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11 犯罪者たちの運命

 そして、人身売買集団の女性競りに参加したザリードだった。今回二度目の参加だ。犯罪者たちには身分は当然バレていない。女性を端から見ていく。2度目でもいい気分にはならない。


 ルジェリアのところまできた。


『うわぁ! 頬、腫れちゃってるよ。これやったやつ、アウトだな』


 ザリードは犯罪者の今後を憂いた。と、同時に、自分たちの今後も不安になった。しかし、それを今更どうにもできない。だが、後ろから木剣で殴られたと報告を受けている。この頬の腫れは説明できない。モナローズへも気を配る。二人とも頬の腫れ以外はなんともなさそうだ。

 なので、さり気ない会話で犯人を聞き出した。やはり、捕まった後にやられたもののようだ。これ以上はルジェリアとモナローズへ手を出させないように客として釘を刺す。


 ザリードもルジェリアたちは最後の競りにしようと提案するつもりだったが、予想しない上玉―貴族令嬢―の登場に、買い手はみな興味が止まらないようだ。ザリードの作戦としては部下を先行潜入させるために、ルジェリアたちを最後にしたかったのでよい方向に進んだ。


 ルジェリアたちの競りは、ザリードの無茶苦茶な釣り上げにより予想より早く済んだが、予想通り金を見せろということになり、犯罪者集団の一人を向かわせた。わざと一人では持てないようにしてあるので、ザリードの部下が数名先行潜入することに成功した。

 元より信用できないとかなんとか文句をつけて一人で持たせる気などなかったので、先行潜入はできる予定だった。


 売買が成立した後に、ルジェリアに暴力をふるった手下男には、ザリードもジッとはしていられなかった。これ以上にルジェリアに怪我をされては言い訳も思いつかない。

 犯罪者リーダーもこれには納得したようで、偶然だが数名の手下を最奥の部屋に向かわせることに成功した。


 さらに、ルジェリアとモナローズの復讐によって、二人を傷つけた犯人がはっきりしたし、リーダーと思われる者が気絶した。作戦成功の確率がかなり増えた。とはいえ、元から失敗する気などないのだが。


 それにしても、相手が反抗する気がなかったとはいえ、ルジェリアとモナローズの攻撃は凄まじいものだった。


「あの方が気に入るわけだ……」


 ザリードは改めてルジェリアを認めた。ザリードの部下も感嘆のため息をついていたほどだ。


 ザリードたちが部屋を出れば、部屋の入口に金を運んだ部下がさりげなく残り、犯罪者たちを外には出さないようにした。奥の部屋には窓がないことは確認済みだ。女性たちを逃さないためだろうが、自分たちも逃げ場がないことに気が付かないのだろうか?

 窓のある左の部屋には、数名の犯罪者一味の手下がいるようだ。そちらから声がする。その窓の下には、すでに近衛兵が待機しているはずだ。

 一階には、前の3人を見送った手下とザリードたちを見送る手下の数名しかいなかった。


 先に帰った買い手3人の馬車には暗部の者が潜んだはずだ。3人が出発すれば、ここは近衛兵に取り押さえられることになっている。

 準備は万端だったようで、ザリードたちが外に出ると入れ違うように近衛兵が入っていった。


 ルジェリアたちを馬車に案内すれば、この暗い中ルジェリアの頬の腫れに真っ先にキアフールにバレてしまい、ザリードは慌てた。ザリードは言い訳をして犯罪者リーダーにすべて押し付けた。きっと、犯罪者リーダーはまともではいられなくなるだろう。

 だが、犯罪としてもそれだけのことをしているし、問題ない。


〰️ 〰️ 〰️


 キアフールたちはルジェリアたちを屋敷に送り、騎士団の取調室に戻ってきた。


「俺がほしいのは一人だ」


 キアフールが取調室の一室に入ってくるなり、椅子に座り相手を連れて来いと言う。


「それが……」


 一応、ザリードたちが先に聴取をしたかったことが本音だ。


「なんだ?」


「そいつは、その……リーダーでして……

すぐに壊すわけには……」


 キアフールに渡してまともで返ってくるわけがないと、ザリードは思っている。


「すぐには壊れさせてやるつもりはないが?」


 キアフールの答えはザリードの上を行く恐ろしさであった。


「あ、なるほどっ! では、部下をつけますが、お渡しいたします。こちらでお待ちください」


 ザリードはキアフールを説得することを諦めた。そして、部下に頬傷男を連れてくるように伝えた。


 ザリードが部下に指示を出して戻ってきた。


「ザリードさん、隣の部屋もお借りしていいですか?」


 予想もしてないヨーゼントからの要望であった。


「はい?」


「モナローズさんを殴った男を隣に呼んでください。私が挨拶をしましょう」


 静かに告げるヨーゼントの言葉に、ザリードは背中をゾクリとさせた。年下の学生にこんな者が何人いるんだと、気が遠のく気分になった。


「え? ヨーゼ。お前、そうだったの?」


 ダリアスもヨーゼントの気持ちには気がついていなかったようだ。


 ザリードは、こんなヨーゼントに陽気に返せるダリアスにもゾッとした。仲介役として、この3人の異様さは知ってはいたが、ルジェリアとモナローズが傷つけられたことで普段の数倍は異様さが増していた。

 まあ、仲間なので頼れるといえばそうなのだが、今後の自分の仕事を考えると、気が重くなるのは、許してもらいたいと思っていた。


 そんなザリードの気持ちは差し置いて、ヨーゼントはダリアスのからかいに真面目に答える


「あの動きとあの忠誠心を見て、心動かない男はエスポジート伯爵州にはいないと思いますよ。

ダリ。あなたに手を出される前に先手を取らせてもらいますよ」


 ダリアスがヨーゼントのこんなに妖しい目を見たのは初めてだった。

 それにしても、モナローズの知らないところでモナローズを傷つけた者を壊してもモナローズに気持ちが伝わることはないのだが、今のヨーゼントにはそんなものは関係ないようだ。


「なるほどねぇ。だけどさっ、モナちゃんが俺を好きになったら勘弁してくれよな」


 ダリアスにとってはちょっとした茶目っ気だった。しかし、ヨーゼントがさらに瞳を凍らせてダリアスの襟首を掴んで持ち上げた。

 何もされていない隣にいただけのザリードが姿勢を正した。


「彼女が他の男に目を向けたなら、その男がいなくなれば問題なくなるとは思いませんか?」


 ヨーゼントの言葉は洒落には聞こえない。ヨーゼントの目が本気だと言っていた。ダリアスはヨーゼントの手をタップしながら訴えた。


「わ、わかったから、離してくれ! そんなやつがいたら全力でそいつのために止めるから、な!」


 ヨーゼントはダリアスを下ろしてダリアスの襟をキレイに直す。


「わかってもらえて助かりますよ、ダリ。

キアルは任せましたよ。殺させないように頼みますね」


 ヨーゼントが目を細めてキロリとダリアスに視線を送る。


「わ、わかってる。まかしとけ。お前も殺すなよ」


「早く殺されたいと願われそうですけどね」


 ヨーゼントは部屋を出て行った。

 キアフールは椅子に座って目を瞑っている。何を考えているのかまではわからない。何せ、こんな状況は初めてなのだから。ただし、纏う空気は、ヨーゼントのそれより氷点下である。


 ザリードは今の時点でこの部屋に部下がいなかったことにホッとした。部下がいたら気迫だけで数名は倒れていただろう。

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