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第八話 森を行く

 森を行く


 屋敷のある広場を出発して、半日近くが過ぎ、昼食の時間となった。

 ミナが出発前に持たせてくれたボワ肉のハムサンドとサラダサンドを私のマジックポーチから取り出し、皆に配る。

 私だけ、世界樹の実のサンドなのは、言うまでもない。


 どうやら、私が使っているマジックバッグやマジックポーチは、裕福な者たちには、それなりに普及しているらしい。

 エリスもこの調査のために、一つ持って来ているようなので、隠して使わなければならないほどの貴重品ではないようだ。

 もし、かなりの貴重品なら危ない目に合うかもしれないところだった。


 昼食を終えて、再び歩き出す。


 私たちの周囲には、警戒のために連れてきたコロボールが転がり跳ねている。

 ボールと言えば、七つ集めておかないといけない気がしたのでコロボールの総数は、七体だ。

 今回は、街で何が待っているかわからないので、全てのコロボールを連れてきた。


 コロボールの大きさは、ほぼサッカーボールの大きさと同じ程度で、表面の感触は、堅いゴムボールかタイヤのような感触になっている。

 攻撃手段となる電撃を放つ部位は、サッカーボールで言うところの空気の注入口のような部位があり、そこから放電するようだ。

 色は、赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色の七色で、それぞれにイチロウ、ジロウ、サブロウ、シロウ、ゴロウ、ロクロウ、シチロウと名前も付けている。

 コロボールは音声は出さないが警戒音を出し、必要な情報を流したいときは、ボールの一部に小さめのモニターが付いており、そこに文字が表示される仕様になっている。

 さらに、同じ所有者のコロボール同士は、通信機能が使えるようで、連携や連絡手段にも使えるそうだ。

 あくまで、子供の遊び相手が基本コンセプトのコロボールなので、見守りに必要な機能と言ったところなのだろう。


 コロボールのモニターに表示される文字は、コロボールが製造された世界、異世界ノルンの文字なので、こちらの世界の住民には読むことは出来ない。


 今更だが、私が、地球以外の世界の文字や言語を理解できるのは、エストナからギフトとは別にもらった言語理解能力のおかげだ。

 これのおかげで、エストと地球以外の異世界の言語まで理解できてしまうことには、本当に助かっている。


 しばらくすると、コロボールが集まり始め、警戒音をピーと出し始めた。


「コロボールたちが、何かを警戒しているようだ。皆、戦闘態勢に入れ」


 エリスは、コロボールのことを、やたらと性能の良いゴーレムだと理解したようで、信用してくれているようだ。


 バサッと木々が揺れる音がしてサイズマンティスが三体現れた。

 人の大きさほどあるカマキリの魔物で鎌がやたらと鋭いのが特徴だ。

 食べられる部位がないのが残念だが、鎌だけは、切り取ってから、加工をし直せば、草刈鎌程度には役に立つ。

 だが、試しに一度、草刈り鎌を作ってみたが、面倒なので、その後は作っていない。


「魔法準備開始。目標は、最も手前のマンティス。一斉射撃後剣を持って攻撃をせよ。ルドルフとイワンは、残りの二体に一人ずつ張り付き、足止めを頼む。それでは魔法、放て!」


