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10 救出作戦会議

 そして、またある日の日曜日、ルジェリアとモナローズは、いつものお忍び警邏に下町へと繰り出す。


 屋台街に差し掛かったところで、帽子を深く被り口にスカーフをしたキアフールたちは、二人の手首を掴み裏手へと引いていった。


「俺につい……(てこい)」


 ルジェリアはキアフールの腕を捻り、背中に回した。


「逃さないわよ!」


「リア! 後ろ!」


 ルジェリアに向けてダリアスが棒が振り下ろした。当てるつもりはない。ルジェリアは、捕まえたキアフールを離して距離をとった。キアフールたちは逃げた。モナローズを捕まえていたヨーゼントもモナローズを突き飛ばし逃げていった。


「ねえ、あれってついてくる気ないよね? ぜぇ、はぁ」


 早歩きに変えたダリアスは後ろをチラリと確認した。追っては来ていないようだ。


「戦闘する気持ちしかないですね。ぜぇ、はぁ」


「ルジェの夢がわからない。はぁ、はぁ」


 ヨーゼントは、キアフールを生暖かい目で見た。


「ねぇ、ルジェリア嬢自身がこんな人生がつまらないって思ってるなら、早く暗部に誘っちゃえばぁ」


 ダリアスの意見に、ヨーゼントはキアフールの目を見て深く頷いた。


「それは……。ギリギリまでしたくない」


 結婚をすればルジェリアは嫌でも暗部の一員になる。それまでは自由にさせてやりたいとキアフールは考えている。



〰️ 〰️ 〰️


 キアフール、3年生の1月


「他国に連れ去られるなんて、かっこいいわよねぇ」


 キアフールは、暗部からの報告書を二度見した。


「た、こ、く??」


 さすがのキアフールも天を仰いだ。


「キアル、そろそろルジェリアさんに現実を見てもらったらどうですか?」


「俺もそれに賛成!」


 ダリアスがキアフールのベッドに寝転び手をひらひらさせて、賛成の意思を表した。ダリアスは半年も前から、ルジェリアたちを暗部に誘うことを提案している。


「結婚すれば、抜けられないのだ。今は自由にさせてやりたい………」


 キアフールの切実な思いに、ヨーゼントもダリアスも何も言えなくなった。


〰️ 〰️ 〰️


 さすがに他国に攫うなどという技は思いつかずにいたところ、本物の事件が起こった。


 キアフールの元へ届いたザリードからの連絡手紙で、キアフールたちは急いで作戦会議に使う館に集まった。館の応接室のソファーに腰を下ろす。


 ザリードも同じくらいに到着しすぐに報告された。


「ルジェリア様とモナローズ様が監禁されました」


 ザリードは報告書に目を落とす振りをして、キアフールと目を合わせなかった。


「は? どこで?」


 キアフールの眉間はこれ以上ないほど寄っている。普通の人ならその顔を見ただけで失神するだろう。


「現在内偵調査中の人身売買集団の館です。少女たちが連れ込まれるのを見かねたルジェリア様とモナローズ様が助けに入られ、その際、多勢に無勢だったようです」


「護衛は何をしていたのですか?」


 ヨーゼントが物静かなのに凄みのある声で、当たり前のように聞く。


「いつも遠くからの護衛でしたので、間に合わず……」


 キアフールは確かに、『遠くから護衛している』という報告は受けていた。


「護衛たちも内偵調査中のところには踏み込めなかったわけね」


 ダリアスが状況を理解して口にする。ここについての内偵調査は、キアフールたち3人も大いに関わっていた。


「はい……」


 ザリードが申し訳なさげに頭をさげる。ザリードの役目は主に暗部と近衛とのつなぎだ。まだ近衛につなぎきっていない案件に踏み込ませるわけにはいかなかった。


「中の様子は?」


 ヨーゼントが話を進める。キアフールは腕を組んで目を閉じていた。その静けさがまた威圧感を増していた。


「特にまだ動きはございません。潜んでいる者には、万が一、ルジェリア様のお命に関わることになれば、何をしても構わないと言ってあります」


 人身売買の不良ども相手なら、潜んでいる者たちだけで、充分に勝てる。だが、そうなると、ここまでの内偵調査はほとんどが無駄になるかもしれない。


「やつらからのザリードさんへの連絡は?」


 ダリアスが状況を確認していく。


「予定通り、今夜だと聞いております。そのための少女たちの移動であったと考えられます」


 今夜、娼館のオーナーと偽ったザリードが潜入する予定だ。


「現場としては、お二人はどうなると予想してるのですか?」


「おそらくメイン商品になるかと……」


 『ダン!!バキッ!』


 キアフールが踵でソファテーブルを割った。


「はぁ、何回目だよ……」


 ダリアスが自分の前のテーブルを見て、ため息を漏らした。


「も、申し訳ありません!」


 ザリードが思わず謝る。


「現場は悪くないと思いますよ。キアル」


 ヨーゼントの小さな叱責に、キアフールは落ち着きを取り戻す。


「わかっている」


「姫、念願の他国にいけるんじゃね?」


 『ダン!ガッタン!ダン!』


 テーブルの半分がキアフールの蹴りで壁まで吹っ飛んだ。


「ダリ、死にたいみたいだな」


 せっかく落ち着きを取り戻したのに元の木阿弥だ。


「今のはダリが悪いですよ」 

 

 ヨーゼントがキアフールの肩に手を置いて、今度はダリアスを叱責した。


「あー、すまんすまん。あまりに悩ましくてよ。さて、どうすっか?」


「ザリード、予算を2万持っていけ。絶対に他のヤツに落とさせるな」


 キアフールが静かに即断した。


「2万……ですか……」


 少女の人身売買なら、高くて150ほどだ。少女が100人も買えてしまう。ここまでの内偵調査で、その相場もキアフールは、もちろん知っている。キアフールにとってその価値があるということなのだろう。


「足りない予想か? それとも用意ができないのか?」


 キアフールはザリードの驚きを逆にとるほど、ルジェリアの価値を高くみている。


「充分かと。用意はさせます。今夜は近衛も動かしますので、侯爵殿にも報告と予算をお願いできます。ですので、大丈夫です」


 ザリードが頭を下げた。


「適当に他の女性を買うのも忘れないでくださいね。変な疑いをもたれないように頼みますよ」


「了解しました」


「我々は近くにいるから頻繁に連絡をよこせ」


 キアフールの提案に3人は驚いた。


「え? 行くのか? お前の仕事は内偵までだったろ? 当日は、本部と近衛に任せることになってるぞ!」


 ダリアスはキアフールの側近として注進した。


「ルジェが捕まっているのにか?」


 キアフールの視線は本気でダリアスを射殺しそうだ。ヨーゼントがダリアスの肩に手を乗せる。


「わかったよ。だが、お前が出るのは、ザリードさんたちが失敗してしまった場合だけだ。そうじゃなければ、馬車待機、いいな!」


 キアフールも側近の注進を無視するほど愚かではない。


「わかった……」


「と、いうわけですので、万全な演技で頼みますね、ザリードさん」


「はっ!」


 ザリアードは神妙な面持ちで敬礼した。ザリアードは心臓をグッと握られたような気分だった。


 すべては、ザリードの潜入にかかることになった。

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