリアには目もくれない様子だった。
「治る程度にしておけよ」
頬傷男が真面目な顔で半ズボン男に忠言する。
「わかってるよっ!
ねぇちゃん、さっきはよくもやってくれたなぁ」
苛立ちを隠さない半ズボン男はモナローズを無理やり起き上がらせて、モナローズの頬を平手で打った。モナローズは再び転がった状態になった。
女の子たちが小さな悲鳴をあげた。
「おやめなさいっ!」
ルジェリアは半ズボン男を下から睨んだ。
「おいおい、自分が無事だと思うなよ」
頬傷男もルジェリアの胸ぐらを掴み座らせた。胸ぐらを掴んだままルジェリアの頬を平手で打った。
女の子たちは息を飲んだ。
「売りモンになんなくなるのも困るから、今はこんなもんで済ませてやる。売れたら、そんときは覚悟しとくんだな」
頬傷男は胸ぐらを掴んでいた手でルジェリアを床に投げるように落とした。
「売れてからやるのかよ。外道だな」
半ズボン男が右側の口角だけを上げて、ひしゃげた笑いをし、嬉しそうな声を出した。
「売れちまえばどんな状態だってかまわねぇ。今まで真面目にやりすぎだったのさ。たまにはいいだろうよ」
頬傷男はルジェリアとモナローズを上から見下ろした。そして、しゃがむと再びルジェリアの髪を掴んで顔を上げさせられた。後でどうしてやるかを思案しているようで、目を細めてニヤニヤしている。
『顔が気持ち悪い』
ルジェリアは頬の痛みより相手の顔が近くにあることに嫌悪感を感じていた。
ニヤニヤした顔のままの頬傷男がルジェリアの脇に立った。
「なぁ、ねぇちゃん。どこの回しもんだ?」
答えないルジェリアに苛立った頬傷男がルジェリアの頭を下へ投げ立ち上がった。そして、ルジェリアの腹を蹴った。ルジェリアは蹴られる瞬間に体を曲げて痛みを緩和するが、痛たそうなふりをした。
「やめなさいよっ!」
モナローズが叫ぶ。半ズボン男がモナローズをもう一度平手で殴った。
「まあ、どっかの偵察なら、こんなアホなことはしないわなぁ。だとすると、単独か。それにしてはいいもん着てるしなぁ」
半ズボン男がモナローズの後ろ手に縛られている腕をとり、腕を擦って布を確かめる。
「もし、どっかのもんなら、とっくにここに押し込まれてるだろうよ。単独のお転婆女だろう」
頬傷男の言うことに半ズボン男も納得したようで、ニヤニヤと二人を見つめた。
〰️
「おい、そろそろだ。準備しなっ!」
頬傷男の指示で部屋にはさらに二人の男が呼び入れられ、4人の男たちは何やら準備をしているようだ。
部屋の壁から人一人が通れるほどの間隔を開け、壁にそうように椅子が並べられた。そして、女の子たちが次々に座らせられる。
ルジェリアとモナローズは、入口と思われるドアから1番遠い椅子に座らせられた。女の子たちの中では真ん中あたりか。座らせられる時に足のロープがはずされ、手首は前に縛り直された。
女の子たちは20人ほどいた。いかにも10歳以下という女の子もいる。
頬傷男がルジェリアの前髪を掴み上を向かせた。ルジェリアを見てニヤリと笑った。
「てめぇらが逃した女の分も、てめぇらならお釣りがきそうだな。精々少しでも高く売れるように色目でも使ってくれや」
ルジェリアは今はその頬傷男を睨むことしかできなかった。
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程なくして、階段を登ってくるらしい足音がいくつもした。
『どうやらここは二階らしいわね。窓から飛び降りても、足を挫いて逃げられないかもしれないわね。まあ、奥の部屋に窓があるかもわからないけど』
ルジェリアは頭を動かす。ルジェリアとモナローズが座る椅子の後ろにはドアがあるが、そちらにルジェリアたちが逃げても問題ないと思われているのだと、考えられる。
『さっき投げた奴らが4人、後ろから殴ってきた奴らが2人。少なくとも6人か。ここには5人ね。武器もなしじゃ無理ね。この建物がさっきのところなら場所は覚えてるわ。アイツらの言う『売られたところ』から逃げる方が楽かしらね』
ルジェリアが考えをまとめている間に、6人の男たちが入ってきた。そのうちの後から入ってきた4人は、さっきの男たちと違い、いかにも戦闘はしなそうな雰囲気だ。おそらく『お客様』であろう。
端の女の子から、それぞれのペースで順々に見ていく。女の子について、顔の造形、体の曲線などをチェックしているようだ。
1番前を歩いていた男が来た。ルジェリアとモナローズの順番だ。ルジェリアの顎をあげて右を向かせて左を向かせる。モナローズも同じようにされた。なんとも感情の読めない瞳をしている男だ。
「やれやれ、上玉にこのような扱いをするとは、商売としていただけませんねぇ。1週間分の損失代を差し引きますよ」
1番男はルジェリアたちから視線を動かさずに、頬傷男に怒鳴るわけではなく、淡々と伝える。
「勘弁してくださいよ。生きがよすぎてこうなっちまったんですよ。コイツらだけ手を縛っているでしょう。へへへ」
頬傷男は媚諂う顔をした。先程までの威張り散らした顔とは違うものだった。
「つまり……やはり商品に傷をつけたのは、貴方なんですね」
1番男は目を細めて頬傷男を睨んだ。
「いや、オレっていうかアイツっていうか」
頬傷男は入口の番をしている半ズボン男を指した。モナローズを叩いた男だ。
1番男は蔑んだ目で二人の男を交互に見た。
「とにかく、これ以上は許しませんよ。すぐにでも店に出すためには、この傷はいただけません」
1番男はそういうと、ルジェリアの口角の血を指で拭った。この男のお陰で売れてから暴力をふられることはなさそうだ。ルジェリアとモナローズは顔には出さないが少しホッとした。
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