 エリスの指示にあわせて、兵士たちが攻撃を開始する。

 私も魔剣を抜き、エアカッターを放ってから、近接先頭に入る。

 ルドルフとイワンは、マンティスに押され気味なようなので、コロボールたちを向かわせる。


「コロボールたち、ルドルフとイワンに協力し、足止めのフォローに入ってくれ」


 私の指示に従い、コロボールたちも戦闘に参加する。

 こいつら、私の言葉をどう理解しているのだろうか、話しかけている時だけ、コロボールたちの世界の言葉になっていたりしてな……。


 そのうちに一体が倒され、二体目、三体目と倒された。

 傷ついた者たちにヒールを掛けて戦闘はすべて終了した。


「こんな感じでな、中層の魔物が下層に現れてきて、下層の魔物が森から出てきているのだ。下層の魔物とは言え、強力な魔物もいるから、油断できない」

「ここは、もう下層なのですね。貴族になるかは、別問題として、これを何とかするのが魔女の後継者としての私の役目になるのでしょう。対処方法を考えておきます」

「ああ、よろしく頼む」


 その後、エリスが言うには、このまま歩き続け、夜になったら森の中で野営をして、翌日の日が沈む前には森を抜けるとの話だ。

 エストナの話では、一日ほどで森は抜けられると聞いた覚えがあるのだが、何か違うのかもしれない。

 この場合、実際に森を抜けてきたエリスの方を信じて、エストナの方を疑った方が正しい気がする。

 例えば、人の歩く速度を読み間違えていたり、森の中だということを織り込まず、単純に直線距離だけで一日程度と言ったのかもしれない。

 さらに、昼夜を問わず歩き続けての一日程度と言う可能性もある。

 エストナは、細かい事情まで話さずに私をこの世界に降ろしたのだから、文句を言う機会があれば、しっかり言っておきたいところだな。


 その後もグレーウルフの群れやホーンベアと遭遇し、戦闘をしたが、擦り傷や軽い打ち身程度の負傷者ばかりだったのでヒールで回復させていった。


 そうして、野営ポイントに到着した。

 ミナからの食事は、この夕食まで作ってもらってあったので、皆にビーフシチューを配った。

 ビーフシチューと言うのだから牛肉が使われており、フォレストバッファローと言う魔物の肉が使われている。

 ウシが森の中で突進してくるのは、かなりの迫力があったが、土魔法で落し穴を作ると、すぐに落ちてしまうので、見つけたら反射的によだれが出てくる程になってしまった悲しくも美味しいお肉さんたちだ。

 そんなビーフシチューをいただいていると、エリスが近くに来た。


「屋敷から離れての野営だが、大丈夫か?」

「私が来た頃のあの広場は、何もなかったんですよね。いくつか便利な道具はありましたので困ることはなかったのですが、最初の夜は、屋根もなく壁もないただの広場の真ん中でマントにくるまって寝たのをよく覚えています」

「あの屋敷は、初めからあったわけじゃなかったのか……」

「そうなんです。魔法を駆使して少しずつ立てて行きました。おかげで魔法の制御は、随分と上手くなったと思っています」

「確かに、魔法の制御は、見事だと思う。それに威力もかなりのものだ」

「幸い、魔力は多かったようでいつも多めに魔力を注いでいますから、それで威力も高めなのかもしれませんね」

「そういうものなんだな。それと剣術も森の中にいたとは思えないほどに洗練された動きに感じたのだが、どこかで修業したことがあるのか?」

「剣術は、メイドのミナから教わっています」

「ミナ殿もただ者ではないのだろうな。やはり、魔女殿は、私たちが知らないどこかからユウキ殿たちを呼び寄せたのだろうか」

「私の出身国は、ニッポンと言うのですが、どこかで聞いたことはありませんか」

「うーん、近い響きの言葉はある。古語なんだがニーホンやヤーパンなどだな」

「意味は、何になるのです?」

「遠い地や、伝説の地、と言う意味になっている。だが、他の言葉で同じ意味を持つ言葉もある。メリカやブラジとかだな」


 どう考えても、私より先に転生した人物たちの出身国の名前だな。

 ニーポンやヤーパンがあるのなら、フソウも日本語の【扶桑】が元の言葉になっている可能性もありそうだ。


「興味深いですね。その辺りの事は、知らないので、街で調べられそうですか?」

「街には、図書館もあるから、そこで調べられるな」

「街に着いたら行ってみたいと思います」


 それからもエリスから、図書館の話を聞いていった。

 フソウ王国は、学問に熱心な国らしく、王都の図書館は、周辺諸国と比べて圧倒的に多い蔵書量を誇っているらしい。

 興味深いが、王都に行くのも今の私では、大変そうだ……。


 そんな話をしているうちに、就寝時間となった。

 それなりに疲れているので、すぐに眠れそうだ。

 夜の見張りは、兵士たちがしてくれることになったが、コロボールたちが寝ずの番をしてくれることも言ってあるので、夜の森の野営でありながら、穏やかな雰囲気の野営となっている。


 夕食の前に組み立てておいた地球の一人用のドームテントに入り、クッションシートを敷いてから寝袋に入って眠りについた。



 そうして、朝がきた。

 夜の間に、ヘビの魔物が何体か襲ってきたようだったが、コロボールたちが電撃でこんがりと焼き上げたそうで、見張りをしていた兵士が、夜のうちに食べてしまったそうだ。

 肉類は、案外充実した生活をしているので、この世界に来てヘビを食べたことはなかったが、ヘビの蒲焼も美味しそうだ。


 そんな話を聞きながら私は、バランス栄養食で有名なカロリーメイルと世界樹の実で食事を済ませ。出発の時となった。


 その後も魔物にも何度か遭遇し戦闘となったが、全員無事に陽が高いうちに森の終わりに辿り着き、さらにしばらく行ったところで二日目の野営となった。

 二日目の野営では、森の中で倒したワイルドボアがメインとなり、豪快なバーベキュー大会となった。

 そして、私たちは、森の屋敷を出てから三日目の昼前、街に辿り着いたのだった。


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