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3 お姫様と王子様

 そんなある日の日曜日、ルジェリアとモナローズは、お忍びで王都の下町へ遊びにという名の警邏に出掛けた。二人でのお忍びは慣れたもので、ルジェリアは侯爵令嬢にも関わらずすでに護衛もついていない。いや、遠くにはいるはずだ。


「きゃあ! 助けて!」


 路地裏から女性の悲鳴が聞こえると、ルジェリアとモナローズは躊躇なく路地裏へ飛び込む。その先の方に逃げる女性の姿とそれを追う男二人が見える。ルジェリアとモナローズはそれを追っていく。乱雑に置かれたゴミ箱、積み重ねられた木箱、スムーズには追いかけられない。

 とそこに、ルジェリアとモナローズに向けて、手が伸びてきた。ルジェリアは、一撃目はいなすも、首を取られた。モナローズも同様に、首と右腕を取られている。二人より確実に背が高く体格もいい。相手は男だろう。


「あの男とはわか……」


 ルジェリアを捕まえている男が、何かを言おうとした瞬間、靴の踵で相手のスネを後ろ蹴る。怯んだところで鳩尾に肘鉄!


「うっ……」


 ルジェリアは手応えを感じた。しかし、横から違う男が現れた。ルジェリアの腕を捕まえようとする。


「こんのっ!」


 声を荒らげて捕まえようとしてくる男に、鳩尾に肘鉄を食らった男を向けて押しつける。


「ローズ! 撤退!」


「はいっ!」


 ルジェリアとモナローズは来た道へと全力で戻った。人混みに紛れて追手を振り切る。視線を感じない。振り切ることができたようだ。


 こんなこともあろうかと、最近、靴の踵に鉄板を仕込んだ。靴は多少重いが、この程度で戦闘力が格段にあがるなら二人にとってお安いご用だ。


 ルジェリアとモナローズが、路地裏での事件に簡単に首を突っ込むのも、暴漢に襲われそうになり撃退するのも、これが初めてのことではない。襲われた女性を助けて、その場で衛兵に犯人を引き渡したことも一度や二度ではない。二人のお忍びは、そういう事件を解決することも、本人たちの目的の一つなのだ。


 二人はまわりの気配を気にしながら、人混みの中を歩く。


「さすがに3人の手練を相手にはできないわね。とうとう人数増やしてきたようね」


 ルジェリアの撤退指示に素直に従ったモナローズは、ルジェリアの指示を間接的に褒めた。


「いつもの奴らだったわね。手を抜かれているのがムカつく!」


 ルジェリアは膝を大きく上げて足を鳴らすように歩いて、地面に八つ当たりした。

 ルジェリアとモナローズが二人のときに、何度か同一犯に襲われている。


「アイツらの目的がわからないわよね。今度捕まってみる?」


 ルジェリアはあくまで真面目にそんな物騒な考え方をする。


「それはダメ。手を抜かれているからって、気を抜くのはよくないわ。リアに何もないことが私の1番の仕事なのよ」


 モナローズは少しキツめにルジェリアを諭した。でないと、ルジェリアは本当にやりかねないのだ。


「そうね、ローズ。わかったわ。でも、靴の仕込み、上手くいったわね。ウフフフ」


 ルジェリアは一瞬止まって、踵を道に打った。『カンカン』ありえない音がする。その音に、ルジェリアのニヤニヤは止まらない。


「ええ、これは大成功! あとは、オシャレに見えるナックルがほしいところよね」


 モナローズが、笑顔で右手の拳を左手に打ちつける。モナローズの考えもやはりどこかズレていた。ナックルはオシャレに見えるわけがない。


「また、デザインを考えましょう」


 二人はウキウキとまた歩き出した。


 普通の女子生徒の会話ではありえない言葉がたくさん出ていることには、当人たちはわかっていない。


〰️ 〰️ 〰️


 その半年後の夏休み明け。


「モナ! 聞いた? ロゼリンダ様を巡る恋のバトル!」


 ルジェリアは大興奮でモナローズの肩を揺する。モナローズは揺るがない。ルジェリアに呆れた視線を送る。


「あら? 私が聞いたのと随分とイメージが違うわね。ロゼリンダ様と隣国公爵令息のクレメンティ様が口論なさっているところに、ランレーリオ様が介入したと聞いているわ」


 モナローズは、人の色恋沙汰になど興味もない。しかし、情報は入ってくる。いつもは、それを判断してルジェリアに伝えていく。


「細かい事はどうでもいいわ。

最後はランレーリオ様がロゼリンダ様を連れ去ったのでしょう!ステキぃ!」


 顔の横に軽く握った拳をあて目をキュッと瞑って口角を上げて震える乙女。


「ロゼリンダ様がお逃げになって、ランレーリオ様が追いかけたって聞いたけど?」


 ルジェリアの持つ情報を訂正していくモナローズ。


「姫の手をとって走る王子! ああ! 生で見たかったわぁ」


 ルジェリアたちよりも1学年上のお姫様と言われるロゼリンダ公爵令嬢と王子様と言われるランレーリオ公爵令息は、この国にたった2家しかない公爵家の子女なので、なにかと有名であり憧れの存在であるのだ。


 実際の王子殿下と王女殿下は、まだ7歳にも満たないので、現在の学園内ではお姫様といえばロゼリンダ王子様といえばランレーリオとして噂の種になっている。


「あのお二人は学園の廊下を走ったりなさらないから」


 モナローズは状況分析を正確にして、冷静にルジェリアへと伝える。


「だからっ! それは演出じゃないっ!」


 現実的なことを言うモナローズにルジェリアは唇を尖らせた。


「演出って。はぁ! 公爵家のお二人よ?」


 モナローズはルジェリアの乙女な夢にため息を隠せない。


「お姫様の心をかけた我が国の王子様と隣国の王子様の戦い! あぁ、なんてロマンチックなのぉ! 私も誰かに奪われたーい!」


「いいかげんにしなさい。あんなに優しい婚約者様がいてなんの不満があるの」


 モナローズは怒っているわけではなく、冷静に呆れている。ルジェリアの婚約者は極々普通の好青年だ。


「不満なんてないわ。そして、これからも、不満なんてない。その代わり、何の刺激もないのよ……。

私が卒業すれば、彼と結婚して、子供を産んで、私の人生は終わっていくのよ……」


 ルジェリアは後ろで手を組んで、項垂れる。そして、そこにはない架空の石を蹴るような演技をした。


「とってもステキな人生だと思うけど?」


 ルジェリアのそんな演技は見ないふりに限ることを知っているモナローズは、ノートに目を向けた。


「私はそんなの求めてないわっ!」


 ルジェリアは、腕を前上に突き出し、何かを掴むような仕草をした。一人演劇に浸っている。


「はぁ、本当に、あなたにはあきれるわ、ルジェ」


「『俺についてこいっ!』

そして、二人の逃避行! 

あぁ! 言われてみたーい!」


 ルジェリアにはモナローズのため息は聞こえていないようだ。ルジェリアは自分で自分を抱きしめて、クネクネと悶えた。


 ルジェリアはこんなことを言いながら、婚約者からの手紙は大切に保管してあるし、デートとなれば前日から大騒ぎして服を選ぶのだ。

 モナローズはそれを知っているしそれにつき合されているので、余計に呆れてしまう。


『素直じゃないのか、憧れが強すぎるのか……』


 モナローズは机に肘を付き顎を乗せて、夢見がちな親友を横目で見ていた。

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